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青い青年は養護教諭を攻略したい  作者: にわ冬莉


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潜入報告

 生徒たちは皆部屋に戻り、今頃恋バナでもしている頃か。などと、遥は時計を見ながら思っていた。自分が学生だった時も、ろくに眠らず夜通し、くだらない話に花咲かせていた記憶がある。


「そろそろだな」

 スエットにTシャツというラフなスタイルで部屋を出る。付き添いの教員は、時間ごとにホテル内を見回ることになっていた。コッソリ抜け出し、女子の部屋に行こうとする男子を捕まえて注意する、というあれである。


 ホテルには、入り口のロビーとは別に、各階にちょっとした休憩スペースが設けられている。自動販売機が置かれており、その場所は共有スペースという位置付けだった。ただ、もう消灯時間を過ぎているため、誰かいればしょっ引かなければならない。


 生徒たちは男子、女子と別れて3、4階が男子、5階が教員、6、7階が女子、といった感じになっていた。

 遥は5階の自分の部屋を出て、まずは上の階へ。エレベーターで7階まで上がると、共有スペースを通り、長い廊下を見渡す。


「誰もいない、よし」

 同じように6階、4階もチェックし、最後に3階へ。エレベーターが開くと、ある人物が携帯を片手に喋っていた。


「あ、やば。そろそろ切るねっ」

 慌ただしく電話を切り、遥に向かってぺこりと頭を下げる。

「こら、もう消灯時間は過ぎてるぞ?」

「すみません、谷口先生」

 素直に謝ってきたのはタケルである。


「こんな時間に誰と話してた? 彼女か?」

 タケルが彼女にメロメロなのは、学園内でも周知の事実である。

「いえ、違います。ちょっと…あ、おやすみなさい!」

 何故か逃げるように去って行くタケル。


「なんだ、まったく」

 タケルが部屋に入る姿を確認し、辺りを一周すると巡回を終える。次の巡回は自分ではないので、もう今日の業務は終了だ。


 部屋に戻ると、眼鏡を外し、ベッドに身を投げ出す。昼間、ベタベタと暑い気温の中、あちこち移動させられ、体はそれなりに疲れている。まだ初日だというのにこれでは、先が思いやられるな、などとぼんやり考えていると、不意にノックの音。

「ん?」

 こんな時間に? と時計を見る。もうすぐ午前零時だった。


「亜理紗か?」

 何の警戒もなしに扉を開けると、そこにいたのは…、


「なっ、」

 大きな声を出しそうになる遥の口を塞ぎ、フードの男がそのまま部屋に押し入る。後ろ手でドアを閉めると、大きく息を吐き出す。


 遥が口を塞いでいる手を引き剥がし、被っていたパーカーのフードをばさりと剥がす。

「何をしてるんだ、凪人っ」

 と、少し小さめに怒鳴った。


「すみません、あの…来ちゃいました」

 へへ、と照れくさそうに笑う凪人に、遥は迷わず腹パンする。

「ぐっ、」

 想像以上に強いパンチを受け、体をくの字に折る凪人。


「来ちゃいました、じゃないだろう! ここは沖縄だぞ? それに、なんで私がここにいると…、」

 ハッと息を呑む。

「大和タケルかぁぁ」

 拳を握り、胸の前へ突き上げる。

 さっき携帯で電話していた相手は凪人だったのか。ここにいると情報を流していたに違いないのだ。しかし、部屋番号までは知らないはずなのだが……。


「ちょ、遥さん落ち着いて、」

 なだめるように近寄る凪人の腕を掴み、足払いをかける。ふわりと凪人の体が浮き上がり、そのままベッドに倒された。

「うわっ」

 倒れた凪人を組み敷くように遥が覆い被さると、低いドスの利いた声で、言う。

「こんな夜中に顔を隠して、女性の部屋に忍び込んでくるとは、いい度胸だな、凪人」

 殺気を感じ、トキメキではない動悸を確認する。

「ちょ、ま、コロサナイデ、」

 半ば本気で怯え出す。


「どうやってここがわかった? 弟に聞いたって部屋番号まではわからんはずだっ」

「あ、えっとそれは…特殊能力で、」

「特殊能力…?」

 遥が首を捻る。が、凪人を見て閃く。

「もしかしてっ、この触角か!?」

 そう。凪人は宇宙人。頭の触角は伊達じゃないのだ。


「すごいな! GPSも真っ青だな! ああ、青いのはお前だったな。ぷぷ、」

 急に楽しそうになる遥。

 かと思えば、今度は急に真面目な顔になり、凪人を見つめる。

「…触っても、いいか?」

 組み敷かれた状態でそんなことを言われ、凪人は脳内大混乱祭り開催中である。


 返事をしない凪人を肯定とみなしたのか、遥の手がゆっくりと凪人の髪を撫でつける。そしてそのまま、触角へ…、


「って、ダメですっ!」

 すんでのところで遥の手を掴むと、バランスを崩した遥が凪人の上に倒れ込む。

「わっ、」

 仰向けの凪人に抱きつくような格好になる遥。


(うわーっ! うわーっ! うわーっ!)


 凪人は内心大騒ぎである。このままこうしていたいような、なんなら形勢逆転したいような、いっそ背中に手を回して抱きしめてしまいたいような。


「……心拍数ヤバいぞ、凪人」

 遥の一言で我に返る。

「遥さんのせいですよっ」

 顔を赤らめ(青いけど)体制を整える。ここでやっと、沖縄に来た理由を話すことが出来た。


「なんだ、仕事で来たのか。それならそうと連絡をしてくれれば」

「驚かせようと思って…」

 結果的には思っていたのと違うことになってしまったのだった。

「自分の口から直接言いたかったんです。俺、カレントチャプター、映画決まりました!」

 満面の笑みで、言った。


「ああ、知ってる。よかったな、凪人」

 ポン、と肩を叩かれる。


「へっ? 知って…る?」

「昴流から連絡があったんだ。自分がヴィグで、凪人が回想シーンのサカキに決まった、ってな」

「…あんっのやろぅ…」


 せっかくここまで来たのに!

 自分の口で報告したかったのに!

 ぺらぺらと先にバラされていたとは!!


「頑張ったな。楽しみにしているぞ」

 クス、と遥が微笑んだ。


(かわっ、あ…ヤバい…、)


 遥の可愛さに心を射抜かれつつ、凪人は遥に向き直る。

「じゃ、俺、もう行くんで。…あの、さっきは怖がらせちゃってすみませんでした」

 頭を下げ、立ち去ろうとする凪人を、遥が咄嗟に引き留めた。


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