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終電逃してお泊り編 -美優side脳内再生-

「じゃあ、俺帰るわ。」

太一が足早に駅の改札へと吸い込まれていった。


残された成田と私はお互いに顔を見合わせた後、まだ成田に腕を持って支えられていることに気付いた。

「あ、ごめん。ありがとう。」

と言いながら離れようとしたけど、

「まだフラついてるじゃないか。危ないから支えてやるよ。」

と腕から手を放し、腰に手を回された。

ふいを突かれてピクリと反応してしまった私の顔を覗き込む。

「そういえば、羽田は終電大丈夫なのか?」

「あ……」

行ってしまった。10分ほど前に私の最寄り駅まで辿り着ける電車が行ってしまった。

「どうしよう…タクシーで帰ろうかな?」

そうは言っても、今月はちょっと経済的にキビしくてタクシー代が痛い。

「お前さえよければ俺んち来るか?ここから近いし。」

私の家は東京の外れだけど、成田のようなスーパーエリートはこんな都心に住んでいるんだろうか?

「え…でも…」

「あ、何気にしてんだよ。何もしねえよ。

信用できないなら寝ないで始発で帰ればいいし…」

「いや、信用してないなんて…そんなことないけど…」

「じゃあ、行こう。」

と何となく上機嫌になったような成田についてタクシーに乗る。

「広尾まで。」


広尾? そんないい所に住んでるんだ…


タクシーは白くて瀟洒(しょうしゃ)なマンションの前で停まった。

エントランスに入るとコンシェルジュが常駐していて高級感が漂っている。

私はついついキョロキョロとしながら成田の後を追ってエレベーターに乗り込む。


え? 最上階?


ペントハウスには1部屋しか存在しない。


なんでこんな凄いマンションに住んでるの?

成田って何者なの?


玄関にカードキーを差し込み、中に入ると広いリビングの向こうに東京の夜景が広がっている。

「凄い…何、この部屋? どうしてこんな都心の好立地のマンションの最上階に住めるの?」

あまりの驚きに思っていた疑問を全部ぶつけてしまった。

成田は恥ずかしそうに頭を掻きながら

「実は俺、親が金持ちなんだよ…」

それにしても、もしかしたら家賃7桁いってそうなマンションに一人暮らしって並大抵の金持ちじゃ無理でしょ。


「夜景綺麗…こんな素敵な所に住んでるなんて…凄い!」

「バルコニーに出てみる?」

「出たい!!」

「遅い時間だから静かに…な。」

「そっか、そうだね。」


一歩外に出てみるとまだ冷たい四月の風が肌に突き刺さる。

身震いしていると成田が後ろから私の肩にブランケットをかけてくれた。

「ありがとう。」

小声でお礼を言ってまた視線を夜景に戻す。

「寒くない?」

「うん。大丈夫。これ温かいから。」

なんだか突然のあり得ないシチュエーションが嬉しくなってしまって、自然に笑顔になる。

「凄いね。ホント凄い。毎日見てるんでしょ、これ?」

「いや、住んでるとそんなには…そんなに喜んでもらえて俺も嬉しいよ。」

成田は真っ直ぐ私を見つめる。


 ********************


「羽田。こっち向いて。」

成田は私にかけてくれたブランケットに自分も包まる。

「二人で包まると温かいね。」

「しっ。黙って。」

成田の顔が近付いてくる。

私はそっと目を閉じて、成田のキスを受けとる。

舌が絡まりピチャピチャとイヤらしい音を立て始め、うっとりとそのキスに答えながら成田の意外と厚い胸板に手を這わせる。

二人で激しく求め合って、気付いたらブランケットが落ちてしまっていた。


 ********************


またもやTLによくあるシチュエーションの妄想をしてしまった。

ふと我に返ると、口が半開きで上唇に自分の舌がねっとりとくっついていた。


うわっ…これ、何を妄想していたかモロバレなヤツ…

おまけにホントにブランケット落ちてるし…


ふと成田の方に目をやると夜景を見ながらボーッと何かを考えているようだった。


よかった。今回はバレてない。

「そろそろ入らない?」

と声を掛けると成田がハッとして

「そうだな。」

開けてくれたガラス扉から部屋に戻る。

室内の暖かさに少し冷えた体が溶けていく。


「風呂入るか?」

「あ、出来たら…」

「ちょっと待ってろ。お湯溜めて来るから。」

成田がいない間に周りをキョロキョロしてしまう。

見れば見るほど凄い部屋だ。

でも男の一人暮らしの割にキチンと片付いている。


彼女にでも片付けさせてるのかな?


