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5話 発掘者と河童と崩れ

 木の裏で気配を殺してアリベルがはなった魔法が発掘者崩れ(フォールジャンク)全員に直撃した。


「よし、じゃあ行ってくるわ」


 アリベルは少し離れたレインに笑みを浮かべる。レインはいってらっしゃいと、軽く手を振った。


 木の裏から勢いよく飛び出す。


 接近するのにかかった時間はコンマ数秒。既にアリベルは一番近くにいた敵の懐に潜り込んでいた。


「おまっいつの間に!?」


 男は自分の胸元に目をやり、信じられないと目を見開く。


 アリベルは抜刀しないまま、剣の柄で男の鳩尾に突き立てる。 


「フガっ!?」


 鳩尾を突かれた男は、痛みの余りそのまま地面に突っ伏す。


「まずは一人目・・・」


(まだ敵が認知できていない間に片づける!!)


 更に加速する。


「あいつだ!!」


 いち早く状況を理解した男は指をさしながら、落とした武器を手に取ろうと身を屈める。


 その瞬間をアリベルは見逃さない。


「小雷」


 アリベルは男の手元を狙い魔法を放つ。それは、先ほどの魔法と違い、小さな落雷のような軌道を描き、男に襲い掛かる。


「っつ!?」 


 アリベルの雷撃で二度、武器を落とす。抗う手段がなくなった男に、アリベルの後ろ蹴りが炸裂する。男はなすすべなく吹き飛ばされ、木に音を立て激突する。


 その男は顔を上げることはなかった。


「二人目」


 アリベルはそう言って次の標的に目をやる。


「ひっ!?」


 その男はいきなり二人の仲間が無力化されたからか顔を真っ青にし、悲鳴を小さく上げる。男が持っている武器も小刻み震えている。


「くそぉぉーーー!!!」


 覚悟を決めたのか男はアリベルに向かって、突撃する。しかし何も考えられていない突撃は彼にとってはただの動く的だった。


 男の剣をサラリと交わし、鞘で頭を打ち叩く。ゴンっという音ともに地面に倒れる。


「三人目」

「もらったー!!!」


 男が切りかかる。アリベルの注意がその男に向く前の奇襲の()()()だった。


「遅い!!」


 しかし遅い。剣を振りかぶって、がら空きだった男の横腹に、手を地面につき、足で弧を描くように横蹴りを入れる。


「・・・四人目」


 時間にしてものの数秒、四人が無力化した。発掘者崩れ(フォールジャンク)の集団は文字通り半壊した。


「くそが!!」


 アリベルから少し離れていた男が銃を構える。


「しねぇ!!!」


 男はニヤリと口元をゆがめ引き金を引き、銃弾が放たれる。


 銃は強力な武器である。銃弾が体のどこかに当たれば、人間ならば致命傷になる。


「なんだと!?」


 男は驚愕の表情を浮かべる。


 直撃したはずの銃弾はアリベルの体を貫くことはなかった。


「悪いな。魔道具なんだこの装備」


 そう言って、アリベルは距離を詰め、意識を刈り取った。


「五人目」


 アリベルはそう言って、最後の一人の男に目を向ける。



(厄介だな・・・)


 アリベルは心のなかで舌打ちする。


 最後に残ったの男は他の5人とは違った。アリベルと適切な距離を保っており、近づかれても対応できるように意識しているのが見て取れる。そして仲間が倒されても表情を変えないところからも、相当戦い「慣れて」いる。


 そうアリベルは感じていた。


「攻撃の利かない灰色のフード、雷魔法、独特の体術。お前、宝石拾いのアリベルか」

「なんだ俺のこと知っているのか」


 喋りながらも、悟られぬようにゆっくりと距離を詰めていく。


「発掘者で有名だぜ。まだ迷宮に潜っているバカがいるってな。しかもしていることが宝石拾いだと知ったときは笑ったよ」

「・・・」


 アリベルは反論しない。スキを伺うが、なかなか目線がアリベルから外れず、戦況は膠着状態。


「笑いもんだぜ。お前は」


 そう言って男はニチャリと笑う。


「笑いものになっているのはお前だろう。発掘者崩れ(フォールジャンク)なんかになりやがって・・・残りの五人なんてもう戦闘の勘もなかった。そんなんでよく迷宮で生き残れてたな」


