かくして宝は盗まれた
以前一瞬載せた物を書き直しました。ゆるふわ設定です。
私の幼馴染はフォックスと言う組織の幹部だ。
因みにあまり良い仕事はしていない。組織が。
未探索の遺跡を漁ったり。
時には他のそう言った組織や、逆に良い組織と争ったり。
私はいつも気が気じゃない。なんなの、幹部って。聞いてないよ。そんなに強く、凄くなっちゃうなんて思わなかった。
いつかちょっと痛い目をみて、懲りて、終わると思ってた。
そんなカシウスを待ち続けて、もう五年くらいになる。
私は、今日もカシウスの弟達の面倒を見ていた。
「ねーねートリス!次にいちゃんいつ帰って来るのー?」
自分の兄は正義の味方と未だに信じている幼い子達に言葉が詰まる。
「どうかな?フツルスが良い子にしてたら早く帰ってくるかもね」
「オレ良い子にしてるよ!もっと母さんの手伝いもする!だからさ、トリス、にいちゃんに早く帰ってくるように言って!」
フツルスが自分の我儘でこんな事を言っている訳じゃないのは私も分かっているんだ。
多分、領主の息子が私の事を気に入って、毎日の様に妾に来いと言いに来るからだろう。
「うーん、ごめんね?私にカシウスを止める事は出来ないんだ。私はただの幼馴染で、そんな権利は無いんだよ」
「だって、だってこのままじゃトリスは…」
「まぁ、仕方ない。そういう運命だったのかも。それに私があの男の妾になれば父さんにも良い薬をくれるって言ってるんだ」
私の父は昔から肺を患っている。長時間働く事は難しい。
それでもやってこられたのは、私がこれでもこの町にとってそれなりに重要な人間だったりするからだ。
私は光の魔法適性が高い。光と闇の適性を持つ人間は珍しく、重宝される。特に光は、回復魔法適性や防護魔法なんかを得意とする。持病の病には効かないから、私が父さんを助けてあげる事は出来ないけれど、魔獣から町を守ったりだとか、怪我人の手当てなんかは得意だ。
「でも、トリスにはにいちゃんが居るだろ!?」
「…幼馴染だよ。恋人じゃない」
幼馴染を思い出す。カシウスは闇と水の適性がものすごく高い。珍しさで言えば闇だけど、彼は特に水の使いこなしが上手かった。武器が無くても水さえ出せれば数十人くらいだったら1人でも闘えるかもしれない。
何よりカシウスは、闘う事が好きなんだ。生き甲斐と言うやつである。
私は闘いに負けたのだ。私じゃあそこまでアイツを熱く、本気にさせる事は出来ないだろう。
だからこの初恋も、そろそろ潮時と言うやつなんだ。
「それで薄情なトリスは俺に黙ってあんな男の物になるつもりなんだ。ふーん…」
冷え冷えとした声に思わず背筋がゾクリとした。
これは本気で怒っている時のカシウスの声だ。
だけど、何で私が怒られないといけないの?私を置いて行ったのはカシウスの癖に。
いつだって『じゃ、行ってくるから皆をよろしく』とか勝手言って出て行くのはカシウスの癖に!!
私も大分、腹が立っているんだから!!
「なに、文句があるなら受けて立つわよ」
カシウスの目が冷たく光る。
「へぇ?トリスが俺と闘うつもり?」
「ね、ねぇ、喧嘩やめようよ!にいちゃんは素直じゃないだけだし、トリスは意地はってるだけだろ!?」
「へぇ?そうなのトリス?意地はってるの?」
「カシウスこそ素直に言いたい事があるならそれだけ言えば良いのに、可愛くないわ」
あからさまにカシウスが不機嫌になる。
「トリスこそ可愛くない」
「あら、可愛いなんて言われた事ないわ。カシウスにはね」
一触即発。いつ仕掛けて来るのか分からない。
カシウスは攻撃特化だ。何なら全振りだ。
対して光の私は回復特化。防壁はこ一番あの馬鹿息子が私を欲しがる理由なんだけど…私の防壁は、この町をすっぽり守れるくらいの広さ、そこそこの魔物でも入れない強度がある。でも逆に人間は弾けないから、圧倒的に私が不利。
だから私はカシウスを満足させられない。
つまらない女なんだ。
「ねぇカシウス、私達いつからこんなに仲が悪くなっちゃったのかしら」
「……別に、仲悪くないだろ」
「悪いわよ。今まさに殺し合うところだったじゃない」
「俺はお前を殺したりしない」
「私だって殺されにくいと言う点ではそれなりに強くあるとは思うけど…」
「違う、そうじゃない」
「?なに?」
カシウスが先程まで纏っていた殺気を霧散させた。それに私も少し安心してフッと息を吐いた。
「俺は、トリス、お前にだけは絶対に勝てないんだ」
思わず首を傾げる。
「評価してくれるのは嬉しいけれど、私の防壁は人間にはザルみたいな物よ?」
「だから!そうじゃなくて!!」
私にはカシウスが何を言いたいのかさっぱり分からない。いつから私達はこんなに離れてしまったんだろう。
子供の頃は、ずっと一緒に居られると思ってたのに。
「もういいのカシウス。私が何を怒らせたか知らないけれど、私が妾に行けば父さんは元気になる。父さんが元気になれば、きっとおばさんもようやく結婚する気になるんじゃないかな?」
うちの父とカシウスのお母さんは昔から仲が良かった。二人は幼馴染らしい。
父はおばさんが好きだったけど、快活なおばさんを自分の看病に縛りたくなくて、諦めた。
勿論私の事も、母の事も、ちゃんと納得して、愛していたよと言ってはくれたけどね。
でも初恋の幼馴染への気持ちのしつこさは、私も嫌と言う程身に沁みてるから。
「そしたらさ、ほら。私の方が一ヶ月くらい誕生日早いんだから、お姉ちゃん、なんだよ?」
恋人になれなくて。
幼馴染としてすら駄目なら、もう家族になるくらいしか繋がりが保てないじゃない?
