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9話 発掘者と河童と悪友

「リメイン教授ですか!?」


 グラスは暗くしていた顔から一転、一気に興奮した顔になる。


「なんだ?知ってるのか?」


 そのアルベルの言葉に大きく首を縦に振る。


「有名な教授ですよ!!ほぼ一人で研究している人です!!」


 グラスは興奮のあまりに声が大きく、そして身振り手振りも大きくなっていた。その勢いにアリベルとレインは体をのけぞらせる。


「ほぉ・・」

「研究成果も素晴らしく、今学生の間では入りたい研究室No.1の教授です」


 そう言ってグラスは人差し指を立てた。「まぁ、ゼミに入れた学生はないんですけどね」と付け加え、頼んだアイスコーヒーを飲む。


「へぇ・・・」

「そうなんですか」


 とんでもなく高い評価にアルベルとレインは引きずった笑みを浮かべる。


「でもなんで、アリベルさんがリメイン教授のことを?大学でさえ場所把握してないのに」

「なんでって・・・」


 アリベルとレインは見合う。そして、レインが口を開く。


「リメインさんは元発掘者ですからね」


 一瞬の静寂が広がる。立ち上がる。


「えぇぇーーーー!?」


 その静寂は少女の驚きの声で打ち壊される。


「まぁ、知らないだろうな。短い間だったしな。あいつが発掘者だったのは」


 そう言って、アリベルとレインは立ち上がり、レジに向かい、会計を済ませる。


「嫌なことを早く終わらせるに限る。行くぞ」


 アリベルはグラスの方を見て言う。そしてそのままアリベルとレインは店の外に出ていった。レインの表情はかなり渋く、背中も丸まっている。どうしても行きたくないことが見て取れる。


 信じられない事実に、ポケーっとしていたグラスは二人が既に店外にいることに気づき。慌てて荷物をまとめて立ち上がる。


「ちょっと置いてかないでくださいよ!!」


 グラスは早足で二人を追いかけた。



 歩き始めて5分ほどたった。


 リメインという人物は非常に変わった人なのだろう。


 グラスはそれを肌でひしひしと感じていた。この街の路地裏に入ったかと思えば、そのわきにある小道へ。そして道かどうかわからない道にまで通っていく。見上げると空はすでに建物で遮られ見えなくなり、周りも静かで薄暗い雰囲気に包まれていた。


「こう言うところを来るのは初めてか?」


 アリベルは少し不安そうな顔をしているグラスに話しかけた。


「はい・・・私たち学生はこういうところには入らないようにさんざん言われてますから」

「まぁ、こんなところ来ても何もいいことないからな」

「昼こそかなり静かで、危険はほとんどありませんけど、夜はこわいですよー」


 そんなことを話しているうちに、行き止まりになる。


 目線を上げるとそこにはトタンで作られた大きな建物があった。


「ここがリメイン教授の研究所ですか・・・」


 グラスは顔を引きずらせる。塗装は剥げており、雨風で錆び、屋根は割れている。間違っても研究とは縁がなさそうな建物だった。


「そうだ。さっさと用事済ませて、迷宮に向かうぞ」


 そういって扉に手をかけて、扉を開ける。


「ちょっと呼び鈴使わなくて大丈夫なんですか?

