4話 発掘者と河童とピクニック
「ふあぁーあ。まだ眠いな・・・」
街に帰ってきた翌日、気付けば昼の0時を回っていた。ふと横を見ると
シャンパンの瓶を抱えた河童・レインがいた。周りを見渡すと、昨日飲んで騒いだあと、そのまま寝てしまったため、食べっぱなしの串や、瓶などが乱雑に散らばっている。
「おい、レイン。もう昼の0時だ。起きろ」
「・・・新鮮なキュウリを奉納しなさい。そしたら目覚めるでしょう」
レインはそう言って、キュウリを所望した。アリベルは「はぁ」とため息を付き呟いた。
「キュウリ畑を火の海にするぞ」
「なんて罰当たりな!!!」
レインは飛び起きる。その表情は真剣そのものだ。心なしか殺気も放っているように見える。
「冗談だよ。おはよう、レイン」
「なんだ、冗談か・・・おはようございます。アリベルさん」
遅めの一日が始まった。片付けには小一時間かかった。
「じゃあきれいに片付いたところで、キュウリ取ってきますね」
そういってキュウリを収穫しに、レインは裏口から畑に向かった。
「そうだ。迷宮帰りで何もないんだった」
アリベルは何もない冷蔵庫と顔をしかめる。
「買い物にも行かないとなー」
椅子にもたれながら天井を見つめる。
「今日はのんびりするか」
まだ迷宮での疲れが癒せていないせいか、まぶたが重くなる。
「ただいまーキュウリ取ってきました」
意気揚々とレインが裏口から戻ってきた。かごにはたくさんのキュウリが抱えられている。レインの表情はとてもうれしそうだ。
「おーたくさんとってきたなー」
「たくさんなってました。レインさんも食べますか?」
そう言って、キュウリを差し出してくる。アリベルはキュウリを一本受け取ってかじる。
「おぉ、我ながらおいしいな。このキュウリ」
「そうです。アリベルさんのキュウリは世界一です。なかなか家に帰れないから、でかくなりすぎるけど」
レインはキュウリをかじりつく。その大きさは市場出る大きさよりも3倍ほどの大きさになっていた。
「今日はどうしますか?アリベルさん」
「そうだなー今日はのんびりするか。レインの好きな丘のほうにある湖でも行って、昼寝でもしよう」
「いいですね!!食べ終わったら、行きましょう」
レインはそう言って本日三本目のキュウリにかじりついた。
「じゃあ早く原っぱまで行きましょう」
レインがバックパックに荷物を詰めながら言う。その元気な姿にアリベルは苦笑いしながら、クローゼットを開け着替える。迷宮に行くわけではないため、最低限の自衛のための剣と灰色のフードを羽織って外に出る。
「いい天気ですね!!」
レインはそう言って意気揚々と歩き始めた。それにアリベルも続く。外は雲一つなく、太陽はまぶしく、アリベルは思わず目を細める。
「そんな嬉しいのかよ?あの湖、ただのバカでかい木があるだけだろ?」
アリベルは速足で歩くレインについていきながら聞く。
「ただのではありません!!あの木は『世界の柱』と呼ばれる木なんです!!」
「ふーん。でもまあでかい木だとは思うけどな」
アリベルはそこにある木を思い出しながら、言う。
「いやいや、あの木には絶対何かがあります。河童の勘は当たるんです」
「ほーん」
アリベルは軽く受け流す。ちなみにカッパの勘が当たったことは今のところない。
そう言っている間に街を取り囲む砦を通り過ぎる。砦の入り口には荷物の検査待ちの馬車が列を作っていた。この町は外に出る人たちにはノータッチなので、外に出る二人にはそのまま町の外に出る。
「ここの道なくなってるじゃん」
アリベルは「まじかよ・・・」ともらす。街を出て3分ほどで現れていた二手に分かれる分かれ道が1本になっておりこれまでは存在した湖に続く林道がなくなっていた。
「整備にお金がかかるからなんでしょうか」
「まぁ、誰も行かないわな。あんなところ」
「しょーがない」と言って、アリベルは草をかき分けながら歩き出した。
「えー私整備された道が好きなんですけど・・・」
レインはそう言って口をとがらせる。
「おい、河童がそんなことを言っていいのか」
「河童がって・・・どんな動物も整備された歩きやすい道が好きだと思うんですけど」
そう文句をたれながら渋々とアリベルに続いて歩き始めた。
道は草や木々にによって光はさえぎられ、薄暗い。
レインは出ている木の枝にチクリ刺され「イタっ!」と言いながらアリベルについていく。
道なき道を突き進み、五分ほどたった。
「さてそろそろ、湖が見えてくるはずなんだが・・・」
「おっ!!開けますね!!光が見えてきました。」
二人は光のあるほうに歩き続ける。
湖が見える位置に近づいてきた。レインが歩くスピードを上げる。
「まて、レイン」
アリベルがレインを手で待ったをかける。レインもそれに応え息を殺す。
「人の気配がする」
「それは、湖を見に来た観光客ではないんですか?」
アリベルは首を横に振る。
「いやそれではない。俺の勘がそう言ってる」
「アリベルさんのそういう系の勘は当たりますからね」
レインは残念そうに「はぁ・・・」とため息をつく。
「どうやらピクニックは中止のようだ」
「楽しみにしていたのに・・・」
アリベルは剣を構え、レインも表情を引き締め棍棒を両手で握る。
気づかれないように接近する。するとやがて敵の姿が見えてくる。
「襲われている。おそらく学生、敵6、装備からして発掘者崩れ」
アリベルは木の陰に身を隠しながら状況を把握する。
「・・・いつもの発掘者崩れですか」
レインは悲しいようなあきれたような表情をして、やれやれと首を振る。
「まったくだ。俺が突っ込む。あとは頼んだ」
「了解しました」
アリベルは敵の六人に集中して「魔法」を唱える
「よし、行くぞ。静電気!!」
その瞬間、六つの小さな小さな雷が敵の手元で破裂した。
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「まさかこんな目に合うなんて・・・」
学生の女は小さなタガーを構えて小さく呟いた。
「いやー悪いねー姉ちゃん。俺ら金がなくてよー」
下種な笑みを浮かべた男は口を開いた。六人ともフードを深くかぶっており、目元を確認することができない。
「私は金なんてありませんよ!!」
「いやいや、欲しいのはその学生バッチと学生服だ。これが高く売れるんだ」
発掘者崩れはそう言って学生服を指さして言う。
「なんで・・・?」
少女は予想外の目的物に困惑した表情を見せる。
「まあ、その二つがあればいろいろと悪さができるんだよ」
そういって発掘者崩れは、にたりと笑う。
「・・・私の学生服と学生バッチを渡せば見逃してもらえるんですか?」
そう少女が言うと、発掘者崩れの6人は「ぎゃはははは!!」と大笑いする。
「そんなめんどくさくなることするわけないだろう。やるぞっ!!」
その言葉を合図に、男たちは一斉にとびかかる。男たちの刃が少女に迫る。少女は恐怖で思わず目をつぶってしまう。
その時である。
六人に雷が落ちた。
「痛っ!!」「敵だ!!」「なんだ!!」
予想外の攻撃に、男たちが悲鳴を上げる。ビリっとするその痛みに思わず武器を落とすものもいた。
強い攻撃ではない。しかし意識の外から飛んできた、その雷光は敵を混乱させるには十分だった。
そんな混乱に乗じて、
男たちに接近する影が一つあった。