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大魔女の従者  作者: ことぶきGON
第一章 月下の邂逅 篇
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■第一章 1−1 帰り道での異変

連続投稿です。

 フリーターである神崎浩介は、夜の公園を歩いていた。

 働き先のコンビニは某大学近くにあり、新入生の多いこの季節はなかなかに繁盛する。今日も品出しにレジ打ちにと、大忙しだった。原因は、その店のバイト補充が間に合っていないことなのだが。

 とにかく、本日も17時間労働を終え、深夜の公園の道を急ぐ。

 バイト先が近くにあるのはありがたいし、ほかのグループ店舗への移動の可能だが(選択肢は3つだけだが)、今更ほかの店へ勤務先を変更するのもばからしい。浩介のアパートは、コンビニ近くの公園を挟んだ反対側にあるのだ。通勤時間はドア・トゥ・ドアで、歩いて12分。急げば10分を切る。



 浩介は夜道をサクサクと歩く。

 公園を横切り、コンビニへと通うこの生活は、もう1年になる。

 何の取り柄もなく、将来への展望も夢もなく、何となく高校に通い、“順当に”大学受験に失敗。そのまま予備校通いながら、バイトをしつつ…受験合格を目指して…という訳にはいかず、そのままフリーターとして日銭を稼いでいる。

 将来の展望? そんなもの、いまだに持てない。彼は自分の黒歴史に囚われたまま、何となく日々を過ごしていた。

 今横切っている公園は、自然に溢れていて、近所の住人たちの散歩、またはジョギングコースとして人気がある。昼間はそれなりの賑わいを見せるが、深夜12時に近いこの時間になると、ほとんど人影は見えない。

 街灯も少なく、低年齢の頃なら間違いなく、オバケが出そうだから、と、迂回しているところだ。


──そういえば、最初の頃はこの道を通るの、心細かったなぁ。


 本日は曇り空で月明かりもなく、薄暗さはいつもより増している。公園の敷地が広いこともあり、付近には民家もほとんどなく、深夜の静けさはより際立っている。

 自分が道を歩くコツ、コツという音だけが響いている。

 こんなときには、ぼんやりと考え事をしてしまう。いつもの癖だ。

 今日の仕事中に出会った面倒な客や今日の晩御飯のこと。そしてさっきまで一緒にした、バイト仲間(遅番)の女の子のこと。今日も美樹ちゃん、かわいかったなぁ、とか。

 ちなみに、浩介に彼女はいない。女性との接点も、今のところ


  ・客の女性(立地的に女子大生が多いが、近所のOLとかおばちゃんおばあちゃんとかも含む)

  ・バイト仲間

  ・店舗の売上などを確認しにくる本社の女性


辺りである。なんとも華のない、味気ない生活である。飲み会などに出かけていって彼女を作るとか、バイトの女の子たちを誘って遊びに行く、という発想は今のところ特にない。バイト代はそこまで多くないし、家賃と食費などを出すのでいっぱいいっぱいである。そんな、遊びに行くほどの余裕はない。

 ……ということを理由にして、アクティブに出会いを求めることはしていない。浩介にとって恋愛事は、人生における優先順位が高くないのだ。そもそも女性と楽しく会話するなんてハードルが高すぎる。

 優先度と言っても、人生にこれと言った目標、優先度が高いことがあるわけでもない。今更受験の勉強を再開するつもりもない。勉強に挫折しただけでなく、進学し、無難に就職をして……という未来への展望や渇望も抱けない。今年は予備校に申し込みをすることすら止めてしまっていた。

 つい、何かきっかけがあれば……それこそ、今流行りの異世界にでも転生できれば、なんて言い訳をしてしまう。そう、自分でもこれは言い訳だと自覚はしている。けど、何かを始めなければ、という焦燥感もなく、趣味と言えるものも今のところない。

 何となく、バイトをし、飯を食って風呂入って寝るだけ。浩介は日々を漫然と過ごしていた。



 本日の晩御飯は、近所のスーパーで買った見切り品ののり弁。見切り品だけあって50%オフ! ここ2、3日はこれがお気に入りのメニューだ。さすがにカップ麺が続くと飽きが来てしまう。


——あ、洗濯物溜まってるんだった。


 ふと、やらなければならないことを思い出す。洗濯は週に1回のペース。そろそろ残りの(洗濯済みの)パンツがなくなる。パンツそのものの持久力も尽きかけていて、新しいものを買わないといけない。

 こんな生活を続けていると、親元にいる“ありがたさ”を感じてしまう。あまり愛情をかけてもらってはいないが、洗濯や食事にあまり苦労はしていなかった気がする。食事はほとんど自炊 or 外食だったが、そのための食費はもらっていた。

 親はどちらも職に就いていて、どちらかと言えば生活より仕事の方が面白い、と感じるタイプ。あの2人みたいに熱中できるものが見つからない、ということが、浩介の密かなコンプレックスだった。

 自分の将来よりも、自身の仕事の方に興味が向いている。だからこそ、受験を失敗した浩介が、自立して一人暮らしを始めること(生活費は自分で稼ぐことが条件だったが)にもうるさく言われなかったし、その後二度目の受験失敗にも口を出してこない。

 破れかけたパンツと両親の顔を思い浮かべ、少し鬱気味になる浩介。こんなときは考えること自体を止め、ぼんやりとするに限る。浩介の幼い頃からの“自衛行為”だった。

 考えるのを強制終了し、家路へと急ぐ浩介。先ほどよりやや早歩きだ。両親はあまり干渉して来ないが、空のお月さんは今夜も静かに浩介を見守ってくれている。例え曇って姿は見えなくても。


 ギィン。 


 と、そこに、いつもならありえない、高い金属音のような音が鳴り響いた——。




本日はもう1話続きます。


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