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25話 発掘者と河童と宴2

「「「乾杯!!」」」


 乾杯を皮切りに飲み会が始まった。

 アリベルとレインは乾杯するやいなや、そのままビールを乾いたのどに流し込む。グラスはちょびちょびとジョッキに口をつける。


「「くはぁぁぁー--!!!うまい」」


 アリベルとレインは声を合わせて歓喜を表現する。


「やっぱり冒険後のビールは格別ですね!!」

「そうだな!!」


 アリベルとレインは上機嫌に話す。


「あれ?帰ってから飲まなかったですか?一昨日とか昨日とかに」

「いやいや、それじゃあグラスさんがいないでしょ」

「冒険後は全員で喜ばないとな。仲間外れなんてかわいそうだ」

「仲間・・・ですか」


 アリベルの仲間という言葉に少し驚くが、やがて頬はかすかに赤くなり、表情がゆるゆるになる。手で無理やり表情を作り、咳ばらいを一つ。


「で、200万の支出はわかりましたが、残り50万の支出はなんだったんですか?」

「いやいや収入もあったから、もうちょっと支出があった」

「もっとですか・・・なんか使いましたっけ?」


 グラスは三日間を思い出しながら言う。あの三日間で使った消耗品はマナポーションとポーション、あと食料品くらいしか思い出せなかった。


「あ、剣ですか?折れたじゃないですか」


 グラスはアッと納得の表情を見せ言う。


「あーあれはそんなに高いものじゃない10万だったかな」


 アリベルは天井を見上げ思い出しながら言う。


「10万も十分高いですけどね」


 レインは塩キュウリをかじりだながら言う。三人の中心に置かれていた塩キュウリはいつの間にか、レインの胸元で守られていた。


「残り150万の支出は・・・これだ」


 アリベルは胸元から小さな刃を持った、小刀を取り出し、机に置く。


「あー高いって言ってた解体用ナイフですか。でも折れてなかったですよね?」

「昆虫龍の羽を刺したときに、刻まれた術式が一部欠けてしまってな」


 アリベルは鞘を抜き取り、術式が刻まれている刀身を指さす。相変わらず芸術的な術式だったが、よく見ると術式のほんの少しが欠けてしまっていた。


「術式の修理はお金がかかるっていいますもんね。どれくらいかかったんですか」


 グラスは唐揚げを持ち上げながら言う。


「まだ見積もりだから確定ではないんだが200万かかるらしい」

「ひゃ、200万!?」


 グラスは驚きのあまり、持っていた唐揚げをぽとりと落とす。


「まあ、これくらいでよかったよ。買い直しとかになったら、ぶっ倒れるわ」


 アリベルはレインの塩キュウリをひょいと持ち上げ、口に運ぶ。レインは「あっ!!」と声を上げ、アリベルの肩をパタパタと叩く。


「で、でも支出は410万の支出に対して250万の赤字っていうことは160万の収入があったってことですか」

「あーそうだ」


 アリベルは肯定するが、その顔は苦虫を嚙み潰したような表情だった。


「ほんとうはもっとあるはずなんですけどね」


 レインは不満そうな顔を隠さずいう。


「なにかあったんですか」

「昆虫龍の亡骸持って帰ったんだが俺らの収入はほとんどゼロだったんだ」


 アリベルはそう言いながらふすまを開け、ビールとだし巻き卵を注文する。


「ゼロってどういうことですか!?」

「あの町、迷宮壊れただろう?昔は迷宮は一大産業だったから、迷宮が使えなくなると町にとって死活問題だったんだ」


 そういって、少し残っていたビールを飲みきり、ジョッキを机にダンっ!!と強く置く。


「だから法律で迷宮に何らかの障害を起こしたとき、その賠償を請求できるというというものがあるんです」

「あいつらそれを嬉々として使いやがって、昆虫龍の亡骸、かっさらいやがったんだ」


