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老科学者の空虚な日常

人間病の世界

作者: 一飼 安美

 君かい?私を探していたというのは。あまり関わらない方がいいだろう、学会を追われた学者はただの変わり者だ。君にとって、不都合しか生まないだろう。それでもいいというのなら、話をしよう。


 生物学において進化の系統樹は基本であると同時に謎に包まれている。どこから始まり、なぜ脊椎を手に入れ、どうやって地上に現れ、どのように知能を持ったか。無理もない、第一人者として名高いダーウィンでさえわずか百数十年前の人物、数億年の生命の歴史はごく最近しか考えられていない。わかるはずがない、とほとんどの者が思うはずだ。だがわずかに、わかることがある。霊長類が人類となり、文明を手に入れた発端。私は人間という種の状態を、「人間病」と名付けた。これは症例なのだ。


 人間が現れ始めた遙か昔、と言っても数億年の歴史から見れば五万年ほど前なんてつい最近だ。それまでの生命の進化速度から考えれば、わずかと言って差し支えなく劇的な変化など起こりようもない。だが、ある種の霊長類が何かの事故で「人間病」を発症する条件を満たしたなら、感染症のように種の中に広がっていく。アフリカに、ヨーロッパに、アジアに、新大陸に。それぞれに「人間病」を発症する霊長類が現れ、感染拡大。霊長類は人類という種に、各々が進化するというわけだ。そこまで石器も使っていなかった原人、猿人は予防策も打てずにことごとく発症。それを補うために、文明を作らざるを得なかった、という推測だ。全ての人間は、欠損が生み出した異形なのだよ。


 人間病は症例であれば、個人差が激しい。風邪をこじらせれば立つこともつらいように、人間病が悪化すれば生存は困難になる。ここからが恐ろしいのだが……悪化した人間病には、いくつかの病態が存在する。生命活動が困難になり、周りの手を借りなければ生きていけない場合。そんなのはまだかわいい方だ。もう一つは、生命活動が困難になり、周りの手を動かすために支配を始める場合。支配制度、つまり奴隷制の始まりだ。


 生命活動ができないのであれば、周りの手を借りる……それを種としての「当然」と考え、死ぬまで他者の手を動かし続ける。そんなことをしようと思えば、非常に封建的な階級制度を作らなければ不可能だ。自分たちは、差し出される側。生まれついて、永遠に。貴族階級の言いそうなことだろう。人間病が持つ最悪の状態、これは維持されるから最悪と考えるべきものだ。滅びることも立ち直ることも敵わず、痩せ細って死んでいく。最後の一人になるまで、続いてもおかしくない。


 人間が症例の一つであるからには、人間がいる限り人間病の悪化の可能性は常にあり、現時点どこまで悪化しているかは、種として外から見なければ推測もできない……。どうだい、どうかしているだろう?私もそう思う。皆もそう思ったようだ。もう話を聞いてくれる人もいない。理解できなくても、仕方がないだろう。私から見れば、誰も皆病人のようなものだからね。

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