ふと気が付いたら周りには誰も居なかった。
フツルスすら、見える範囲に居ない。
これはもしかして本当に闘う羽目になっちゃう?
私がこっそりため息を吐くと、俯いていたカシウスがゆっくり顔を上げた。
「…………カシウス、どうしたの…?」
泣いていたのだ。
あのカシウスが。
あの戦闘狂が。
綺麗な顔を無表情のままに、涙をこぼしている。
「…俺は一体なんの為にやってきたんだ」
「う、うん…?」
今はあんまり刺激しない方が良いと私の生存本能が告げていた。
「俺はお前と姉弟になる為に強くなったんじゃないし!あんな男に奪われる理由がおじさんの薬?それなら俺が、何したって一番効くやつを手に入れてきてやるよ!!」
「お、落ちつこうカシウス。父さんだってカシウスがフォックスに入るの反対していたんだよ?自分の為にカシウスが悪い事するのを良しとする人じゃな…」
「じゃあどうしたらいい!嫌なんだ!お前が、トリスが俺以外の男のものになるなんて」
………………ん?なんかどさくさ紛れに凄い事言われた気がする。
「聞いてんのか!?」
「聞いてるけど………ちょっと理解が追いついてなくて、なんて…?」
「好きだって言ってるんだ!!ばぁぁぁぁか!!」
真っ赤な顔で、カシウスはそう言った。
私は瞬きを繰り返して、何とかその言葉を飲み込もうとするけど、動揺し過ぎて上手く行かない。
「お前はいっつも頭で考えるだけだから気付かないんだ!俺の心はガキの頃からお前が欲しくて仕方ないって言ってた!でもお前は俺より適性が早く見つかって高嶺の花になっちまった!届かないなら奪える力を身に着けるしかないだろ!!」
「…そんな、無茶苦茶な」
「無茶苦茶でもなんでもこれが事実だばぁぁか!お前だって、俺の事、好きな癖に、なんでいつも諦めんだよ!奪えよ!」
そんな、だって、カシウスを奪うなんて考えた事も無かった。だから……。
「だって、諦めないと、潰れそうだった…」
私の為にカシウスが悪い事してるなんて、思ってもみなかったけど、確かにカシウス、善人は殺さないって皆言ってた。それがカシウスなりのけじめだったのかもしれない。
「…………で?そろそろ言ってくれても良くない?」
「言ったらカシウス、あの坊っちゃん殺しに行かない?」
「こんな時にも他人の事かよ。俺の事だけ考えてろよ……。行かないよ。そんな時間あるならまず、トリスを俺のものにする」
「………凄く言いにくくなったんだけど」
「言えよ。俺、もう十年以上待ってるんだけど?そろそろお預け解除されても良くない?」
私は頭を抱えて、悩んで、しばらくした後、覚悟を決めた。
「…………………………すき、よ」
カシウスが初めてみる蕩けそうな笑みを浮かべる。
「可愛い」
「え!?な、なななな、なに!?今まで一度だって言わなかった癖に……」
カシウスこそ子供の頃みたいな可愛い笑顔も見せた。
「いつも心では思ってたよ。でもこう言うのはいざという時にとっておけっておじさんが言ってたから」
「父さん、なんてことを……」
私の長年の悩みを返して。
「俺も、好きだ。トリス、俺、良い奴じゃないけど、お前は大事にする、誓う。だから…奪って行っても良いか」
「…町はどうするの」
「フツルス達だっていつまでも弱くないさ。それに俺の配下に守らせても良い。なぁ、やっぱり、駄目か…?」
急に不安そうな顔で見つめてくるから、私は僅かな葛藤の後、腹を括った。
「……………仕方ないなぁ」
そして私はカシウスに拐われる事になった。
イーリス領の宝が盗まれたと町の記事にすらなったらしい。
かなり恥ずかしい。でも……。
「カシウス、その美人どうした?」
「俺の奥さん」
私は今、幸せだ。
以前の物を読んで下さった方、すみません。こちらも読んで下さった方、ありがとうございます!
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