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大魔女の従者  作者: ことぶきGON
第一章 月下の邂逅 篇
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■第一章 3−3 《颶風》の目覚め

「ふぅ……ようやく起きたみたいですね。もうお腹いっぱいもらったのでしょう? そのそろちゃんと起きてくださいね」

 《颶風ぐふう》の輝きを見て浩介がぎょっとするが、真理恵は冷静にコメントする。まるで魔道具自体に意志があるかのように語りかけている。

「そうそう……浩介さんはそのまま力を維持してください。さぁ寝坊助さんは、しっかりとお返事を返してください」

 そんな真理恵の言葉に答えるかのように、《颶風》はより強く輝きを放った。そして、その光に刺激されたかのように、周囲に風が吹き始める。核である《颶風》を中心に渦を巻くように。

「えぇ!? これ何!?」

「集中を切らさないように!」

 狼狽する浩介に、真理恵から厳しい声が飛ぶ。体勢はそのままなので、彼女が声を張ることでロケットおっぱいとの密着度がアップする。その感触に一瞬意識を持っていかれそうになるが、真理恵が続いて発した、強めの口調に浩介は集中し直す。

「さぁ、もっとですよ! もっと自分の力を強く、濃く見せなさい! そこいらの底辺魔道具とは格が違うところを見せてみなさい!!」

 真理恵の声に呼応し、吹き荒れる風は増し、暴風と化す。浩介たちはまるで、巨大台風上陸時のような、強力な突風に晒されていた——。




 数時間後。待機場所となっている蔵に、浩介は戻ってきていた。

 蔵の中は全体的に小上がりになっていて、その上には計12枚の畳が敷かれている。そこにはひと組の布団が用意されていて、神宮寺邸に寝泊まりし始めた日から、浩介は自分で布団を上げ下げしていた。食事は真理恵のいる本家邸宅で、彼女と共にいただいている。先ほどの魔道具訓練? が行われたのは食事の後で、それから3時間ほどが経過している。あとは寝るだけ、と浩介は布団の上に身を投げ出し、数時間前の光景を思い浮かべた。

 まるでアニメや映画のワンシーンだった。自分の左腕に装着した魔道具から、凄まじい風が巻き起こっていた。おかげで、あの道場? にあった物(浩介から見えない位置の壁に並べられていた木刀とか)は、風に吹き飛ばされ、あちこちに散らばっていた。

 これがいわゆる、魔道具の発動ですね、と麻里恵は言っていた。魔道具《颶風》は、風を自在に操る能力を持っているとのこと。続けて

「使いこなせば、風を巻き起こすだけじゃないんですけどね」

と真理恵は言っていたが……ほかにどんな能力があるんだろう? 風ってことは、空気を流動させているんだろうし、何か別のモノを動かしたりできるんだろうか。

 そんなことを、取り止めもなくつらつらと考える。衝撃的な体験で疲労が溜まったのか、睡眠欲が浩介の思考を少しづつ鈍くさせていく。

 真理恵の変化にも戸惑った。

 屋敷で親しくしている者がいない、とは早々に気づいた。


——ボッチのお嬢様かぁ。

 悩みとか相談する相手もいなさそうだし、言いたいこともきっと言えないまま育ったんだろうな。

 せめて、出張中は親しくしてあげたいな。

 彼女が話したいこと、しっかり聞いてあげないとな。


などと考えていた。知り合って間もない真理恵に同情した? 庇護欲を掻き立てられた? 真相は浩介自身にも解らないが、彼女にはかなり気を遣おうと密かに決めていた。

 ……が、彼女は鈍感なのか精神的にタフなのか。自分の境遇を可哀想だとまったく思っていないようだった。

 それはそうだろう。言いたいことが言えないだって? 屋敷の使用人たちに対し、叱るときにははっきりとロジック立てて言う。声を荒げることもなく、淡々と事実を指摘し、叱る。それを、真理恵の部屋から道場へと移動する際に遭遇した、若い女性の使用人とのやり取りで実践していた。

 軽い嫌味のようなことを言う使用人に対し、相手の言うことをまともに捉えず、必要なことだけを言う。その態度は改めなさい、と。真理恵の反応に対し、『しまった、怒らせたかも知れない』と相手が慌てて頭を下げるが、それを無視し、淡々と必要なことを言うのみ。『あなたはこの屋敷付きになって日が浅いようですね。この屋敷の主人が誰だか知らなかったのかな』『だからけじめとして、例を尽くす必要があります』などなど。

 それは相手の感情の動きをまったく気にかけていない態度で、それはわざとそうしているように浩介には見えた。

 真理恵は頭の回転が速く、どうするべきかときちんと考え、言うべきことだけをシンプルに伝えることができる。それを実行する態度は、結果的に相手に威圧感を与えている。その結果が、フランクに接する相手を、この神宮寺エリアで奪っているのだろう——要するに、浩介が想定していた『言いたいことも言えない、哀れなお嬢様』は、どこにもいなかったのである。

 浩介に対してフランクな物言いを……と申し出てくれたのは、多分浩介が緊張気味だったからだろう、今考えると、きっと。それが必要だと彼女は考えたのだろう。その気遣いを有難いと思いながら、フランクな調子で真理恵とやり取りを続けようと浩介は思う。意外と彼女は計算高いのかも知れないな、とも考える。


——そう言えば、明日も魔道具の訓練やるんだっけ………。


 明日の予定をぼんやりと頭に浮かべながら、浩介は夢の中へと落ちていった。




********************




 神宮寺邸の近く。邸内を眺められる位置にある、小高い山にある高い一本杉のてっぺん。そこに、いつものお仕着せ姿のセシルの姿があった。直線距離で2キロメートルほどの距離があるこの場所で、人狼襲撃時の戦闘要員として待機・警戒任務中だ。連日陽が落ちてから、セシルはここで屋敷とその周辺を見ているが、今夜も人狼が現れる様子はない。だが、きっと近いうちに来るはず、と、主人であるヴァネッサは言っていた。来るのか、来ないのか。セシルにとってはどちらでもいいこと。彼女に重要なのは、ヴァネッサの指示通りに、屋敷とその周辺、そして神宮寺エリアにいるすべての人間を監視し、襲撃があった場合は適切な対処をすることだけ。そのことにしか興味はない。

 浩介とクライアントである真理恵のやり取りも、この場所から見ていた。その結果、彼女は自覚なく、やや不機嫌だった。


——マナの供給ですか……あんなモノ、ヴァネッサさまとのやり取りの中で慣れているでしょうに。なぜ、あの程度の魔道具を発動させたくらいで、あのように感動しているのでしょうか。


 浩介は知らなかったが、実はヴァネッサたちと行う“精”の提供は、神宮寺真理恵嬢の言うマナのコントロール術と似通っている。もし、セシルが《颶風》を装着すれば、苦もなく能力を発動出来るだろう。


——まぁ、そのときは少し“言い聞かせる”必要があるかもしれませんが、格の問題でゴリ押しもできるでしょう。


 あの男は眠りに就いたようだ。それにしても、少し気に入らない。

 屋敷に戻ったら、少しずつ術を教えてもいいのかもしれません、などを考えながら、セシルは監視を続けた。



本日は残り1話です。



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