そう思うと同時に胸がチクンと痛んだ。

「風呂の準備出来たからいつでも入れるぞ。

あ、そうだこれ洗ってあるからキレイだと思うけど、よかったら…」

成田は自分のTシャツとスエットを差し出してくれている。

「あ…ありがとう。じゃあ、借りるね。」

受け取った部屋着はきちんと畳まれていて、とても成田が畳んだようには思えない。

「あの…部屋も凄く綺麗だし、洋服も畳み方が綺麗だよね。」

「ああ、それは俺じゃなくて宇部さんがやってくれるから…」


宇部さん…? 誰?


「俺自身はズボラだけど、宇部さんはきっちりしていて…女性ってきちんとしていてホント助かるよ。」


やっぱり女性の影あり…か。

堂々と女性の存在を明かすなんて私の事は眼中にないってことだね。


「ああ、女性って言っても65歳の家政婦さんだよ。」

「家政婦さん?」

「ああ、毎週2回来てもらって掃除も洗濯も料理の作り置きもしてもらっててさ。昔から…俺が子供の頃から世話になってる。プロの仕事って凄いだろ。」

その言葉になぜかホッとする。

「一緒に入るか?」

「え?どこに?」

「風・呂。」

いたずらっ子のような笑顔で私を困らせるような事をわざと言うこの王子。

「いじわる。でも一緒に入ってもいいけど?」

「え!?」

「う・そ。一緒に入る訳ないでしょ!」

小悪魔返し。

「じゃあ、お先にお風呂入りまぁす。」


なにこれ?

高級ホテルの浴室みたい。


生活感のない脱衣スペース、色の揃ったタオルがきちんと畳まれた見せ収納、洗面台が並んで二つ、洗濯機は隠し収納されている。


うわぁ、こんなお風呂初めて。


浴室の中に入ると大きな浴槽にジェットバス、天井には打たせ湯が出て来そうなノズルが見える。


一人で入るには広すぎるくらいね。


ゆっくりとお湯に浸かりゆったりまったりしていると、脱衣所のドアがガチャっという音を立てた。


何?

成田のヤツ、本気で一緒に入ろうとしたのかな?

ああ、鍵かけておいてよかった。


お風呂から上がって成田の部屋着を着る。


ちょっと大きいな。

ふふっ、TLでよく見る『彼シャツ』みたい。


ドライヤーで軽く髪を乾かした後、成田のいるリビングに向かう。

「ありがとう。気持ちよかった。お風呂も広くて素敵だった。

…っていうか成田、入ってこようとした?」

成田は私を上から下まで見てふいっとソッポを向いてしまった。

「そんなことする訳ないだろ。」

「ふ~ん、そうなんだ…じゃああの音は何だったんだろう? ね。」

成田のバレバレの嘘にこれ以上は触れないであげようと思った。

「お…俺も風呂入って来るわ。」

「うん…」


なんだか急にこのシチュエーションにドキドキし始めた。


これから一緒に寝るんだよね…

まさか…


 ********************


「羽田、おまたせ。

寝室はこっちだ。」

「あ…うん…」

寝室のドアを閉めるなり成田は私を激しく抱き寄せる。

「ずっとこうしたかった……美優…」

「名前…呼ぶなんてズルい…」

そのまま抱き上げられベッドへと連れて行かれる。

「重いでしょ。降ろして…」

「重くなんかないよ。まだ少し髪が濡れてるじゃないか。」

そう言いながら私の髪をすくいキスを落とす。

ベッドへと横たわった私の傍らに逞しい片腕を立て、もう片腕は私の両手首をしっかりとホールドしている。

「美優、好きだ。抱きたい…」

「そんな…ああぁん…」


 ********************


「ふぅ。さっぱりした。」


あっ…出て来ちゃった…


「じゃあ、寝るか。羽田はこっちのベッド使うだろ?」


ん?あれ?寝室が二つ?

流石豪邸…


「じゃ、おやすみ。」

成田はゲストルームのベッドに私を残し、自分の部屋へと入っていった。




次回は明日18時更新予定です。

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