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青い青年は養護教諭を攻略したい  作者: にわ冬莉


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宿泊施設

 凪人は写真撮影が終了すると同時に、弟タケルにメッセージを送った。必要なのは日程の詳細と、宿泊先だ。


 特に宿泊先は重要。同じホテルに泊まれればそれが一番いいのだが、果たして修学旅行を受け入れているようなホテルが、同時期に一般客も受け入れるものなのか、確信がない。受け入れていたとしても、空きがあるかもわからない。しかし、何はともあれ沖縄に行けることになったのはチャンスだ。


「とっとと返信しろよなっ」

 やきもきしながら返事を待つ。

「お、来た」

 予定表を見る。

 団体行動は一日だけで、後はグループ行動らしい。ということは、遥はホテルで待機なのか、それとも先生たちもある程度は自由行動が取れるのか…?


「大和君、支度出来た?」

 マネージャーの橋本に呼ばれ、更衣室を出る。これから事務所に帰りスケジュールを組むというので、同行することにした。


 幸い、撮影クルーはすぐに見つかり、ヘアメイクとスタイリストは現地調達となった。撮影は明後日からしか出来ないようなので、明日中に沖縄入りすればいいということになったのだ。


「宿の手配は、俺やりますよ」

 凪人の一言に、橋本が首を振る。

「いやいや、そんなのこっちでやるから大丈夫だよ。社長たちが泊まってるホテルに空きがあればそこに決まると思うし」


 そうだった……。


 向こうには社長がいるのだ。ということはつまり、接待先……企業なのかテレビ関係者なのかはわからないが…も一緒ということ。だとすればこっちで勝手にホテルを選ぶのは無理か。


 一概に沖縄と言っても、宿泊施設は山ほどあるのだ。せめて近隣のホテルであってくれればいいのだが……。


*****


 凪人は携帯片手にガッツポーズをとった。社長が宿泊しているホテルは、遥たちのホテルと近かったのだ。これならあるいは、向こうで会うことも可能かもしれない。


「じゃ、大和君は俺と一緒に行くんでいいかな?」

 橋本マネージャーの言葉に頷く。

「よろしくお願いします」

「そんなに沖縄行きたかったの?」

 凪人の嬉しそうな顔を見て、橋本が訊ねる。凪人は照れくさそうに頭を掻くと、小さな声で白状する。


「実は……今あっちにいるんですよ」

「え…? いるって、沖縄に? ()()…」

「はい」

 照れくさそうに顔を赤らめる凪人。そんな凪人の顔を複雑な気持ちで見ている橋本。

「そう…なんだぁ。まぁ、会いたくなる気持ちはね、うん、わからなくはない……けど」

 ()()()()()でスキャンダルはごめんだ! しかも向こうには社長もいるというのにっ。


「あの、おかしなことはしませんから」

 察したのか、凪人がそう付け加えた。

「あ、それじゃ俺、一度帰って支度してきますね。また後で!」

 ぺこりと頭を下げ、軽い足取りで事務所を去っていく凪人。


「彼、あんな感じだったか…?」

 橋本がひとりごちた。


 礼儀正しい子ではあったが、もっとこう、軽いイメージだったはず。受付の子も言っていたのだ、最近雰囲気が変わった、と。彼を変えたのが恋の力なのだとしたら……、


「本気…ってことなのかぁ?」

 ますますもって複雑な気持ちになる橋本である。


*****


「遥さん…、」

 プールサイドに佇む遥が振り返る。

「……凪…人?」

 驚いた顔で凪人を見る遥。

「どうして…、」

「来ちゃいました。……会いたくて」

 ゆっくりと遥に歩み寄る。遥の白いワンピースが風に揺れる。

「駄目だ。こんなとこ、人に見られたらっ」

 辺りを警戒する遥の手を取る。


「もう、やめにしませんか?」

「やめにするって、なにをだ」

「心に、嘘をつくのを、です」

 握った手を、引き寄せる。

「凪人」

 困った顔で凪人を見上げる遥の潤んだ瞳が南国の太陽を浴び、煌めく。

「俺、もう離れたくない。例え一日だって、あなたのいない世界になんかいたくないんだ。ずっとこうして、二人でいたい」


 ゆっくりと抱き寄せる。


 胸の中にすっぽりと納まってしまう小さな遥を、心から愛しいと思う。

「だけど、凪人…、お前はみんなの凪人なんだろ?」

「え?」

「私だけの凪人にはならないだろ?」

「そんなことはっ」

「みんなの。凪人だ。なぁ?」

 遥が声を掛けると、いつの間にか現れた奈々が、橋本マネージャーが、過去に付き合った女性たちが、知り合いが皆、大きく頷いた。そうだそうだと、声を上げ始める。


「凪人は私のものよ。そしてみんなの」

「お前はみんなのものだからな」

「凪人、私のものにもなるでしょ?」

 詰め寄られ、遥と引き離される。


「ちょっと、待って遥さん!」

 一生懸命手を伸ばすが、遥はどんどん遠くなる。いつの間にか遥の隣には昴流がいて、二人が手を繋いでいるのが見えた。


「はーちゃん、あんな男のことは早く忘れて、俺と一緒に行こう!」

「昴流はずっと私だけを見ていてくれたんだもんな」

「そうだよ。俺は、はーちゃんだけをずっと好きだったんだ。サカキみたいに一途だよ。あんなチャラい男とは違ってね!」


「待てよ昴流! 行くなよ!」


 手を伸ばし、叫ぶ。そこでハッと目を覚ますと、橋本マネージャーが心配そうに凪人を見ていた。どうやら飛行機の中で転寝をしていたようだ。


「すみません。変な夢見ちゃって」

 苦笑いの凪人を見ながら橋本も隣で頬を引きつらせた。


()()()()()()! って…おい、マジかよ)


 どんどん気が重くなる橋本なのである。


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