20話 河童と発掘者と龍
「おい、レイン。あの龍見たことあるか?」
アリベルは竜を指さして言う。その龍は普通の龍とは異なる特徴を持っていた。
その龍は固い鱗の代わりにつるつるとした甲殻を持っていた。そして、ブレスを吐くための大きいはずの口は小さく、鋭く獲物をかみ砕く牙もない。そしてなにより、足が六本もあった。
「ないですね。たぶん誰にも報告されていない未確認種ですよ。アリベルさん」
レインは震える声でアリベルの問いに答える。
「よかったな名付け親になれるぞ。昆虫ぽいから昆虫龍にするか」
あははと二人して笑い合う。
『キイイイィィィ!!!』
昆虫龍は不快な甲高い声を上げる。
「咆哮まで昆虫だな」
アリベルはそう言って、先手必勝と言わんばかりに雷を纏い、光速で切りかかる。アリベルの全身全霊の攻撃である。
「あっやば」
思わずそうこぼす。
アリベルの剣は昆虫龍のまとう甲殻の硬さに耐えきれず
ポッキリと折れた。
『キャァァァァァ!!!』
先制攻撃を受けた昆虫龍は不快そうな雄たけびを上げ、翼もとい羽を激しくバタバタと動かす。
普通の龍のように雄大に翼を羽ばたかせるのではなく、昆虫のような羽を高速で動かす。そしてその羽の動きだけで容易に獲物を切り裂く。
「く・・・そっ」
アリベルは何とか距離をとる。そして回復しようとポーションのふたを開ける。
『キリキリキリっ!!』
しかし龍は待ってくれない。
アリベルの息の根を止めまいと、一直線に突っ込んでくる。
「はぇぇ!?」
アリベルは驚愕の声を上げる。
普通の龍はブレスという広範囲の攻撃技と、一撃必殺の噛みつきの二つの文字通り必殺の技を持っている。しかし機動力はそこまでではない。そのため、龍を討伐するときは盾役で耐え、大人数で囲んで、タコ殴りにするというのが主流である。
しかし昆虫龍の機動力は昆虫並みである。その圧倒的な機動力、そして、ツルツルと黒光りする固い全身を囲む甲殻、これがこの龍の強さだった。
アリベルは負傷した体に鞭を打ちすんでのところで避ける。
昆虫龍はその勢いのまま迷宮の壁に激突するが、負傷した気配はない。
「レイン、サブ武器たのむ!!一番でかいやつ!!」
アリベルは飲む時間がないと感じ、ポーションを頭からかぶる。
昆虫龍はもう一度襲い掛かる。何とか、避ける。雷を纏い光速になっている。アリベルだからこそできる神業である。
「はい!」
レインはバックパックから素早くアリベルの第二の武器を取り出す。
それは普通の人だったらは持ち上げるだけで精一杯になってしまうであろう、大きく厚くそれでもメンテナンスが行き届いて鋭い刃を持つ巨大な大剣だった。
それをレインはアリベルに投げ、アリベルはそれを受け取る。鞘から大剣を抜き取る。そしてゆっくりと振りかぶる。一撃必殺の構えである。
『キャァァァッァ!!』
そうはさせまいと昆虫龍は突進してくる。
「私が時間を稼ぎます!!」
レインはアリベルと昆虫龍の間に入る。
「ウォォォォ!!」
レインの200キロもの荷物を平気に担ぐ怪力と龍の突進、力と力がぶつかり合う。
「ドンっ!!」と鈍い音が響き渡る。
「きっっつ・・・・」
レインの体がずるずると下がる。
完全に力負けである。
しかし時間を稼いだおかげで、アリベルはポーションも飲み、一撃必殺のための場が整った。
「グラス、カブトムシの魔物の時と一緒だ。関節を狙う!!火魔法頼む」
「わかりました!!!」
グラスは杖を構え、魔力を込める。
「レイン下がれ!!」
「はいっ!!」
昆虫龍は再び突進しようと距離をとったところでアリベルが再び前に出る。
狙うはあの時と一緒。関節である。
『キィィィィィィ!!!』
「どっせい!!」
アリベルの強力な一撃が関節を確実にとらえる。
その一撃は昆虫龍の脚を吹き飛ばした。
そしてそれを確認したグラスは自身が使える最大の火魔法を放とうと杖を昆虫龍にむけた。
しかし
「「「なっ・・・」」」
三人の驚愕の声がかぶる。アリベルの一撃によってなくなった脚が再生していた。
アリベルは距離を取ろうとするが昆虫龍は許さない。
昆虫龍は尻尾でアリベルを吹き飛ばす。
迷宮の壁に打ち付けられる。
「くはっ・・・」
あまりの勢いに呼吸ができない。意識が飛びそうになる。
体を状態を確認すると、庇った左腕がプラーンとして動かない。
「「アリベルさん!!」」
レインとグラスが叫ぶ。ハッとして前を見る。
そこにはとどめを刺そうと突進する龍。
「しまっ・・・」
『だめーーーー!!!』
フードの中から声が聞こえる。
その瞬間、アリベルと龍の間に巨大な木が現れた。その巨大な木によって攻撃は遮られる。
「これは、お前がやったのか」
アリベルはフードの中の精霊ドリアードを見る。
『むふー』
ドリアードは鼻息荒く、自慢げに胸を張っていた。
「ありがとよ。助かった」
龍は邪魔な木を壊そうと躍起になっている。しかし壊せない。
その間にポーションを飲み、体制を整える。
「お前、木の精霊っていうんなら、木を形を変えて生み出すことができるのか?」
アリベルは聞くとドリアードはウンウンと頷いた。
「なら・・・」
アリベルはまだ痛む体を鞭をうち、立ち上がる。
「レインは待機してくれ」
「わかりました!!」
「そしてグラスにはマグマを作って欲しい」
「マグマ・・・ですか」
グラスの顔が険しくなる。
火魔法だけでは再現できないマグマ。作るためには地魔法でガラス成分の多い砂を作り、そしてそれを溶かし、その温度キープしなければならない。
ゆっくりすれば難しいことではないが属性の違う魔法を同時並行にするのは困難に近い。
「わかりました!!やってみせます!!」
グラスは宣言する。彼女は覚悟を持ってそういった。