21話 河童と発掘者と仲間
グラスが「やってみせます!」というとニヤリと笑いアリベルは動き出した。アリベルは大剣を投げ捨てた。ガランガランという音が迷宮中に響き渡る。
アリベルは壁を駆けた。
風魔法を使えない彼は普通壁を走ることはできない。しかし彼は力業でそれをやって見せた。
彼がしていることは、とにかく壁から落ちる前に足を出すという簡単なことである。なおできるものは、ほとんどいない。
そして昆虫龍に狙いを定めて手を掲げ、唱える。
唱えるのは彼にとっての最大威力の雷魔法。
「大雷光」
自然の雷と見間違えかねない光の奔流と轟音。文字通り光速で昆虫龍に直撃する。
パンッ!!という音と共に強烈な光が迷宮を真っ白に染める。
しかしアリベルの渾身の魔法は甲殻によって弾かれ、昆虫龍はビクともしない。
アリベルは構わずマナを込めて魔法を唱える。
「雷、雷、雷、雷!!!」
連続で魔法を放つ。アリベルは魔力がそこまで多くない。どんどんマナポーションを消費する。
『ギリィィィ!!!』
煩わしく感じたのか昆虫龍は再びアリベルをターゲットとする。
羽を高速で動かし始める。
そして数秒後大型の体を浮きはじめる。
『ギャアァァァ!!』
アリベルに高速で突進してくる。巨体を飛ばしているとは思えないスピードだ。
「あっぶね!」
アリベルは更にスピードを上げて上へ上へと登っていく。
息は切れ、少しでも緊張が解ければ、壁から真っ逆さまに落ちてしまうだろう。
だが歯を食いしばり、
「これでいくぜ!」
アリベルは懐から解体用ナイフを取り出す。
解体用ナイフの刃は小さい。それこそ魔物を倒すような武器ではない。しかし解体の魔術式が刻まれたこのナイフの切れ味はアリベルのどの武器より優れている。
狙うのは羽。
「うおおぉぉぉ!!」
グシャリと音が迷宮中に響き渡る。そしてその音ともに昆虫龍の羽の先が切り裂かれる。
『ギャァァァァ!!!』
昆虫龍はバランスを崩し落下していく。すぐに羽の再生が始まるが、落下は止まらない。
そもそも巨大な生物は飛ぶのに向かない。巨体を飛ばすのにさらに大きな翼・羽、そしてより大きな動力が必要だからだ。巨体である昆虫龍は甲殻という重い甲冑をまとっていた。そして風魔法による補助もない。飛ぶには不向きなのは火を見るより明らかだった
そんな体を何枚もの羽を高速で動かすことによって無理やり浮かし、アリベルの光速の動きについてきていたのだ。そんな中、羽に穴が開けば、バランスは崩れ、空中で立て直すのは不可能である。
「頼む!!ドリアード!!」
『うい!!!』
ドリアードは両手を合わせ。唱える
『りゃぁ!!』
その瞬間、木製のバフタブができる。
バスタブと言ってもプール一面くらいのとんでもない大きな物である。
「頼んだ!!グラス」
アリベルの言葉にグラスは閉じていた目を開く。
(やってみせる!!与えられた役割を、託された想いを無駄にはしない!!)
グラスの頭の中は複雑怪奇は計算式そして文字で埋め尽くされていた。
「火・地複合魔法!!溶岩!!」
グラスの掲げた杖がみたこともないくらい輝き、そしてその光は空のバスタブをマグマの海に変えた。
グラスにとって初の単独での複合魔法、苦手な地魔法との成功である。
「落ちろ昆虫野郎!!」
アリベルは叫ぶ。昆虫龍はなすすべなく、真っ逆さまに火の海に落ちていった。
『ギリャァァァァ!!』
けたたましい悲鳴が響き渡る。
そしてその場から脱しようと動き始める。昆虫龍の重厚な甲殻がマグマの熱を阻んでていた。
「死んでない!!!」
グラフが叫ぶ。その顔には焦りがあった。
「止めてくれ!!レイン!!」
「わかりました!!!」
レインは巨大化を使い、昆虫龍を押さえつける。ゴンっと力と力がぶつかり合う。二度目のぶつかり合いである。
逃げ出されたら3人の負けである。
「ふんっ!!!!」
『ギリギリギリギリギリ!!!』
レインは昆虫龍を必死に取り押さえる。
そして1分ほどだっただろうか。昆虫龍の抵抗が小さくなる。
目も虚ろ虚ろとしており、羽も不自然に動く。
『ギャア・・・』
昆虫龍は動かなくなった。見た目は全く変わらない。しかしマグマによって熱された血液や内臓が耐えきれなくなったのだ。
「・・・やっぱり昆虫だったんだな。この龍」
昆虫龍の中身をみると、龍らしい肉はなく、虫の内臓があるだけだった。
「はぁ~しぬかと思った」
アリベルとレインは地面にドサリと座り、安堵の息を漏らす。そして、アルベルが「あーそうだグラス」と彼女に呼びかける。
「ありがとな」
この瞬間、アリベルとレインとグラス。出会って間もないが、かけがえのない仲間になったのだ。