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3話 発掘者と河童と旧友

 そのままアリベルたちは客間に通された。先ほどとは打って変わって内装は、シンプルで簡素で居心地に良い空間になっていた。


「まったく、まだ、くたばっていなかったのかよ。久しぶりだな。アリベル」


 男は、そう言って笑い、手を差し出した。恰好は高級ジュエリーを扱っているとは思えない格好で、片方には右目に方眼鏡をかけている。いわゆる職人風の男である。


「おぉ、かれこれ8か月ぶりか。また店改装して、ずいぶん羽振りがよさそうで」


 そう言ってアリベルは笑う。そしてビジョーの手をにぎった。


「あぁ、おかげさまでな」


 そういって職人風の男、ビジョーはソファーに座り、煙草に火をつけた。


「で、お前はまだ性懲りもなく発掘者やってんのか?」

「まあね。俺はそれしかできないからな」

「・・・まだそんなこと言ってんのか。まぁいいや、何の用だ。雑談しに来たわけではないんだろう?」

「あぁ、今日も宝石の鑑定をしてもらいたくな」


 そう言って、アリベルは、マントの裏から袋を取り出し机に置く。置いたときに「ジャラリ」という音がする。


「やはり買取か」


 ビジョーはすぐに煙草の火を消して、アリベルの袋を凝視する。その目は先程の緩めた目元から打って変わって鋭く、雰囲気もピリッとする。


「あぁ、今日鑑定、買取してもらいたいんだが、大丈夫か?」

「大丈夫だ、さっそく鑑定させてもらうぜ」


 そう言って、ビジョーは白い袋の中の宝石を慎重に取り出す。方眼鏡で鑑定を始める。独特の緊張感が漂う。


 一分ほどたっただろうか、ビジョーはガラスケースの中にその石を入れる。そして袋から次の石を取り出し、鑑定をする。

 これを繰り返すこと35回。

 言葉を交わすことはしない。アリベルも出されたお茶で、のどを潤していた。


 レインはいびきをかきながら寝ていた。


 最後の石をガラスケースの中に入れる。


「見させてもらった。全部宝石だ」

「当たり前だろう。宝石を獲ってきたんだから」

「それが最近はそうでもないんだよ。最近需要が上がり値段も上がっているから、石に色塗りして、売ってしまおうていう輩も出ているくらいだ」


 そう言ってビジョーはタバコを吹かす。


「なるほど」


 アリベルは出されたナッツをつまむ。普段食べるナッツより香ばしさも旨味も段違いだ。


「純度はやはり迷宮中層産ということもあってか地上のものより圧倒的に純度が高い」

「だろうな」


 ビジョーは紙にペンでサラサラと記入して、アリベルに渡す。


「・・・これくらいでどうだ?多少色はつけた」


 紙に提示された金額を見る。その金額に思わず目を見開く。


「おぉ・・・また一段と値段上がったな。二倍くらいになってるじゃないか」

「まあ、迷宮に通うやつが少なくなったからな。

 鉱山が開発されて、発掘される宝石の量こそ多くなったが、質は悪い。」


 そう言って、ビジョーは肩をすくめる。


「まぁ、でも迷宮から取ってきてほしかったらこの十倍くらいの値段で買い取りしてもらいたいけどな。滞在も必要だし」


 そう言いながらアリベルは紙にサインをする。そう言うアリベルに「そいつは無理だな」と苦笑するビジョー。


 サインした紙をビジョーに渡して、立ち上がる。


「もう行くのか。夕食くらい食べてけよ」

「そうしたいのは山々だけど、この河童が串焼きをご所望らしくね」


 そう言って、アリベルはレインに目をやる。その河童の幸せそうな寝顔を見て、ビジョーは笑った。


「じゃあしょうがねぇな。じゃあまた今度ということで。金はいつも通り明日ウチのやつに届けさせる」

「おう、よろしく頼む。」


 発掘者の手と職人の手で握手が交わされた。


「おい、レイン起きろ」

「うん?もう終わったんですか」


 よだれをふきながらレインはアリベルに言う。


「あぁ、てか人さまの家でいびきかきながら寝るな、早く帰るぞ」


 そう言うとレインは「はーい」という間の抜けた返事をしたのちにソファーから立ち上がり、アリベルの左斜め後ろに立つ。


「じゃあな、ビジョー。また今度な」


 そう言って裏口の玄関をくぐる。




「おい、アリベル!!」


 少し玄関から離れたアリベルをビジョーが呼び止める。


「・・・死ぬなよ。生きてまたこの店に戻ってこいよ」


 ビジョーの表情は心なしか心配そうな顔をしていた。


「当たり前だろ。」


 アリベルは精いっぱいの余裕をもって言い放った。


「なんてたって、私がついているんですからね」


 河童がそう言って胸を張った。




「いやー空もすっかり暗くなりましたね」


 空は茜色から黒色に変わり、照明器による明かりが街路を照らしている。周りを見渡すと大学の研究帰りであろう人、騎士らしき格好を人がちらほら見受けられた。


「生きて、か・・・」


 アリベルはポツリと呟く。


(これから何回この街に戻ってこれるだろうか・・・)

 いつ命がなくなるかわからないという現実を再確認して、不安に襲われた。


「どうかしましたか?アリベルさん」


 歩きながらボーと街を見ているアリベルを見て、レインは首をかしげる。


「いや、なんでもない。串焼き買って、帰るか。今日はシャンパンも空けるか」


 そう言ってアリベルは笑った。その言葉にレインは目を輝かせて飛び上がった。


「やった串焼き!!シャンパン!!!」


 喜ぶ河童とくっつかれる時代遅れの男。





 ・一年以内死亡率 75%!!

 ・子どもがなりたくない職業 50年連続No.1!!

 ・親がなってほしくない職業 100年連続No.1!!

 ・コスパが悪い職業 殿堂入り!!!

 数たる不名誉な称号を得た発掘者。

 そんな職業が稼げなくなり、過去の職業になった今、ある男とある河童は今もなお迷宮の遺産を発掘し続けていた。

 そんな時代に取り残された、時代遅れのバカ二人の物語。


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