エピソード4: 真実の扉
陽介が姿を消してから、二日が経過した。
真一たちの心に深い不安と恐怖が広がり、島での生活は日に日に重苦しくなっていった。夜の静けさの中で聞こえる足音や囁き声は、もはや風の音ではなく、誰かが明確に彼らに呼びかけているように感じられた。陽介の突然の失踪――そしてその直後に現れた、彼の異常な言動。島には何かがある、何かが彼らを狙っている。そう、全員が感じていた。
「どうして陽介が…」
美咲は、キャンプサイトで膝を抱えて座っていた。彼女の目に涙が浮かんでいる。陽介は、彼女にとって親しい友人であり、今の彼女にとって唯一の安らぎをもたらしてくれる存在だった。その陽介が、まるで誰かに取り憑かれたかのように消えてしまった。
「わからない。理由が…わからない。」
高橋も、目の前の景色をぼんやりと見つめるばかりだ。夜の闇に包まれた灯台の前、彼らは無力感を抱えながら立ち尽くしていた。
その時、真一が言った。
「陽介が消えた理由、俺たちは探らなければならない。」
彼の声には強い決意が込められていた。陽介が消える前に発した「死者の海を越えて…」という言葉。その言葉が頭から離れず、真一はそれが何を意味しているのかを突き止めることを決意していた。陽介が本当に島で何かに引き寄せられてしまったのか、それとも彼自身が何かの罠にかかったのか。真一はその答えを求めて歩みを進めるしかないと感じていた。
「じゃあ、どうするんだ?」
愛が声をかけると、真一は灯台を指さして言った。
「灯台の中には何かある。」
その言葉を聞いて、みんなは一瞬の沈黙に包まれる。灯台の中――彼らは何度もその場所に足を運んだが、あの暗闇の中で見た文字と、陽介の不自然な行動から何も得られなかった。しかし、真一はどうしても灯台にこだわった。なぜなら、あの場所には何かが隠されていると感じていたからだ。
灯台の扉が音を立てて開かれると、冷たい空気が一気に流れ込んだ。
中はいつものように薄暗く、誰も入った形跡がない。灯台の中に踏み込んだ瞬間、異常な静けさが広がっていた。その中で、目を凝らして何かを探すように、真一は足元を見ながら歩き出す。
「ここが…」
真一が足を止めると、床の一部にわずかな違和感を覚えた。そこは他の部分と明らかに色が違い、磨かれているような光沢を放っていた。彼がその場所に膝をつけ、手で触れると、床が微かに動いたように感じた。突然、重い音を立てて、その部分が開き始めた。
「何だ、これ…?」
真一は周囲の仲間たちに向かって声を上げた。床の一部が開かれた先に、階段のようなものが見える。その下に何かが隠されていることを暗示していた。仲間たちも恐る恐るその階段を見つめ、次第に足を踏み入れる準備をする。
「行くしかないか。」
高橋が言った。みんなの目は、次第に恐怖から好奇心に変わり、真実を求めて一歩を踏み出す。階段を降りると、薄暗い地下の部屋に辿り着いた。その部屋は奇妙に整然としており、何も乱れていなかったが、どこか不気味だった。
「ここ…」
部屋の中には、何枚もの古い絵画が壁に掛けられていた。それらの絵は、どれも顔がぼかされていて、誰なのか判別できなかったが、特徴的な点がひとつあった。すべての絵には、目が描かれていないのだ。
「何だ、これは…?」
愛が声を上げた。すると、真一は壁に掛けられた一枚の絵に目を止めた。それは、灯台の絵だった。だが、絵の中に描かれている灯台は、今のものとは明らかに異なっていた。
「この灯台、どこか違う…?」
美咲が近づきながら、絵をじっと見つめる。そこには、島を見守る灯台の姿が描かれていたが、周りには無数の人々の死骸が散らばっている。それは、まるで生け贄のように描かれていた。人々の目は虚ろで、息を呑むような恐ろしい表情をしている。
その時、部屋の隅で、何かが光りだした。誰もがその光源に目を向けると、床に埋め込まれた金属の扉が開き、そこから煙のような霧が立ち上がった。
「これが…」
真一がその扉を開けると、暗い地下の空間が広がっていた。そこには、陽介の姿が見えた。だが、彼の目は完全に虚ろで、まるで魂が抜けてしまったようだった。
「陽介!?」
みんなが駆け寄ろうとするが、その瞬間、扉の向こうから、低い声が響き渡った。
「お前たちも、すぐに来る。」
その声は、何かが深く根を張り、島全体を支配しているかのように聞こえた。真一はその声に背筋が凍るのを感じ、他の仲間たちも同じように恐怖を感じていた。
その声が示すものは、明らかにこの島の過去の呪い、そして陽介が何かに取り込まれた証であった。