エピソード3: 死者の声
島の夜は、ますます不穏さを増していった。
キャンプサイトで過ごしていた一行は、島の異常な静けさに次第に慣れつつあった。しかし、無意識のうちに恐怖が心の中に巣食っていった。毎晩、足音やかすかな声が響くことがあり、その度に仲間たちはお互いに確認し合うが、誰も目撃した者はいなかった。
「おかしいな…」
真一は、今夜もキャンプファイヤーの周りで、何度も風の音と錯覚する声に耳を澄ましていた。火が揺れ、焚き火の明かりが仲間たちの顔を照らすが、その顔には無言の不安が浮かんでいる。
「みんな、もう寝よう」
陽介が強く言ったが、どこか疲れた様子だ。目をこすりながらも、無理に笑顔を作ってみんなを誘う。しかし、誰も心からその提案を受け入れることはできなかった。
その夜、深い眠りに入る前、またしても音が聞こえた。最初は風のせいだと思っていたが、段々とその音ははっきりしてきた。誰かが歩く音、誰かが呼ぶ声。
「助けて…」
それは、微かで、遠くから聞こえるような声だったが、間違いなく人の声だと誰もが感じ取った。その声は、島のどこからともなく響いてきた。風に乗って、ほとんど囁きのように聞こえたが、それは確かに「助けて」と言っていた。
「今、聞こえたか?」
美咲が顔を見合わせながら問いかける。
「誰か、聞いたよな…?」
だが、答えはない。みんなが目を見開き、息を呑んだ。陽介が無言で、手に持っていた懐中電灯を持ち上げる。懐中電灯の明かりが、木々の間を照らし、薄暗い森の中を照らし出す。
その時、再び聞こえた。
「助けて…」
今度は、もっとはっきりと、近くから聞こえるように感じた。声は確かに、誰かがこの島で助けを求めているように聞こえる。だが、それが誰なのか、そしてどうしてそのような声が出ているのか分からない。
「今、聞こえたよね?」
愛が顔を真っ青にしてつぶやく。
「おい、やっぱり…誰かいるのか?」
彼らの心は恐怖で満たされていた。みんなが立ち上がり、懐中電灯を片手に声の主を探し始める。しかし、森の中はどこもかしこも暗く、見通しが利かない。
「みんなで探そう」
真一が言った。だが、その声には少しの震えがあった。
その後、しばらくの間、何も見つからなかった。
森の中は静かになり、足音だけが響く。あたりは真っ暗で、月明かりがわずかに差し込む程度だった。
「こんなこと、普通じゃないよ…」
美咲が声を震わせて呟く。その言葉が、他のメンバーたちにも恐怖を与える。みんなも言葉を失い、ただ静かにその場に立ちすくむ。誰も動けない。恐怖が身動きを封じ込め、何か大きな不安に包まれていく。
その時、ふいに背後から何かが触れる感触があった。誰かが肩に触れてきたような気配がしたのだ。
「だ、誰だ!?」
真一が叫び、振り返ると――そこには、陽介が立っていた。
「お前、今どこ行ってたんだ?」
陽介は無言で立っていた。だが、その顔色は異常に青白く、目の奥には何か暗い影が差しているように感じた。彼の周りに漂う空気が、何か変わったことを示唆していた。
「お前、さっき…」
高橋が声をかけようとするが、陽介は無言で歩き出し、先へ進んでいく。
その瞬間、再びあの声が響いた。
「死者の海を越えて…」
その言葉は、誰かが確実に言ったような気がした。しかし、あたりには誰もいない。全員がその声を聞き、鳥肌が立つ。
「あれ、陽介…?」
真一がその声に反応して振り向くと、陽介はもう姿を消していた。どこに行ったのか、見失ってしまった。
その後、仲間たちはもう一度集まり、再び灯台へと戻ることにした。
夜が更けるにつれて、恐怖と不安が募り、島を離れたいという気持ちが強くなっていった。しかし、陽介の姿が見当たらない。その後、灯台の前に戻った時、彼は突然現れた。
「陽介…お前、どこに行ってたんだ?」
その問いに、陽介は目を合わせることなく、ただ言った。
「俺にはもう、帰れないんだ…」
その言葉に、すべての仲間が凍りついた。陽介の瞳の中に、何か異様な光が宿っているように感じられた。彼が言った「帰れない」という言葉が、もはや冗談に聞こえないほど、重く、恐ろしい響きを持っていた。
そして、その夜から、陽介は完全に姿を消した。