出張先で嵐に遭遇編 -駿side脳内再生-
大阪での業務が終わり、担当の方々と打ち上げをしてホテルへと戻る。
冷蔵庫の中のビールを一缶開けて喉を潤していると無性に羽田と二人で話したくなった。
暫く考えたが大阪最後の夜だと思うと余計にどうしても羽田と会いたい。
さっき別れたばかりなのにな。
俺の美優好きがこんなに抑えきれないとは…
もう「好きだ」と告ってみるか。
いや、振られたら帰りの新幹線が地獄だな…
羽田に振られたら立ち直れる気がしない…
告るのは東京に戻ってからにしよう。
ああ…俺ってこんなにビビリだったか…
「取り合えず電話してみよう」
部屋付きの電話を取ってみたけど、部屋番号がうろ覚えだったのでスマホに切り替える。
スマホの画面に『羽田 美優』と名前が表示されているのを見ただけで顔が緩む。
あれ? 出ないな…
後でかけ直そうと思っていたら
「もしもし…」
と息を切らすように羽田が応答してくれた。
「なあ、このホテルの最上階にバーがあるんだけど飲みに行かないか?」
「でも、今お風呂入ってて…」
「風呂? 今?」
「そう。電話がなってたから慌てて出てきたの。」
今、裸なのか…?
俺は中学生男子の様に羽田の全裸を想像してムラムラとしてしまった。
ヤバい。変な間ができた…
「じゃあ、あと30分したら…で、どう?」
我ながら必死だ。どうしても今夜中に羽田の顔が見たい。
「わかった。支度出来たら連絡するね。」
俺は電話を切って「イエス!!」と握り拳を突き上げながら叫んでしまった。
30分なんて仕事をしてるとあっという間なのに、この時の30分は何年も待つほどに長かった。
風呂上がりの羽田がどうしても頭にチラついて離れない。
どうした…俺。 中学生でもあるまいし…
女性経験が乏しい訳でもないのに、羽田の事となると…
確かにここ数年は、羽田に片思いしていて彼女がいたのはもう数年前の話だけど。
お、そろそろ30分過ぎたな…
部屋にいてもそわそわしてしまいスマホと財布だけ持って羽田の部屋のドアの前に行く。
ゴールデンウィークが近い事もあって、大阪で大きなイベントがたくさん催されているらしく、
多くのホテルの宿泊客が頻繁にエレベーターから乗り降りしている。
手に持っていたスマホがブーブーと震え出し、名前を確認すると『羽田 美優』と表示されていた。
「もしもし。羽田です。ごめんね。お待たせしました。」
運悪くこの時エレベーターを待つ外国人観光客が大声で喋っていた。
「なんだか、ざわざわしてるけど今部屋? 誰かいるの?」
「いや…テレビ…かな…」
誤魔化しきれなかった。というのも、外国人観光客が呼んだエレベーターが到着して、それを知らせる「キンコーン」という音が鳴り響いてしまったからだ。
「え? もうエレベーターホールにいるの? ごめん。急ぐね。」
「いや…今来たところで…」
到着音から逃げるように羽田の部屋の前まで来た時に丁度ドアが開いた。
あ……万事休す……
テンパった俺は切れていない電話越しに羽田に
「エレベーターホールってすぐそこだしさ…迎えに来た方が早いかと…」
と意味の分からない言い訳の上塗りをした。
「そんなに飲みたかった? ごめんね、待たせちゃって。」
上へと上がるエレベーターの中では羽田と二人きりだったせいか、ドキドキして何も喋れなかった。
落ち着け、俺。
最上階のバーは綺麗な夜景が望める雰囲気のいい店だった。
カクテルで乾杯し改めてお酒で僅かに頬が染まる羽田の可愛さに見惚れていた。
********************
「今日は俺の部屋に来いよ。」
「でも…」
「一緒にいたいんだ。」
「駿…」
カクテルを飲み終えた俺は羽田の手首を掴み、エレベーターに乗り込む。
ドアが閉まりきる前に堪え切れず羽田にキスをする。
「ん……」
羽田の部屋の前を通り過ぎ、自分の部屋へと引っ張り込む。
「お前が欲しい。」
服を脱がせ下着へと手を伸ばす。
羽田をドアに押し付け、露わになった美しい胸を弄ぶ。
激しいキスをしながらベッドへと移動しそのまま押し倒し羽田の上に覆い被さる。
「美優…」
********************
酒のせいか、妄想の暴走も進んでしまう。
妄想ばかりで会話も弾まなかったし、熱い視線を送っても羽田はなんだかボーっとしていて楽しそうには見えない。
何やってんだ、俺。
せっかく羽田が目の前にいるのに…
「羽田…そろそろ帰るか。」
「あ…うん。」
エレベーターを降り、羽田が自分の部屋へ帰るのが寂しい。
『俺の部屋へ来ないか?』
一言でいいんだ。
言え! 言えよ、俺!
