23話 発掘者と河童と名付け
『ちょっと私の存在忘れてない?』
朱く染まった世界に見惚れていた三人にシルフィーユは横槍を入れる。彼女は頬をふくらませる。
「あー悪い助かった。ありがとう」
「助かりました。本当にありがとうございました」
アリベルとレインは感謝の言葉を言う。シルフィーユは三人を助けてくれた文字通り命の恩人だ。
『な、なによ。素直ね』
素直にお礼を言われたシルフィーユはやりにくそうな顔をする。
「それでなんのようだ。ドリアードのことだろ?」
『そうよ。ドリアードのことを上に判断を仰いだわ』
そしてシルフィーユはそう言って、三人を地面に降ろしていく。
どんどん魔動飛行船より高くいたの三人の視線はどんどん低くなり、やがて地面に足がついた。レインはおっとっととバランスを崩しそうになる。
『私もそんなに時間があるわけではないから結論から話すわね』
そういってシルフィーユの顔がまじめになる。
その表情を見て三人の表情も引き締まる。
『アリベル・ルード、そしてレイン。そなたたちにドリアードの保護者を命じる』
シルフィーユはそう言ってふぅーと息を吐いて、そして笑みを浮かべる。
『だそうよ』
「保護者って言ったって」
指名されたアリベルとレインは首をかしげる。
精霊は、ただでさえ存在さえ疑われているくらい珍しいものである。その子どもを二人それも独身男二人でどう育てればいいかさっぱりわからなかった。
『大丈夫あなたたち人間の保護者のようなことは求めていないわ。あなたたちにやってほしいことは二つ。そのドリアードをあらゆる悪意から守ること』
そういってシルフィーユは指を一本立てる。
『そしてできるだけ迷宮に潜ること。迷宮を満たす魔素、あなたたちの世界でいうマナってやつが精霊を成長させるから。月に10日は潜ってほしいわね』
シルフィーユは指を二本立てる。
「それぐらいならいつもやっていることだから構わないが」
アリベルがそう言うと、シルフィーユは『そう・・・』と言ってアリベルたちに近づいて、アリベルの胸元を指さして言う。
『いい!!精霊の子育てを人間に任せるなんて初めてのことなんだからね!!頼むわよ!!』
シルフィーユの真剣に頼む様子を見て、アリベルは「お、おう」としか返すことができなかった。
『それと・・・』
シルフィーユは翻って視線はグラスへ
『あなた、最近話題の魔法中央大学の学生らしいわね』
「は、はい」
突然の質問にグラスは少し緊張しながら答える。
『悪いけど。私たちの存在は伏せてほしいの。研究機関が私たちの存在を知って、捕獲しようとしたら』
一息入れ
『人間と精霊の全面戦争になりかねないから』
「わ、わかりました」
人類滅亡になりかねない秘密を抱えたグラスは顔を引きつりながら言う。
グラスの返事に安心したのかシルフィーユは表情を緩める。
『ありがとう。あまり人間に干渉しないとは決まっているんだけど、こればかりはね』
そういってシルフィーユはグラスに近づき、
グラスの額に祝福をする。
彼女の額には風のような紋章が浮かび上がり、やがて収まる。
「え・・・え・・・え?」
グラスは額を抑えながら顔を真っ赤にする。アリベルとレインも目をぱちくりさせる。
『これは迷惑料。私、風の精霊王シルフィーユの名において、そなたグラスに降りかかる悪意から守護することを誓おう』
そういってシルフィーユは翻して、三人から距離を取り、彼女の周りに風が吹き始める。
どうやら用事は済んだようだ。
『あ、そうだ。アリベル、レイン。あなたたち、まだそのドリアードに名前つけてないでしょ。つけてあげなさい』
シルフィーユは思い出したかのように言う。アリベルとレインはちょこんと顔を出しているドリアードに注目する。
「はいはい!!アリベルさん。モクとかどうでしょう?」
「却下だ。どうせ植物の精霊だから安直に木からつけたんだろ」
『やー!!!』
アリベルから却下、ドリアードから拒否の声が上がり取り付く島もない。
「じゃあアリベルさんはどうなんですか」
レインは少しすねながらながらアリベルに聞く。アリベルは顎に手をやりふむと考え、口を開く。
「俺たちとこいつが出会った要因の植物から、スイレンでどうだ」
アリベルの案にドリアードはグッと親指を立て笑顔浮かべる。
「お気に召したようだぜ」
アリベルはドヤ顔をレインに見せつける。その顔にレインはウッと声をつまらせる。
『スイレンね。まあまあの名前じゃあない』
シルフィーユはそう言って口元を緩めた。表情はとても優しい。
『じゃあね。また来るわ』
『バイバイ!!』
ドリアード、スイレンはシルフィーユに向けてブンブン手を振る。それに対して彼女も大きく手を降った。
『スイもアリベルもレインもグラスも元気でね』
「お前もなシルフィー」
アリベルがそう言うとシルフィーユは驚いた顔をする。
『シルフィーって私のこと?』
「あーそうだけど。悪いか?」
アリベルがそう言うとを彼女は首を横に振る。
『いや別にいいわ。じゃあ今度こそじゃあね』
「また来てくださいね!!」
レインも手を大きく振る。
「助けてくれて、そして祝福ありがとうございました!!お元気で!!」
グラスは頭を下げ、控え目に手を降った。
シルフィーユはそれを背後に空に飛び上がりやがて見えなくなった。
「いやー今回の冒険は色々あったな」
アリベルは肩をぐるぐるを回す。グラスはぐいーと背伸びをする。
「グラスさん今から空いてますか?」
「あ、いえ。三日間も学校開けてしまったとりあえず帰ってきたという報告は早めにしないといけないので」
そう言ってグラスを頬をポリポリかいて、あははと笑う。
「そうか・・・じゃあ明後日はどうだ?夕方からとか開けられないか?」
アリベルがそう言うと、グラスは手帳を開き、うなずいた。
「大丈夫です。でも何するんですか?」
グラスが二人に疑問を投げかける。アリベルとレインはニヤリと笑った。
「僕達は迷宮探索が終わったらあることをすることになってるんです」
「あること?」
「宴だ」
宴が始まる。
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『ほんとに変な人間たちだったわ』
シルフィーユは一人呟く。もうすでに雲すら届かない上で高速で飛んでいる。
『本当に私に向かって不遜な態度だったし、シルフィーなんて変なあだ名つけるし』
シルフィーユは口ではそういう。
『でも・・・悪いやつではなさそうね』
シルフィーユはそう言ってご機嫌に鼻歌を歌いながら、移動を続ける。
目指すは精霊の楽園。