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大魔女の従者  作者: ことぶきGON
第一章 月下の邂逅 篇
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■第一章 5−3(閑話) 魔女は哀れな一族と賢者を思う

 神宮寺邸の人狼襲撃の前夜。ヴァネッサはゆったりとしたソファーに座って、セシルの報告を受けていた。セシルは報告の後、今夜も神宮寺邸を見下ろす位置で朝まで待機する予定だ。夜に報告して、朝方屋敷に戻ってきて報告をする。これが浩介が出張に向かった日からの、セシルのルーチンワークとなっていた。

「今のところ、神宮寺邸の周囲にはやはり気配はありません。多分、今夜も変わりないかと思います」

 ヴァネッサは報告を聞きながら、コーヒーを口に運ぶ。香ばしい香りが彼女の鼻腔をくすぐる。お気に入りは基本的に紅茶、中でもディンブラが好きだが、最近は浩介が好んで飲むから、という理由でコーヒーも嗜んでいる。

「どうしましょう? 依頼ではありますが……そろそろあの助手を引き上げてもいいのでは? 前と同じように、私があの屋敷を警戒しているだけで事足りると思うのですが」

 何気なくセシルは言うが、彼女が浩介に興味を持ちつつあることをヴァネッサは知っている。

「まぁ、そう急く必要もないだろう。どのみち、アレは歪んだ一族だ。もうそろそろ落日が来ても仕方がないだろうが……一応は我々は依頼として受けているからな」

「そのために、うちの下働き——今は助手でしたか。彼を巻き込む必要があるとは思えません。あのお嬢様のフォローをさせるために出張させているのでしょう? 事件が終わったとき、彼の心に傷が残る気もするのですが……」

 セシルが浩介のことを気遣っていることに、密かにヴァネッサは驚く。自分の娘のような存在である彼女に、ヴァネッサは優しく諭すように、軽く笑みを浮かべながら言う。

「彼女がすべてを浩介に明かすようなら、少しは心を痛めるかもしれんが……それでもあいつなら大丈夫だろう。どのみち、あと3日ほどでケリはつく。そこはすでに確定事項だ」

「……3日経って、このままこの屋敷に帰ってこないということもあるのでは?」

「そういう未来もないとは言えん。真理恵嬢が生き残っていれば、という前提になるがな。もちろん、生き残ってくれないと依頼は失敗となるし……うん、それはありがたくないな。この業界、結構狭いからな。依頼失敗となれば、こちらの力量を疑うバカが出てこないとこ限らない」

 軽い笑みではなく、はっきりと笑顔を浮かべるヴァネッサ。

「どんな結末になるか、今のところはまだ確定していない。そこで、1つだけ手を打とうと思っている」

 そう言って、彼女は座っているソファーの後ろにあった道具箱をガサゴソと漁り始めた。

 セシルは知っている。こう言うときのヴァネッサは、自分の叡智を駆使した何かを用意するはずだ。人狼に対峙する前に、空間位置を把握し、すばやく移動できる道具や、人狼の繰り出す圧倒的なエネルギーを“そのまま反射させる”道具をセシルに渡したときも、同じようなやり取りをした覚えがある。

「……あったあった。これ、浩介に渡してくれるか?」

 そう言って、ヴァネッサはセシルの手に、1本の短剣のようなものを渡してきた。

 20センチくらいのサイズで、ボディには古めかしい西洋風の装飾が付いている。

「これは……ナイフ? いや、剣ですか?」

「そういった方向の“武器”じゃぁないな。でも、あいつにとっては、間違いなく切り札になる」

「それが必要になると……?」

「そう警戒するな。多分、あの敵は、きっと浩介にある場所を指定し、招き寄せるだろう。自分の想いを理解してくれそうな相手だしな。“そんな誘惑”に抗える相手とも思えん。時空を超えるくらい、情熱的な奴のようだしな」

「……? おっしゃることの意味は理解はできません。が、あの助手に必要なものだとおっしゃるなら、間違いなく届けましょう」

「あぁ。よろしく頼む。多分あいつは、救いを与えたいと思うだろうし、それを何とかしてあげたいと私は思っているのだよ」

「救い、ですか? それはあの助手への救いではなく?」

「私が救いを与えるのじゃあないよ。“すべてのものに救いを与える”。何事もないかのような顔で、“今回も”あいつは何気なくやってのけるのだろうが、少しくらい関わりたいと思うのだよ」

「……これが、その助けになると?」

 セシルは、受け取った短剣状の何かを、目の前に持ってきて、いろんな角度からチェックしようとする。

「間違いなく必要となるだろうからな。あのお嬢さんの屋敷は、ドロドロに歪んだ場所だ。そこに囚われているお嬢さんは、文字通りの“囚われた姫”なんだ。それを救出するヒーローに魔法のアイテムを渡す。いかにも魔女らしい役割だろ?」

「救い出されるのは生きた状態で? それとも……?」

「さぁな。さて、一体どんな結末になるのかな……」

 ヴァネッサは残りわずかとなった冷めたコーヒーを、喉に流し込んだ。



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