 酔っぱらってきたのかアリベルの語気は荒い。鬱憤もたまっていたのだろう。


「そんな・・・」

「噂では1億超えるらしいですよ。あれ」


 レインは塩キュウリを大量に口にくわえどうにか精神を落ち着かせる。


「1億・・・ですか」


 グラスにとって途方のない数字である。


「大学で研究するらしい。グラスも後々見る機会あるかもな」

「も、もう飲みましょう!!ぱーっと!!」


 暗くなってしまった空気を変えようとグラスは明るくそう言う。


「そうだな!!飲むぞ!!飲んで忘れよう!!」

「そうですねグラスさん!!まず命があることに感謝しましょう!!」


 そういって三人はガバガバと酒を飲み始めた。


 飲み会が始まって2時間ほど。三人はぐったりとしていた。最初は料理も楽しんでいたが、最後のほうは酒を飲むだけになっていた。


「あーそうだ。これをグラスに渡そうと思ってな」

 アリベルはカバンからごそごそと探る。そして紙袋をグラスに渡した。

「?なんですか。これ」


 紙袋の中を見ると、意向の凝らされた高級な箱が姿を見せた。


「これってビショージュエリー店の箱じゃないですか!?」


 グラスは何度目になるか驚いた顔を見せる。


「あーそうだけど、残念ながら中の奴は宝石じゃないぞ。まあ開けてみてくれ」


 アリベルに促されるままグラスは箱を開ける。そこにはネックレスがあった。派手な装飾はない。しかし中心に鎮座するのは無駄をそぎ落とし、極限にまで磨かれた深い緑。消して大きなものではないが、宝石よりも存在感があった。


「冒険の思い出に昆虫龍の亡骸を使ってネックレスを作ってもらおうと思ってな。ビジョーに無理やり割り込んで作ってもらったんだ」


 アリベルとレインは笑う。


「これがあの昆虫龍なんですか」


 グラスはもう一度ネックレスを見つめる。これが三日前に自分たちを死の淵まで追いやっていた魔物だったとは思えなかった。


「昆虫龍の亡骸が徴収される前に、コアを抜き取ったんだよ」


 そういうアリベルとレインは自慢げだ。


「コアってあのコアですか?」

迷宮核ダンジョンコアのことだ。あの昆虫龍ふつうは迷宮の奥に隠されている迷宮の心臓と言われるものを飲み込んでやがったんだよ」

「だからあの龍が死んだときに同時に迷宮も崩壊したんです」

「それを抜き取って、ビジョーにネックレスにしてもらったんだ」


「大変だったそうですけどね」とレインは付け足し、アリベルも笑う。

 グラスはネックレスを手に取り、首につけた。


「ありがとうございます。大切しますね」


 そういってグラスはうれし涙を隠しながら言った。その表情を見てアリベルとレインはニヤリと笑って、頷いた。



 陽はとっくの昔に完全に沈み、出店は店じまいを終わり、建物の光もぽつりぽつりとまだらになっていた。道に目をやれば酔っぱいは寝転がって寝ていたり、苦しそうにするものを介抱しているものもみられる。時計を見るとすでに今日も残すところ1時間ほどになっていた。

 アリベルとレインはグラスを学生寮まで見送り、別れの時が来た。

 今後グラスがアリベルとレインと再会することはないだろう。


「今日はありがとうございました」


 学生寮の前でグラスは頭を下げる。その表情は少し寂しそうだ。


「いやいや私たちも貴重な体験をさせてもらいました」

「ああ、研究頑張れよ」


 そう言ってアリベルとレインは手を差し出し、グラスはその手を握りしめる。

 グラスが学生寮の扉に手をかけたその時、アリベルは「あ、そうだ」と思い出したかのようにつぶやく。そのつぶやきにグラスは振り向く。


 アリベルはグラスに問う。


「どうだ?楽しかったかこの三日間?」


 その答えは決まっていた。


「はい!!とても!!」


 グラスは満開の笑顔を見せた。

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