「どうしたの?」
「あ、いや。なんでもない。じゃ、おやすみ。」
部屋に戻ると自分の不甲斐なさに落ち込んだ。
はぁ~…
俺、こんなに情けない奴だったのか…
ベッドに入ってもなかなか寝付けず、頭の中は羽田の事でいっぱいだった。
翌朝、あまり深い睡眠を得られず眠る事を諦めて起き上がる。
コーヒーを飲みながら帰りまでの時間をどう活用するかを考えることにする。
「問題は荷物だよな。」
フロントに電話をしてチェックアウト後にも荷物を預かってもらえるのか確認を取る。
「有難うございます。じゃあ、宜しくお願いします。」
残りのコーヒーを飲み干すと羽田から連絡が来た。
「おはよう。今日チェックアウト後にどうする?」
「このホテルに荷物を預けられるみたいだから、少し街に出て帰る前に荷物をピックアップしにくるっていうのはどう?」
「いいね。そうしよう。」
「支度は出来てるのか?」
「うん。もう出れるよ。」
「じゃあチェックアウトして朝飯食いに行くか。」
昨夜、眠れなかったのをいい事に、今日の大阪の最後のデートの行先を詳細にリサーチした。
羽田には喜んでもらいたい。
俺と一緒にいて楽しかったと思ってもらいたい。
まずは、朝食。
ここから歩いてすぐの店だな。
予想外の出来事が起きる。
急な雷雨に見舞われてしまった。
「そう言えばさっき天気予報で、今日春の嵐って言ってた。」
「まじか。ごめん。リサーチ不足だったな。」
肝心な天候については何も考えてなかった。
仕方なく雨宿りのために近くの店に入る。
折角朝食の店を考えてたのにな…
嵐のせいで、予定外の店で足止めを食らってしまった。
羽田がスマホを見ながら何かを調べている。
「大変! 岐阜羽島と名古屋の間に落雷があって新幹線が全面運休になってる。復旧の見込みがないって。」
「今日中には帰れないってことか?」
「どうする?」
「ホテルに延泊出来ないか聞いてみよう。」
俺はホテルに連絡を入れながら
まだ羽田と一緒にいられる。
と、この緊急事態において考えてはいけないことを考えてしまった。
「そうですか…わかりました。
みんな考える事は一緒だな。もう満室だそうだ。他のホテルも片っ端から調べてみよう。」
「そうだね。」
なんとしてでも今日の宿を確保しなくては…
もう一日二人で過ごすためには今晩の宿は絶対条件だ。
「出遅れたな……周辺で大きなイベントがたくさんあったからな。」
泊まっていたホテルに荷物をピックアップしに行ったついでにもう一度交渉してみたが断られてしまった。
新大阪駅周辺へコマを進めつつ、ホテルの空室状況を調べるも全敗が続く。
移動で濡れた服や髪が四月の肌寒さを助長させる。
このままでは羽田が風邪をひいてしまう。
取り合えずどこかの店で暖を取ろう。
二人で駆け込んだのは古いけど清潔で温かみのある洋食屋さんだった。
有難いことに店内は暖房が効いていて居心地がいい。
少しの間ここに居させてもらいながらホテルを探すか…
ネット社会で予約も空き状況を調べるのも簡単な世の中でこんなにも苦労するとは…
辺りはとうとう暗くなってきてしまった。新幹線の復旧の知らせもない。
街はネオンに彩られ始めた時、俺は見つけてしまった。
あ、ラブホが空室だ。
そう思った途端に口をついて出てしまった。
「あ、空室…」
羽田も振り返ってその文字を確認する。
「あれって…」
そのまま黙ってしまった羽田に
「背に腹は代えられなくないか?」
と説得を試みる。
ラブホに二人で停まるという事は…
間違いが起こっても仕方がないということだよな…
「でも……」
そりゃ、女性にとっては貞操の危機なんだから抵抗するよな。
「心配するな。何にもしないよ。」
我ながら必死だな。
「心配はしてないけど…」
心配してないのかよ…
そんなに俺の事眼中にないのか?
