■第二章 2ー1 嗚呼、スコッチエッグよ 何故にお前は……
本日の1本目です。
「ごめんくださーい!」
玄関から、元気の良い女性の声が聞こえてくる。
「はぁーい!」
と浩介は元気良く返事をする……が、同じリビングにいたセシルは怪訝な表情をし、動こうとはしない。一方、ヴァネッサは無言で、冷静にコーヒーカップに口を付けていて、こちらも動こうとしない(彼女は主人の立場だし、当たり前ではあるが)。今はティーブレイク中で、3人で淹れ立てのコーヒーの香りと、お茶請けのクッキーの味を楽しんでいる最中だ。
「えっと……荷物でも届いたのかな?」
続けて浩介は独り言を言ってみるものの、やはり2人の反応はなし。そんな2人をチラリと見て、これは下っ端=自分の仕事だろうと、浩介は玄関へと向かった。
セシルは基本的に、感情の変化が表情に出ることはないが、今は明らかに感情の起伏が消えている。感情自体が消えているように見える。何かを警戒している? その必要があるということか?
そんなことを何となく考えながら、浩介は玄関に到着し、木製の重厚な両開きの扉を開く。
「はーい、お待たせしました……」
「はぁい! 深海配達サービスです! ◯◯様からお届け物でぇす!」
そこには、胸元にやや大きめのダンボール箱を抱えた少女が立っていた。身長は150センチほどで、小柄だが肉付きは良さそう。引越し業者のような、紺色の全身のツナギを着ていて、上には黄緑色のジャンパーを羽織っている。頭にはジャンパーと同じ色のキャップ。
浩介が扉から顔を出すと、元気いっぱい! と言う感じでにこやかに返事を返してくる。可愛らしい声——キャンディボイスって言うんだっけ? 笑う感じは若々しくて元気いっぱいだが……それよりも……何トカ様? 何て言った?
「えっと……ごめん、もう一度送り主の名前教えてくれる?」
「はい! ◯◯様です! ▲▲にお住まいの!」
段ボール箱の上に乗せた伝票に視線を落としながら、少女は答えるが……だめだ、何と言っているのか解らない。いや、自分の耳が彼女の声を、音自体を拾っている感覚はあるのに、何を言っているのかが“認識できない”。ただ、荷物を持ってきた少女の笑顔と、ややタレ目で、愛嬌がある目付きしか、頭で認識できない。
「とにかく、それ、受け取ったらどうですか。女性に重い荷物を持たせたまま放置、というのは、男性としていかがなものかと思います」
玄関先でのやりとりに、いつの間にか後を追ってきていたセシルが声を掛ける。
それもそうだ、と浩介は段ボール箱——幅30センチくらい×奥行き20センチくらい×高さ20センチくらいのサイズ——を受け取ろうと手を伸ばす。
「あ! じゃぁ、受け取りのサインをお願いします!」
「あ、名前はあなたの名前を書いておいてください」
配達人の声に、セシルが反応して浩介に告げる。
「へいへい」
少女が差し出してきた“伝票らしきモノ”に、セシルの指示に従って浩介は「神崎」と書き込む。
「ハイ、ありがとうございましたぁ!」
伝票を受け取った配達人の少女は、にこりと笑ってお辞儀をし、元気に帰っていった。
「さて……とりあえず名を使った“呪”は避けられましたか……名を使ったものは、どれも危険度は高いですし。どうしても警戒度を上げる必要がありますからね」
セシルの言葉にギョッとして、浩介は慌てて抗議する。
「っておいおいおい! 不穏当な単語、今言わなかった!? 無防備に名前書いちゃったよ! 名前書くの、実は危険だったんじゃないの!? 教えてくれてもいいんじゃないのぉ!?」
「怪しげな術から主人の身を守ることは、従者の大切な努めです。ともあれ、何もなかったんですからいいじゃないですか」
——えぇー……何か納得いかないなぁ……。
浩介の抗議をマルッと無視して、セシルが言葉を続ける。彼女のその発言に、無言+ジト目で返す浩介。事前に情報を与えられていたのかどうかは、例え結果が同じだとしても、気持ちの部分ではかなり異なるものだ。
ここは断固抗議するべきだ、と言う自分の心に従い、浩介は無言+ジトの抗議行動を遂行し続ける。ここは折れてはいけないところである。例え浩介の立場が従者(見習い)だとしても! 主張するべきところは主張する!
頑なに無言を貫く浩介の態度を見て、セシルがサラリと言う。
「まぁまぁ。さて、本日の夕食のメインディッシュはスコッチエッグです。先日あなたがかなり気に入っていたと思いますが」
あからさまな話題変換なのだが、スコッチエッグと聞き、浩介はジト目が維持できなくなる。自分でも『安い』とは思うのだが……仕方がない。あれは素晴らしいモノだ。
浩介は脳内で食レポを始める。
——ホクホクとしたゆで卵に、それを包み込むハンバーグ(正確にはひき肉らしい)。さらに全体はきつね色にからりとフライされていて、特製のソースがかけられている。ケチャップでもウスターソースでもないな、あれは。
ザクリと音を立てて口に含むと、溢れる肉汁とホクホクしたゆで卵の君の部分が混じり合い、そこにソースのあま塩っぱい(酸味もあった気がする)味わいが、口いっぱいに広がって……。
先日初めて食べたときには、こんなに美味い物があるのか、と感動した。さすが魔女の屋敷である(?)。とにかく、あの味わいを思い浮かべることは、不満を伝えることよりも優先していいと思う。うん。お腹が空いてきた。
にしても……と浩介は疑問を感じる。これまでわざわざ聞かなかったが、ヴァネッサもセシルも何人なのか? 外見は完全に日本人ではないし、住んでいるところも洋館。外国籍の人間だろう……とは思うが、端々に何故か“日本人臭さ”を感じる。ちなみに、夕食はいつも、ライスが付いてくる“日本式の洋食”スタイル。朝には味噌汁に卵焼き、鮭の切り身と、旅館の朝食を思い起こさせるラインナップだ。もちろん、全食お箸を使用している(ナイフとフォーク、スプーンも使用するが、その場合も+お箸がデフォルト)。
そもそもヴァネッサは自分のことを“魔女”だと名乗っている。となると、不思議な術? で、外見とかイジってるのか? 全裸は見たことあるけど、別に不自然に感じるところなかったけどなぁ。などと、移動を始めたセシルの後を、浩介は追っていった。




