天才は秀才に劣るらしい
「僕が天才だって?」
「ああ、誰がどう見てもナタリアは魔法学の天才だろう?」
「馬鹿言わないでくれ。僕は天才なんかじゃない」
「ならなんなんだ」
「努力家、秀才、そう呼んでくれ」
自分で言っておいてナルシストっぽく聞こえるなと思う。
「天才と言われる方が嬉しくないか?」
「才能に胡座をかいて落ちぶれる奴らと一緒にしないでくれ。僕は努力の人なんだ。秀才は天才に勝るんだ」
そういうと目の前の男は僕を睨みつける。
「王家の中でも稀代の天才と呼ばれる俺への当てつけか?」
「そう思うならとっとと魔法学の本を持って帰って研究でもしてろよ」
「君は本当に小憎たらしい。…また来る」
「もう来るな」
王太子殿下が帰ると、僕はへにょへにょと力が抜け床に座り込む。本物の天才は、怖い。天才は秀才に劣るとはいえ、それは努力していない天才に限った話。努力する天才には、秀才は勝てない。彼は、努力する天才だ。いつかきっと、追い抜かれる。
「…僕はなにをしているんだろうな」
彼は最初、キラキラした目で魔女様と僕を呼んだ。そんな幼い彼が可愛くて、国王陛下のお許しを得て魔法学を叩き込んだ。
彼はスポンジのようにするすると魔法学を身につけた。気付けば私の見た目年齢と同い年。彼は魔法学の天才の弟子と呼ばれるが、実際のところ彼こそ魔法学の天才だ。
もう、教えることなんてない。だから教材やらなんやらを持たせて自主研究させている。早いとこ王城からお暇したい。
「…僕が本気で逃げようとしないのは何故なのか」
答えはもう出ていた。見ないフリをするだけで。
「…ナタリア。これを飲んでくれ」
「は?嫌だけど…むぐっ!?」
突然王太子殿下にキスをされて無理矢理口移しで薬品を飲まされた。
「な、なに…」
「惚れ薬だよ。俺はナタリアがこんなに好きなのに、ナタリアは俺を愛してくれないんだもの」
「…君は馬鹿だ」
なにも、変わらない。そう、なにも。
「…なんで効かないんだ!?」
「そりゃあ、最初から僕が君を愛しているからさ」
王太子殿下は目を丸くする。
「…なら!」
「でも、身分違いもいいところさ。魔女と王太子では…ね」
「ナタリア!」
僕は身を引く。王太子殿下の幸せのために。
「さようなら」
僕は転移魔法で隣国に逃げた。どうか、幸せになって欲しい。
だから後日、まさか隣国まで王太子殿下が迎えに来るとは思わなくてすごく驚くことになった。その時には逃げ道を奪われ外堀も埋められていた。この王太子怖い。