 アリベルはスキを作ろうと、わざと馬鹿にしたように両手を上げながらやれやれと首を振る。


「・・・発掘者の仕事がなくなってから5年たっているからな。だが俺はこの五人とは違うぜ」

「変わんねぇよ。やっていることは」


 アリベルは呆れた顔をして言う。


「なぁ提案なんだが、お前も発掘者のわけだ。大学に恨みはあるだろう」

「だから組もうってか?」


 そうアリベルがいうと男はにやりと笑って首肯した。


「俺らは大学のせいで仕事がなくなったんだ。仕事をなくなった俺たちに大学は何かやってくれたか?」

「あぁ。確かに何もやってくれなかったな。むしろ俺たちは野蛮だから排除運動まで起こった恨みがないと言ったら嘘になる」

「だったら」


 男はにやりと笑った。アルベルも笑みを浮かべ、口を開く。


「お断りだ」


 アリベルと男の距離はいつの間にか丁度、一完歩で男の意識を刈り取れるそんな位置になっていた。


 アリベルが動き出す。


 しかしそれを予知していたのか、男は直ぐさま学生の女を抱え、首筋にナイフを突きつける。


「動くな!!」


 男は叫ぶ。


 アリベルは敵の胸元にまで来ていた剣を引き、湖の際まで飛んで距離をとった。


「すいません・・・怖くて動けなくて」


 少女は目を潤ませながら、謝罪する。



(しまった学生の安全の確保を優先するべきだった・・・)


 アリベルは心の中で舌打ちしながら、男を睨みつけながら、男の指示を待つ。


「そのままフードと剣を捨てろ」


 アリベルはその指示に従い、剣とフードを投げ捨てた。カランカランという金属の音が鳴り響く。アリベルは攻撃と防御の要を失った。


 その様子を確認した男は次なる指示を出す。


「そのままゆっくり座れ」


 アリベルはその指示に従い、地面に座る。これで急に動き始めることができない。


 指示に従う姿を見て、男はにやりと笑みを浮かべた。


 奇襲を警戒しながら周りを見渡しながらアリベルに近づく。ジャリジャリと地面をかみしめながら、男はアリベルの前に立つ。手元には鋭く研磨された刀が一本。


「じゃあな!宝石拾い!」


 そう言って、男は首を討ち取らんと剣を振りかぶる。


「死ね!!」


 男はそう言って刀を重力に乗せ振り下ろす。アリベルに剣が迫る。


 しかし剣が届くことはなかった。


「おりぁぁ!!」


 湖のから木の棒、バットが現れた。そのバットはブンッという空気を切る音と共に男の脇腹に直撃する。


「ぐへっ!?」


 男は吹き飛ばさられる。認識の外からとんできた打撃で人質となっていた、学生の少女からも手を放してしまう。


「残念だったな。俺には仲間がいるんだよ」


 アリベルはそう言って笑い、立ち上がる。そしてフードを着直し、ポンポンと手で砂埃を落とす。


「怖かった・・・危ないですよアリベルさん!!」


 河童、レインは湖から顔を出しながら言う。


「なんで湖には何も気配はなかったはず・・・」


 地面に突っ伏しながら男は驚愕の表情をアリベルたちに向ける。レインの打撃で骨も折れ、立ち上がることができない。


 レインは陸に上がり、アリベルの隣に立つ。


「残念ながら俺の仲間は()()なんだよ。河童は泳ぐの得意なんだぜ」


 アリベルがそういうとレインは腰に手をやりエッヘンとドヤ顔を見せつける。


 助けられた少女も驚きの表情を隠せない。


「ずっと潜っていたのか・・・」

「河童はえら呼吸もすることができるからな」

「はい、ずっと機会をうかがってました」

「なるほどな俺たちは手のひらに泳がされていたわけか」


 そう言って男は諦めと後悔からか苦笑いを浮かべ、天を見上げた。


「そういうわけだ。てことで」


 アリベルはそう言って、男の前に立つ。手にはレインのバットがある。


「眠っとけ」


 アリベルはバットを振るって男の意識を奪った。


 こうして、アリベルたちの戦いは少女もアリベルもレインも傷一つなく終了したのだった。


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