「…俺にとってはかなりの修行の場になりそうだけどな…」
疲れのせいかまた小声が口から出てしまった。
「え? 何か言った?」
「いや、何も。」
「分かった。行こう。寒いし、お風呂入りたい。」
よかった。羽田が承諾してくれた。
でも、何もしないって言っちゃったな、俺。
部屋を選んで鍵を貰う間、俺はもう羽田と二人で同室に泊まることに舞い上がっていた。
ドアが閉まり荷物を置きながら羽田の事を抱き締めたい欲求と戦っていた。
今晩一晩、ずっと俺は戦い続けなきゃいけないのかよ…
堪えられるのか?
煩悩を消し去るために何か平和な事を考えようとするが、好きな女と二人でラブホに泊まるという事がどういうことなのか、と自問自答してしまう。
「ますますびしょ濡れだな。先に風呂入れよ。」
物理的に羽田と距離を取ろうとそう言った。
羽田は「ありがとう。」とだけ言って浴室へと駆け込んだ。
あいつも緊張してるんだな。
俺の事意識してくれるのは有難いけど…
塗れた服がブルブルっと寒気を呼び覚ましたので服を脱ぐ。
寒いな…
下も脱いじゃうか…
でも下着の中が大きくなったらすぐバレるな。
煩悩と理性の間で藻掻き苦しんでいると早々に羽田が風呂から戻ってきた。
「ちょ…ちょっと…ここで脱がないで…」
「ああ、ごめん。服が濡れて冷たかったから。」
バスローブと髪にタオルをかけた羽田が真っ赤な顔をして視線を避けるようにしている。
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「美優。こっち来いよ。」
俺は羽田に向かって両腕を広げる。
真っ赤な顔の羽田が俺の胸に飛び込んでくる。
俺は羽田を抱き締める。
「まだ髪が濡れてるな。乾かしてやるよ。」
ソファの端に座わって足元に来る様に手招きをすると、羽田はちょこんと納まるように座る。
「綺麗な髪だな。」
長い髪を丁寧にコームを使って乾かす。
「よし。乾いた。」
ドライヤーをテーブルに置いた途端に愛おしさが溢れて後から抱き締めて首すじにキスをしてしまった。
「成田…何もしないって…」
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そうだ…俺、何もしないって約束した。
言わなきゃよかったな。
撤回してもいいかな?
でも嫌がられたら…
風呂から上がると羽田がこっちを向いて、また赤い顔で視線を反らした。
羽田の髪が濡れてる…
俺はさっきの妄想通りに乾かしてあげようと思った。
「あれ? まだ髪が濡れてるじゃないか。俺が乾かしてやるよ。」
「え?」
ドライヤーを持ってくると羽田は素直に俺の足元にちょこんと納まってくれた。
美優…可愛すぎるだろ…
丁寧に乾かしながら上から羽田を見下ろすと、バスローブの合わせから豊満な谷間が目に入る。
無意識に胸元に手を伸ばしそうになって慌てて止めた。
やばい…落ち着け…
成田の願いも空しく、成田のナリタ君が元気になってしまった。
「ごめん。ちょっとトイレ。あとは自分で乾かして。」
俺はトイレに駆け込みナリタ君を鎮める行為に勤しんだ。
「うっ…」
クチュクチュという音と発射時の声はドアの向こうから聞こえてくるドラーヤーの音でバレてはいないだろう。
なんで羽田を目の前にして、自慰しなきゃいけないんだよ…
これから朝まで何時間も我慢しなきゃいけないってどんな酷な修行だよ…
もうさっさと寝よう。
トイレから出ると羽田もちょうどドライヤーをかけ終わっていた。
「寝るか。」
と布団を捲ると
「そ…そうだね。」
と羽田は端の方に横になった。
「そんな端じゃ寝てる間に落っこちるぞ。」
「あ…うん。」
羽田がベッドの真ん中にズリズリと移動してくる様子を見てると、こっちまで緊張する。
あっ……バスローブが思いっきり開けてる。
もうちょっと黙っててじっくり見ようかとも考えたが、またナリタ君が成長しても困る…
「バカ…お前…俺を殺す気か…」
羽田は自分の様子を確認すると
「きゃーー!! ごめん。」
と俺に背を向けて布団を被ってしまった。
そんなの見せられて手を出せないなんて…
据え膳食わぬは男の恥って言うじゃないか…
どうするか…
抱きしめてみるか…
あああああぁ…どうしよう……
結局布団の中ではナリタ君がこの上なく成長していた。
葛藤して眠れないまま長い長い夜を過ごすことになった。