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大魔女の従者  作者: ことぶきGON
第二章
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第二章 5ー2 強過ぎるアンテナ

「まったく……こっちにツッコミさせるのが目的だったとは……」

 ヴァネッサは意外とイタズラ好きのようで、浩介のセリフをただニヤニヤして聞いていた。爆発するように声を上げた浩介の様子を見て、ヴァネッサは爆笑したのだ。普段見ることのない“腹を抱えて”の大爆笑で、結果ヴァネッサは呼吸困難に陥っていた。笑い過ぎで。そこで初めて、浩介は自分がからかわれていたのだと気付く。

 そもそも、特殊なジャンルの本は持ち込んでいない! ……はず? 元いた根倉のアパートから(セシルによって)運び込まれた荷物の中にも、そんな本は入っていなかったはずだ……多分きっと。

 と、自分の記憶力に自信がない浩介は、内心ドキドキして考えてしまう。ともあれ、浩介は『せっかくいただいたお小遣い、“そう言った本”ではない物をちゃんと買ってくる!』とアピールをしたくなり、特に買い物の用事を言われてはいなかったが、再び近くにある商店街へと来ていた。衝動的に屋敷から出てきたので、当然買う物は決まっていない。

 そう言えば、あの荷物を配達してくれた船川沙智ちゃんと再会したのはこの辺だったよなぁ……なんて考えて歩いていると、通りの向こうに、昨日と同じような背格好のコスプレ娘が、昨日と同じようにチラシを配っているのが見えた。

「あれ? 浩介さん、どうしたんですか?」

と振り返ったコスプレ娘は、やはり昨日名乗り合った少女——船川沙智であった。



「あれ? 今日もチラシ配りなの? 昨日は別の場所に行くって……」

「ははは。しばらくは勤務場所は同じお店ですよ~。今日からキッチンのお手伝いの予定だったんですけどね。でも、『人手が足りないから』って、今日もチラシ配りに回されちゃって。だから、今日もこの格好なんです」

 沙智はスカートの端を片手でつまみながら、クルリと回って自分の姿を見下ろす。

 その仕草を見た浩介は、頭をかしげる。仕草自体は可愛らしい……はずなのだが。

 足も太い訳じゃないし、ミニスカートも絶望的に似合わない、とは思わない。全体のシルエットとしても『少しずんぐりむっくり』と言う“だけ”のはずなのに……何だろう? この“コレじゃない感”? しっくり来ない? 強いて言えば——『夫婦がプレイの一環として、奥さんががんばってコスプレしてみました』と言うか……。

 無言になった浩介を見て、沙智が言葉を漏らす。

「やっぱり、似合ってないですよねぇ。別の格好なら不満もないんですけど」

「いや、似合ってないってことじゃないんだけど、もっと似合ってる服もあるかも……って気もすると言うか……」

 浩介が美味い表現(しかも相手を傷つけずに済みそうなもの)を見付けられず、言い淀むと、

「はは。いや、別に構いませんよ? 『似合ってない』って言い切っちゃっても。私自身、『もっと別の服なかったの!?』って思ってますし」

と、諦めたように沙智は笑って言う。

「ま、浩介さんもレアな姿を見られたってことで。今度また会えるかは判らないですけど、次はもっとマシな格好しているときに会いたいですね……ん?」

 突然、何かに気付いたかのように、会話を止め、沙智は周囲を見渡す。

「どうしたの? 何キョロキョロしてるの?」

 周囲の気配を探っているのだろうか——何かを探しているかのように、沙智は周囲を見渡し続けている。

「えっと……何か、近付いて来てる? すごく力強くって、大きくって、鋼の塊みたいな何か……とっても大きな……存在感?」

 体の動きをストップさせ、沙智はブツブツと独り言を言い始める。その口からこぼれる言葉を聞いて、浩介の脳裏に何故か、あの満月の夜に出会った人狼の姿が浮かんだ。


——このまさか……何かを感じてる? そんな感覚が、“そっち側”の“素質がある”ってことなのか? それに、近付いて来てるって……まさか人狼?


 沙智の言葉を信じるなら、『彼女は事実を話している』という自分の直感を信じるなら。さらに浩介の想像が事実だとすれば——また彼らに会えるのは素直にうれしい。不思議な縁で出会った彼らには、浩介は何故か親しみを感じている。が、どうしてこちら——浩介たちの前に現れるのだろうか? 彼らがやって来る理由が判らない。その疑問が、が浩介に漠然とした不安を感じさせる。

 浩介は自分の不安を振り払い、とりあえず、身動き出来なくなっている沙智に声を掛ける。

「えっと……大丈夫?」

「へ? あぁ! 大丈夫ですよ〜。あー、またやっちゃった。

 私、ときどき“こうなっちゃう”んですよね。突然ブツブツ言ってて、言ってる内容も意味不明で。ごめんなさい、完全に怪しい人ですよね〜。

 えっと……何か嫌な気分にさせてませんか?」

 そう言って、沙智は諦めのにじむ笑顔を浮かべながら言う。彼女から真っ先に出てくるのは、こちらを気遣うような言葉。それだけでも、彼女がこれまでいろんな人間から責められたり、気味悪がられたりしていたことが、容易に想像出来る。

「いや、別にこちらには何も問題ないよ。気を悪くもしてないし」

 浩介が無理に笑顔を浮かべると、沙智は安心したかのような表情を浮かべた。



 智沙と別れ、浩介は商店街を歩く。


——多分だけど、あのは感受性が強いんだろうなぁ。いろんな意味で。


 そんなことをぼんやりと浩介は思い浮かべた。

 ヴァネッサたちと出会ってから、“そういった種類”の——と言っていいのか判らないが、普通の人とは違う感性や事情を持った人たちがいることは理解出来る。彼女もそう言ったジャンルの人なのだろう、と言う気がする。

 普通の人には理解しづらい苦労や悩みを抱えながら、彼女はただ前向きに生きているのだろう、と浩介は妄想する。例えば、似合わない格好を強いられても、にこやかにチラシを配るような——いや、これは関係ないか。

 最近浩介は、魔女と出会ったり、人狼と話をしたりと、不思議な経験をしている。そう言った“非・日常的な出来事”や“そちら側のモノたち”と、遭遇する確率が高くなりそうな気がする。彼女のように“アンテナの感度”が高過ぎると。


——ダメだな、変なこと考えてる。甘いものでも食べてリフレッシュしよう!


 浩介は気持ちを切り替えるために、好物のみたらし団子の購入を決意する。せっかくお小遣いを貰っていることだし、ここはコンビニスイーツのお団子ではなく、和菓子屋さんのお団子に(浩介にとってはちょっとお高めな気がして、なかなか手が出なかった)しよう!

 ヴァネッサたちへのお土産にもなるからと、浩介は商店街にある和菓子屋を探し始めた。



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