■第一章 6−4 そして魔女がやって来る
本日はこれでラストです。
真理恵の激白を聞きながら、すべてが丸く収まる方法はないかと考え込んでいた。
真理恵の言うキーワードが、呪詛を解く鍵だったとしよう。これで、魔道具の核たちは元の世界に帰ることができる。呪縛から解き放たれ、自由になれる。それはすばらしいことだとは思う。
その場合、犠牲になるのは、“業”を積み重ねてきた一族。真理恵を長年苦しめてきた者たちだし、それは仕方がないことだろう。自業自得。自分のやった行いは自分い返ってくるのが正常な状態だ。
だが……そうなると、真理恵はどうなる? 真理恵はもちろん、その一族の一員でもある。ずいぶんと仲良くもなったし、真理恵が死ぬだとか苦痛を感じるだとか、そういう状況になるのを、浩介は歓迎できない。
そう言えば、昨夜浩介はセシルからあるものを受け取っている。腰のベルトに挟み込んで持ってきていた、短剣のような見た目のモノ。受け取ったときに、セシルは
『相手を刺す』
と言っていた。刃物だとしたら確かに扱いに慣れてはいないけど……これ、相手に刺すと、その相手はどうなるんだろう? まさか実際に試す訳にもいかないし……。
と、モヤモヤ浩介が考えていたせいだろう。浩介の存在の眼前に、先ほど思い浮かべていた短剣らしき物品が姿を現した。
それを覚知した人狼が、慌てた声を上げる。
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——それは……!? それをどこで手に入れた!
いや、うちの先輩メイドが持たせてくれたんだけど。主人から預かってきたって。
——なんと! お前の主人とは未来視を持つ者か!?
未来視? 確かに魔女って自分では言ってたけど、そんな力持っているかは知らない。
——ともあれ、それは魔女の仕業ではない。大魔女の御業だ。
それ? このアイテム? これが何なのか解るのか?
——それは因果律を断ち切るモノ。魔法の痕跡も、面々と連なった業の繋がりも、断ち切ってしまうだろう。解るか? すべての現象には波が、動きがある。それは魔法や風なども同じ。お前らが不思議だと感じることにも、すべて因果律が複雑に絡み合って、その事象を引き起こしている。そこに繋がっている線を、“なかったこと”にしてしまうのだ。
じゃぁ、ひょっとして……真理恵の一族の業とかも消せる?
——使い方次第、であろう。一族との繋がりを斬れば、確かに業が及ばない状態にはなるだろう。そのことなのだろう? 気にしているのは。だが、使い方を誤れば、存在そのものが消えてしまう。
消えるって……。
——文字通り消える。死ぬ、ではない。存在自体が“なかった”ことになる。その者を構築するすべての要素を“斬って”しまえば、当然その者を存在させることは適わない。
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人狼の説明に浩介は驚愕した。
真理恵は例のキーワードを使うことに前向きだ。躊躇わず、すぐにでも使用するだろう。が、その前にこの短剣らしき物を使い、業の跳ね返りを阻止したい。なのに、このアイテムの詳しい使い方が判らない。きちんと使わなきゃ真理恵の存在そのものが消えてしまう?
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これ、渡されただけで使い方を知らないんだ。もちろん、使ったこともない。使い方を知っていたり……。
——私がか? いや、知らぬ。見たのも初めてだ。その存在感から近くしたに過ぎない。そうなると……無理に使うことは薦められない。力が強大過ぎる。
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せっかくだし、と人狼に訪ねるが……何てことだ。せっかく解決する手段はあるのに、何も出来ない、することがない。状況の変化をただ見ていることしか出来ないのか。けど、絶望もしていられない、ほかの手段は……。
と、浩介が焦りを感じているときに、この空間に珍客の声が響き渡った。
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「いやいやいや。みんな揃っているね。ちょうど良かったよ。そろそろ手が必要だと思ってね」
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真理恵の依頼を受けた大元で、浩介の主人でもあるヴァネッサの存在感が、突然真っ白な空間に出現した。
そろそろ第一章もラストを迎える予定です。
ともあれ、それではまた来週も
楽しんでいただけるとうれしいです。