いつもの散歩道
わしは毎日婆さんと同じ道を散歩するのが日課になっとる。
わしも婆さんも80歳を越えた。
歳を取ると足腰が弱ると言うから、毎日散歩は欠かさんようにしとる。
今は夏で木々が青々と繁っておるが、秋になると段々木々が赤く染まり、季節毎に違う景色が楽しめるのじゃ。
そんなある日、犬の散歩をしている女性が前から歩いて来たのだ。
わしは「こんにちは、可愛い犬ですな」と声を掛けたんじゃ。
すると女性は「有難う御座います、太郎と言うんですよ」と言った。
わしは「婆さん、太郎というんだそうだ」と婆さんに話し掛けると、婆さんはニコニコ笑っとった。
しかし、女性は怪訝な表情をしてお辞儀をして行ってしまった。
わしは「何か悪い事を言ったかのぅ」と婆さんに聞くと婆さんはただニコニコしていただけだった。
その夜、婆さんの夢を見たんじゃ。
婆さんは寂しそうな顔をして「そろそろ、わたしゃ逝きます。じいさん散歩は欠かさず行って下さいね」
わしは「婆さん何処に行くんだ?散歩は二人の日課じゃろう」と言うと婆さんは手を振り、段々遠ざかって行った。
わしは朝目覚めて現実を目の当たりにしたんだ。
わしの目線の先には仏壇が有り、婆さんが黒淵の枠の中でニコニコ笑っていたのだ。
そうだ、婆さんは去年亡くなっていたのだ。
わしの事が心配で今まで散歩に付き合ってくれていたのだ。
これからは、1人でも散歩に行くから安心しておくれ。
いつまでも心配かけてすまんのう。
わしは婆さんの写真に手を合わせた。