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新居物色

「ではこちらをご記入ください」

 不動産屋巡りが、まずは書類書きからだということを初めて知った二人である。


「現住所…って、俺、長野なんですけど、実家の住所の方がいいですか?」

 凪人が不動産屋に訊ねる。相手はベテラン風の、少し頭の禿げかかったおじさんだ。若い人が付くよりも逆に安心感がある。

「長野?」

 遥が顔を上げた。

「大学、長野なんで。まぁ、もうほとんど行く必要ないんですけどね」

「でしたらご実家の方をお願いします」


 書類作成が終わると、次に物件案内だ。

「えっと、お二人で…?」

 にこやかにそう訊ねられ、遥が否定する。

「いえ、別々ですよ」


しかし、そんな遥のセリフに被せるように、凪人が言葉を続けた。

「いつかは一緒に住みたいと思ってますけどね」

 遥を見つめ、凪人が笑う。

「ちょ、なにをっ」

 不意打ちを食らった遥が驚いた顔をした。

「俺、本気ですよ?」

 真剣な顔で遥に告げる凪人。

 そんな凪人を見つめ、少し照れたように笑う遥。

「そんなに長く待つつもりないんで」

遥の手を握り、指を絡める。そのまま二人は見つめ合い……、


「別です」

 遥の声で、現実に戻る。


(おおおっと危ねぇ。またおかしな妄想をっ)


 慌てて頭を振る凪人である。

「では、条件はこんな感じですね。あとは立地、間取りと家賃ですが…、」

 話は淡々と進む。



「ねぇ、いっそ二人で住んじゃえばいいんじゃない?」

 担当が少し席を外した隙を突いて、急にそんなセリフをぶっ込んできたのは奈々である。

「はぁ? 急に何を言い出すんだ」

 遥が眉を寄せた。

「だって、二人で住めば家賃も浮くし、広い物件借りられるじゃない?」

 あっけらかん、と言ってのける。

「それはそうだが…、奈々はそれでいいのか?」

「え? 私はいいと思うけど」

「そうか」

 遥が腕を組み、悩み始める。


(え? 二人で、って…え?)


 心臓が高鳴る。

 そんな夢のような展開、ありか!?


「確かに二人なら心強いのかもしれないな。そういう線もあるのか」

「え? 本気ですかっ?」

 凪人が心臓を押さえながら遥を見る。

「凪人は反対か?」


(呼び捨て~~~!!)


 未だに慣れない凪人。

「いや、それは…本人次第というか…その」

 しどろもどろになる。

「二人暮らしも楽しそうだな」

 急にその気になる遥に、凪人のテンションが上がりまくる。まさかこんな急展開、誰が予想していたと?


「私が転がり込めばいいのか? それとも新しい物件を探す方がいいのか…どっちがいいんだ、奈々?」


「え?」

「は?」

 凪人と奈々が二人で首を捻った。


「ん? だから、奈々と私が一緒に住む話だろ?」


 ガクッ


 凪人が頭を垂れる。

 そうか、そりゃそうか…、そういうオチか。


「ぶはっ、やだ! 遥ったら違うわよ! 私が二人暮らしって言ったのは、遥と凪人で、ってこと!」

「え?」

 遥が凪人を見た。何故か項垂れていた。

「奈々、凪人が困ってるじゃないか。そんな冗談はよくないぞ?」

 真面目に説教を始める遥に、奈々が呆れて天を仰ぐ。

「んもぅ。あ、私ちょっと、トイレ」

 奈々がさっと席を外した。


 残された二人はなんとなくおかしな空気を感じつつ、会話を始める。

「奈々の言うことは気にするなよ」

「え? ああ、はい」

 本当はそっちの線で進めてもらっても構わないのだが…等と考えつつ。

「遥…さん、は…その、」

 急に名前で呼ぶことに気恥ずかしさを感じながら、切り出す。

「ん?」

「誰かと一緒に住むのとかって、アリ…ですか?」

「そうだなぁ、気の合う相手ならいいんじゃないか?」

「彼氏…とか?」

 ゴクリ、と喉を鳴らす。

「ゆくゆくはそれもいいな。私もいい年だし、いい相手がいればの話だが」


(ここに、います!)


 心の中でだけ立候補をする。


「お待たせしました」

 物件をかき集め、担当が戻る。同時に奈々も席に着いた。

「何件か候補としてお持ちしました。お二人とも、路線や間取りなど大体同じ感じでしたので……こちらとこちら、どうでしょう?」

 見せられた物件。

「これって…、」

 都内某所。駅から徒歩10分以内。間取りは1DKで、家賃も手頃。そして、


「201と202が空いております。お二人ともお知り合いのようですし、隣同士、というのはいかがかと」


(隣…、隣!?)


「となりどうしっ」

 凪人がひらがなで叫んだ。


「あら~、これ、いいわねぇ。何かあっても助け合えるし、二人であのアニメの話も語り合えそうだし、決まりじゃない?」

 奈々が嬉しそうにけしかける。


 実はこの物件をチョイスしたのは奈々である。トイレに立つふりをして不動産屋に掛け合ったのだ。同じ建物で二件空いているところを探してほしい、と。


(グッジョブ!)


 担当のオッサンに視線を送る奈々。


「隣同士か…、」

 遥が考え込む。

「これっ、俺もいいと思いますよっ? ほら、女性の一人暮らしって何かと物騒だし、セキュリティの面とか、あと…風邪引いた時とか色々便利なことも、ね?」

 しどろもどろである。

「……まぁ、物件自体は条件がいいようだし、検討するか」


(よっしゃ!!)


 思わず小さくガッツポーズをしてしまう凪人。そんな凪人を見て笑いを嚙み殺す奈々。不動産屋は、ニコニコしながら頷いたのだった。



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