エピソード2: 夜の闇
夜明け前の静けさに包まれた港町。
大学の卒業旅行で集まった五人の仲間たちは、早朝に港に集まり、ボートに乗り込んだ。目の前には、霧の中にひっそりと浮かぶ無人島が見え隠れしている。島の名は「真夜中島」。伝説では、かつてそこに住んでいた人々が謎の死を遂げ、その後誰も住んでいないという。観光地化されていないその島は、手つかずの自然が残り、古びた灯台がひときわ目立つ場所だった。仲間たちはその島でキャンプをし、数日間のんびりと過ごすことを楽しみにしていた。
「なんだか不気味だな、この島…」
美咲が冗談半分に言うと、後ろで真一がふっと微笑んだ。彼の穏やかな笑顔は、仲間たちに安心感を与えていた。
「大丈夫だよ。みんなで楽しい時間を過ごそう」
「うん、絶対楽しいよ!」
陽介が軽口を叩きながら、笑顔で手を振った。だが、海の向こうの島は、どこか暗く沈んだ雰囲気を漂わせているように感じる。誰もがそれを気にしているわけではないが、わずかな違和感が心の中に広がっていった。
ボートが島に近づくにつれて、その不安が次第に大きくなっていく。島の大きな岩山が迫り、波音だけが響く静寂な海の中に、彼らの声がひびく。
島に上陸するなり、足元に目を落とす。
砂浜に足を踏み入れると、何かが微かに違っているような気がした。辺りには人工物がほとんど見当たらず、自然のままの姿を保っている。やがて、広がる森の中を歩き始めると、すぐに風景が目に飛び込んできた。
「なんだこれ…?」
高橋が立ち止まり、地面に落ちている物を拾い上げた。金属製の鈴のようなもの。だがその鈴は、どこか古びていて、かつて使われていたもののようには見えなかった。
「おそらく昔の遺物かも。探検気分で楽しもうよ」
優は冷静に言いながらも、少し警戒心を抱いている様子だ。その様子を見た愛が、少し力を抜いて言った。
「そうだね。でも、気をつけた方がいいかも。なんだか、妙に静かで怖い気がする…」
島はどこか異常なほど静かで、普段の自然の音が感じられなかった。鳥のさえずりも、風の音も、海の波の音も、すべてが遠く感じられた。美咲はそんな空気に不安を覚えながらも、歩き続ける。
そのまましばらく歩き進めると、古びた灯台が視界に入った。灯台の周りには、草が茂り、まるで誰も手を加えていないかのように荒れていた。
「ここでキャンプをするのが一番楽しそうじゃない?」
陽介が大きな声で言ったが、その声もどこか冷たく響いた。突然、島の静けさが一層強調されたように感じる。
灯台に近づくにつれて、奇妙な感覚が彼らを襲う。誰もが言葉を交わさず、足早に灯台の前に集まる。
夕方が近づき、ようやく全員が灯台のそばに集まった。
その時、真一が灯台の足元に落ちている物を見つけた。古びた紙の束のようなもの。それを手に取ると、ぼろぼろと崩れる紙の中に、何か書かれているのが見えた。
「これは…誰かの手紙か?」
真一がつぶやくと、全員がその紙に目を向ける。文字は古い筆跡で、かなり読みづらいが、何か警告のような言葉が書かれているのがわかる。
「この島を離れよ、命が危うい」
その言葉が一瞬にして、島の空気を変えた。誰もが言葉を失い、無言のままその紙を見つめる。
夜が訪れ、キャンプファイヤーを囲んで話をしていると、風が強くなり、木々がざわつき始めた。
突然、遠くから誰かの足音が聞こえてきた。誰かが近づいている。だが、誰も姿は見えなかった。足音は次第に近づき、やがて止まった。心の中で、誰もがその足音の正体に恐れを感じ始める。
美咲が声を上げる。
「なんだか…あの灯台が怖くなってきた…」
その瞬間、島に響くかのように、微かな声が風に乗って届く。
「助けて…」
その声が、暗闇の中にひびく。誰もが振り向き、辺りを見回すが、何も見えなかった。ただ、強くなる風の中で、島の深い闇が徐々に迫りつつあることを感じるだけだった。
次の日、登場人物たちはそれぞれ異なる思いを抱えながら、島の奥へと足を踏み入れる。
誰もが恐怖を感じながらも、それを口に出さず、次第に深まっていく謎に引き寄せられていくのだった。