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俺様王子

 壇上に立つと、黄色い声が響き渡った。


 本当は興味などなかった教員免許を取ろうと思ったきっかけは、芸能活動が本格化しそうだったから。若いうちはいいが、将来どうなるかわからないのが世の中。切り札は多い方がいいに決まっている。


「この度、教育実習生として、今日から二週間お世話になります、大和凪人(やまとなぎと)です。よろしくお願いします」


 簡単に挨拶をしただけで、女生徒たちから歓声が上がる。全校集会はさながら、コンサート会場のようになっていた。


「やばっ! なに!? 芸能人っ?!」

「かっこよすぎる~!」

「凪様~!!」


 黄色い声に応えるように、凪人はマイクを置き、手を振って見せる。一層盛り上がる女生徒たちと、司会の教頭の咳払い。


*****

 

 凪人はモテる。小さいころから、変わらず、ずっとだ。


 理由は明白だった。運動神経がよく、頭脳もそこそこ明晰な上、とにかく顔がいい。身長も高く、今は東京の芸能事務所にも籍を置き、モデルのアルバイトをしていた。

 百人の女がいれば、九十九人は彼に惚れるのではないかと自負しているイケメン男子大学生だ。残りの一人に関しては、謙遜のために残しただけで、本当は百と言いたいところだが。


 この学園には彼の弟が通っている。


 弟もまた、顔面偏差値は高く、モテる。転校当初は大騒ぎだったようだが、早々に特定の彼女を作ってしまったため、今は落ち着いているようだった。


(だが、俺が来たからにはそんな平穏な日々も終わりだ。この二週間で、どれだけの女子に告られるのか、楽しみだぜ)


 凪人はほくそ笑みながら、壇上から女生徒たちを見下ろしていた。


*****



 職員室に戻ると、早速、女性教師数人に囲まれ、質問攻めにあった。主に聞かれるのは彼女の有無。特定の相手はいません、などと言ってはみるが、その実、ざっと五人は名前を上げることが出来る。いわゆる、チャラいタイプの人間だ。

 しかしそんなこと知る由もない校長が、女教師と凪人の間に入り、慎みなさいと注意をしてくれていた。


「おはようございまーす」


 職員室のドアを開け入ってきたのは、白衣を着た若い女性。小さめの身長に、前下がりのショートボブ。丸い銀縁眼鏡の向こう、気の強そうな強い目力を感じる瞳が印象的だ。


「ああ、ちょうどよかった。谷口先生、こちら、今日から実習に来た大和凪人さん。タケル君のお兄さんだそうだ。大和君、こちら養護教諭の谷口遥先生だ」

 校長の言葉を聞き、凪人がくるりと振り返る。と、遥が眉を寄せ、何とも言い難い表情で凪人を見、吐き捨てるように、言った。


「……は?」


 凪人は、今まで見たこともないその反応に一瞬驚きながらも、いつも同様、外面用の飛び切りの笑顔で挨拶をした。

「今日からお世話になります、大和凪人です。弟がお世話に、」

「はぁ?」

 凪人の挨拶を途中で遮り、遥。


「正気ですか?」

 遥からの予想外のセリフに、校長が面食らう。

「え? どうしたんだ、谷口君?」

「え?」

 遥が校長を見つめる。

「え?」

 校長も、意味が分からず遥を見つめた。


 と、遥がぶるっと頭を振る。姿勢を正して二人に向き合うと、

「では、私は戻ります。失礼します」

 ぺこりと頭を下げ、何度か首をかしげながらそのまま職員室を後にした。


「……あの、僕、なにかしました…かね?」

 さすがの凪人も焦る。あんな風に蔑むような視線を向けられたのは生まれて初めてだ。女なら誰しも、いや、男ですら魅了してきた自分が。

「なんだろうねぇ? あんまりいい男だったからおかしくなったのかな? あはは」

 校長は適当に場を濁し、話題を変えた。


*****


 二時間目、凪人は特に授業もなかったので、保健室へと向かうことにした。朝のことが気になっていたのだ。彼女の態度の意味が分からない。それを確かめたいと思っていた。


 扉をノックし、開ける。


「失礼しまーす。谷口先生いらっしゃいますか?」

 爽やかな笑顔を浮かべ、中へ。丸椅子に座っていた遥がくるりとこちらを向き、そしてまた、朝と同じ顔をする。ふてくされたような、人を蔑むような、あの視線。


(なんなんだ!)


「あのぅ、」

 おずおずと声を掛ける凪人。

 これでも外では『俺様キャラ』で通っているというのに。


「どういうことだ?」

 真顔で、遥がそう言った。

「はい?」

「何がどうなっている?」

「だから、なにがですか?」

 凪人がイライラし始める。なんでこんな顔をされなきゃならないのか。

 遥は大きく息を吐き出すと、

「ドッキリなのか? それとも学園一丸となって悪ふざけを始めたのか? 私は何も聞いていないのだが」

「は? 意味が分からない…、」

 キレ気味の遥を前に、凪人が首を振った。


「私もだ! まったく意味が分からない! なんで君は、頭に触角を生やした青い宇宙人のコスプレをして教育実習に来ているのか!」


 ピッと凪人を指し、遥。


 凪人は、すべてを理解する。

 彼女は……遥には見えているのだ。凪人の本当の姿が。


「あっ、あんた…見えるのかっ!」


 そう。

 凪人は、宇宙人なのである。


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