 ってあれ?」


 グラスは扉の向こう側を見て目をパチクリさせる。


 あのおんぼろだったトタンの研究所とは思えないほどきれいな玄関がアリベルたちを向かい入れていた。


「どうせあいつは研究してるから呼び鈴は聞こえない」

「どうせとは研究とはまた失礼なことを言うね。アリベル」


 扉の方から中性的な声が聞こえる。


「おぉ、リメイン。珍しく、気付いたか」

「リメインさんお久しぶりです」

「あぁひさしぶりだね。アリベル、レイン、それと」


 扉が開かれる。


 そこには金髪で青い瞳。いわゆる王子様と言われるような絶世の美男子がいた。その青い瞳がグラスを貫く。


「あぁ魔法国立の生徒か」

「はじめまして!!私魔法国立中央大学・高等部、グラス・ミーシャです」


 グラスは慌てて頭を下げる。


「それでなんのようだい?」


 グラスには興味ないのかすぐに視線を外し、アリベルとレインに笑いかけながら聞く。


「いや、外出許可書をかいてもらいたくてな」

「なんだ、そんな用事か」


 リメインはつまらなさそうな表情をのぞかせる。


「いいよ。」


 リメインは翻し、中に入っていく。


「探すのに時間がかかるから中で待っててくれ」


 そう言って三人に客間で待つことをすすめる。その言葉を聞いて、アリベルとレインは顔をしかめさせる。


「大丈夫だよ。昨日から客人が来て寝不足でね。君たちをどうこうしようなんてやる気も起きないのさ」


 その言葉を聞いてアリベルとレインは安堵をため息をついて、奥の客間にむかった。


「それで三人でどこへ行くんだい?」


 リメインは外出許可書を書きながら、雑談かてら、そう訪ねてきた。


「ウークラフト遺跡」


 書く手が止まる。


「本気かい?」


 アリベルの言葉を思わず顔をあげ、リメインは聞くが、三人の表情は真剣そのものだった。


 そのリメインは様子に額に手を当て、ため息をつく。


「君たちに相性が悪い遺跡じゃないか。まぁ心配はいらないと思うけど、そんなところで死なないでくれよ」


 そう言って、リメインは外出許可書に判子を押す。


「心配してくれるなんて、いい人じゃないですか」


 グラスはアリベルにそう小声で言う。


「いい人!?まさか!!あいつは根にもってるからな。俺たちを殺せなかったこと」

「え?」

「あいつは発掘者でありながら、発掘者を殺す。有名なサイコパス発掘者だったんだぜ」

「昔のことだよ」


 そう言ってリメインは爽やかな笑みを浮かべる。


「殺された発掘者は300を越える」


 それを聞いたグラスは青ざめる。


「うーん、そんなに殺してたのか。飛んできたハエを叩いているだけなんだがね」


 他人事のようにリメインは頬をつきながら言う。


「バリバリの貴族だから。選民思考が強いんだわ。失礼なことをしたやつを、蚊を潰すように殺されるぞ」


 アリベルはグラスに小声で言う。その内容にグラスは顔を引きずらせる。


「アリベルとレインの2人は強いよ。本当に強かった。今でも夢にでてくるよー」


 「もう恋かもねー」と続けて言ってリメインはケラケラと笑い出す。


 その笑いに三人はひきつった笑いを浮かべる。


「僕は尊敬しているわけだよ。この僕が殺すことができなかった二人を」


 そう言ってリメインはアリベルに外出許可書を差し出す。それをアリベルは受け取り、ため息を一つ。


「お前なんかに尊敬されてもな」


 そういう会話を終えて、玄関へ移動する。


「あぁ、そうだ。一つ教授らしくグラスさんにアドバイスをしとこう」


 リメインは思い付いたかのようにグラスに話しかける。


「はい、何でしょう?」

「昨日「外出許可書を書かないように」とわざわざこの家まで来た人がいたんだ」

「外出許可書、書いてもよかったのかよ」


 アリベルはそう言うと、リメインはやれやれと両手を上げる。


「従う必要なんてないよ、三下の言うことなんてね」

「お前絶対いつか闇討ちされるぞ」


 アリベルがいうとリメインは鼻で笑う。


「僕の実力は君が一番知ってるだろ?」


 その笑みにアリベルとレインは苦いものを思い出したかのような表情をうかべる。


「あぁ、そうだったな。杞憂だなそれは」

「そうだとも」


 アリベルの言葉に満足したのか。リメインはにっこり笑った。



「ありがとうございました。リメインさん。」


 レインとグラスは頭を下げる。


「別に構わないさ。それよりアリベル、レイン。今度お茶でもどうかな。最高のおもてなしをさせてもらうけど」

「「絶対に嫌だ!!」」


 二人はそう言って、リメインの研究所を後にした。


「さて、外出許可書ももらえたし、今日中にとなり街へむかってしまうぞ」


 アリベルはグラスに外出許可書を渡す。


「そうですね、遅れてしまったぶん頑張りましょう。グラスさん!」

「はい!がんばります!!」


 3人はようやく迷宮に向けて歩き始めたのだった。


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