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18話 河童と発掘者と娘(精霊)

『バパー-!!』


 そう言って種から生まれた、精霊はアリベルの頬をスリスリしてくる。肌はもちもちしていて、まさに新生児のようだ。


『な・・・な、木の精霊(ドリアード)!!はやくこっちに来なさい!!』


 シルフィーユは焦ったように必死にシルフィーユに呼びかける。


『・・・』


 ドリアードはシルフィーユの方をちらりと見たが、ぷいとそっぽを向く。全くシルフィーユのことに興味を示している様子はなく、ただただアリベルの首につかまっている。


『ならあんたを殺して、ドリアードは返してもらうわ!!!』


 そしてシルフィーユは高く手を掲げる。するとそこに空気が集まり、まとわり、圧縮され、巨大化していく。


「おいおい、全力じゃなかったのかよ」


 アリベルの額に、冷たい汗が垂れる。

 シルフィーユの魔法は、天候を変えた。先ほどの雲一つない青空は、曇天の天気に。


「これは・・・どうしようもありませんね」 


 能天気なレインも失意の言葉を漏らす。それくらいシルフィーユの魔法は文字通り次元が違った。


「なんですか・・・あれ。あれが魔法だというんですか」


 グラスは驚愕のあまり口をあんぐりと開けて、目を見開く。

 天候の操作は人類の夢であり、課題だ。実際に大学でも研究されている。しかし研究を進めば進むほど天候操作が難しいという結論が重なっているのが現状で、不可能であると結論付けた学者も出てきている。


 そんな非現実にグラスは目を疑った。


『行くわよ、死になさい、テンペ』

『やー----!!!』


 シルフィーユがアリベルに向けて魔法を繰り出そうしたとき、立ちふさがったのは小さなドリアードだった。

 ドリアードはアリベルを守るように必死に両手を広げている。


『ちょっとドリアード!!!邪魔しないで!!!』


 ドリアードに当てないように横にずれると、ドリアードもついていく。反対方向に一歩ずれても、負けじとついていく。その表情はとても真剣で必死た。


『やー---!!!』


 ドリアードはどこうとしない。それを見てシルフィーユは「はあ」とため息をつき、腕を下げる。その瞬間、シルフィーユが作り出した風は拡散し、曇天の空だったのが嘘だったように元の青空に戻っていく。


『わかったわよ・・・やめるわよ』


 そういって、シルフィーユはドリアードに向けて諦めも感じられる笑みを浮かべる。


『ありー!!!』


 ドリアードは少したどたどしい言葉でありがとうを伝える。

 シルフィーユはその言葉に微笑み、アリベルを指さして言う。


「ドリアードに免じて今日は見逃してあげるわ。今後のことはわからないから、私の上司に指示を仰ぐことになる」


 そういって、シルフィーユは踵を返す。


「だからそれまで、ドリアード守ってね。守れなかったときはとんでもない目に合うわよ」


 そういって風の精霊シルフィーユの中心に風がクルクルと吹く。


 その風は強くなり人を吹き飛ばすほどの強さになる。


「じゃあ、また会いに来るから」


 そう言ってシルフィーユは上空に向けて突風を吹かせ、飛び去っていった。

 アリベルは剣を突き刺し、飛ばされないように身を小さくする。レインは体重が重く飛ばされない。


 しかしグラスは


「きぁぁぁ!!!」


 風に巻き込まれ、吹き飛ばされていった。


「グラスさん!!!」


 レインは叫ぶ。


 吹き飛ばされたグラスは上空に吹き飛ばされる。しかしそのまま地面にたたきつけられることはなかった。


「よかった・・・」


 レインはホッとしたのか息を吐く。グラスは木に服を引っ掛けて宙ぶらりんになっていた。


「グラス今助けるぞー」

「は、はいお願いします」


 ふとグラスは周りを見渡す。


「あ、これって・・・」


 彼女は目を見開いた。

 彼女の目の前には探し求めていたそれがあった。

 グラスの目の前が歪む。それは緊張からの開放か、目的の達成か、安堵感からか。

 グラスは手を伸ばし、それを取る。それはなんと木の上にあった。


「アリベルさん、レインさん・・・スイレン草です」

「え!?ほんとうですか!!??」

「はぁーやっと見つかったか」


 アリベルとレインもうれしそうだ。


「木の上に生えているとはびっくりです」


 グラスは笑顔を見せる。

 どこにでも生えていると言われているスイレン草。木の上に積もった土に生えてもおかしくない。

 しかしそうだからと言って、木の上に登って、スイレン草を探そうとはしていなかった。


「さっさと収穫してしまおう。そして帰ろう」


 こうして三人の迷宮探索は終わろうとしていた。



「それにしても懐いてますね」


 レインはアリベルを見ながら笑った。正確にはアリベルの上を見てである。


「本当に。精霊って生まれたばかりだと、こんなに可愛いんですね」


 グラスもくすりと笑う。


「本当にな」


 アリベルは苦笑する。種から生まれたドリアードは彼の頭をペシペシ叩いて遊んでいた。

 すでに迷宮の一層に戻っており、火魔法さえ使えるグラスがいるのもあって、和やかになっていた。


「スイレン草も採れたし、万々歳ですね!!」

「まぁ、マナポーションかなり使ったけど、素材も色々回収できたからギリ赤字にはならないな」


 アリベルはレインの担いでいるバックパックを覗きながら見る。


「本当に二人ともありがとうございました!!」


 グラスはそう言って深々と頭を下げる。


「いやいや、僕達も迷宮に潜れていい経験になりました。ありがとうございました」

「卒論頑張れよ。これで完成できなかったとかなったら、笑い事じゃないからな」

「はい!!がんばります!!」


「ウークラフト迷宮」の出口が見えてくる。


「さてと」


 自然と先導していたアリベルは立ち止まる。


「出てこいよ。ここで止めないとこのまま学園に戻って、研究が再開するぞ」


 そう言うと一人の男が物陰から現れる。

 ハッピーエンドとは行かず、もう一波乱起ころうとしていた。





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