17話 河童と発掘者と精霊
一度会ったものは命がないと言われた精霊とアリベルたちは二度目の再会をすることになった。
いつも飄々としているアリベルとレインの表情は僅かに硬い。
『さっさとあの種を渡しなさい。渡したら楽に殺してあげるわ』
精霊は余裕の表情で手のひらを広げる。
アリベルは剣を抜き構える。その剣先はわずかに震えていた。
「なんだ?昨日子どもみたいに泣いていたやつとは思えないな」
『なっ!?そ、それはお前たちがすごい逃げ足で逃げるから』
精霊は必死に弁解する。
「いやいや、すぐ出てくればよかったじゃないか」
『・・・し、深層から出てきたからしょうがないだろ』
「それにしても遅かっただろ。どうせ格好つけて登場してたんじゃないのか」
『ギクッ!?し、してないもーん』
精霊は目を泳がせる。
「探索魔法をも使えないし、お前、実はポンコツ?」
『ポ、ポンコツってあんたね・・・私はね風の精霊の王、シルフィーユよ』
その精霊、シルフィーユはポンコツという言葉に絶句する。
アリベルの言う通りシルフィーユはポンコツだった。アリベルの口車に乗せられて、背後に近づくものに気が付かないのだから
背後から河童・レインがくる。音もなく、早く。
レインは限界まで高く跳躍する。それによって生まれた位置エネルギーを運動エネルギーに変え、棍棒を振り下ろす。先手必勝、一撃必殺の渾身の一撃である。
「ぐっ!?」
レインに表情が険しくなる。棍棒か届かない。その棍棒は精霊シルフィーユの纏う圧縮した空気の壁に押し退けられてしまう。まったくシルフィーユに届く気配がない。
『なっ!?河童いつの間に!?』
そう言ってシルフィーユは間抜けな声をあげる。慌てて、シルフィーユがレインに向けて手を振るうと、風の本流によって吹き飛ばされる。
「ぐげっ!?」
レインは地面に叩きつけ、転がる。
「・・・すいません。アリベルさん失敗しました」
「なに問題ない。流石に相手が悪い。しかし、まぁー自動防御かよ。守られてる感じ。本当に女王だよなー」
『あなたたちみたいに、私をバカにして、ずる賢いやつらはじめてだわ。全員ただ怯えているだけだったもの』
そう言ってようやく臨戦形態になったのか、彼女は周囲に空気の渦を作り、竜巻を幾つも作り出す。人類が悩ませる天災を彼女は一人で作ってみせた。
「グラス。お前は逃げろ」
「えっ、でも・・・」
「大丈夫だ。たぶんなんとかなる」
そう言ってアリベルは無理矢理笑って見せる。
「早く逃げてください!!」
二人の必死の言葉に、事の重大さを感じる。
「っつ!!」
グラスは意を決して、翻して走り出した。
シルフィーユはグラスを追うことはなく、グラスはその場からいなくなった。
「グラスをあっさり逃がしてくれるとはな」
アリベルは構えながら言う。
『私は貴方と河童さえ殺れば、それでいいわ』
シルフィーユはそう言って、フッと笑った。
「ははっ・・・そうかよ!!!」
アリベルとレインは一気に走り出す。レインは竜巻が分散するように、そして隙があれば攻撃できるようにシルフィーユの周りを駆ける。
「雷!!」
アリベルは遠距離。繰り出した雷光が精霊シルフィーユを貫こうと直進する。
「カッパ!!」
レインが鉄すら貫く文字通り水鉄砲を繰り出す。
『そんな攻撃っ!!効かないわ!!』
シルフィーユは雷と水鉄砲を弾き飛ばす。
「まだだ!」
アリベルはシルフィーユの背後をとり、首を狙い駆け出す。
「行きます!!」
レインは正面から頭を狙い地面を蹴る。前後からの挟み撃ちである。
二人の全身全霊の一撃であった。
しかし届かない。剣と棍棒は彼女が風の壁によって押し戻される。
「くっそ、なんだよこの風!?」
解決の糸口を掴めないシルフィーユを守る風の壁に悪態をつくアリベル。
「全然ダメですね」
グラスはそう言って肩を竦める。
『あら、もう終わり?』
そう言って余裕そうに欠伸をしていた彼女は言う。そして『よっこらしょ』と言って、立ち上がる。
『それじゃあ私から行くわよ』
シルフィーユは手を振るう。手を振るうと小さな竜巻が産まれ、その竜巻が小人に変化する。
『これは私の魔力で作られた。シルフよ。私は戦うのめんどくさいから、この子達に戦ってもらうの』
「おいおい・・・何体いるんだ?こいつらは」
「ざっと30はいますね」
『正解は40よ!!行きなさい!!』
彼女が合図すると一気に襲いかかる。
アリベルは剣で小人を切り裂く。
5体の小人を葬っても残り35の小人が二人に襲いかかる。
「うぉぉぉ!!」
アリベルはすり抜けた小人を足蹴りでまとめて吹き飛ばす。しかし圧倒的数の前に倒し損ねた小人3体。
その小人たちはピタッとアリベルに張り付く
ーーーまずい ーーー
考えてももう遅い。その小人は姿を変え、アリベルの体を切り裂く刃となる。
「くっ!?」
太腿右手胸それぞれが切り裂かれ、血が吹き出す。
「アリベルさん!!」
レインは棍棒で風の小人を吹き飛ばしながら慌てて駆け寄る。
「大丈夫だ」
そう言ってアリベルはすぐに立ち上がる。立ち上がらなければ勝機はない。
『まだまだいくよ!!頑張ってシルフ!!』
そう言ってどんどん作られていく風の小人、シルフ。
「凪ぎ払うのは得意です!!」
そう言ってレインはアリベルの分も敵を凪ぎ払う。
ブンブンと棍棒を振り回し、小人はその棍棒に触れると消滅する。
「よしっアリベルさんこれはいけますよ!!コイツらなら僕だけでなんとかなります」
レインは笑顔でアリベルに言う。少しだけ安堵したその時。
「レイン頭下げろっ!」
アリベルはそう叫ぶ。その声でレインは頭を下げる。
『風』
シルフの影に隠れてシルフィーユが奇襲を仕掛けてくる。
「大雷!!!」
アリベルは最大の魔力をこめ、雷を生み出す。シルフィーユの突風と雷が激突する。
最初こそ拮抗したが、風の勢いが雷を押していく。
「アリベルさんの最大の魔法がこうも簡単にねじ伏せられるとは」
レインは絶句する。
『久しぶりの魔法だったけど、なかなかでしょ?』
シルフィーユはドヤ顔を自慢する。
『勝ち目がないことはわかっただろう。さっさと種を渡しなさい。渡せば楽にしてあげるわ』
「逃がしてくれるなら考えるけどな」
『そうか・・・残念だがしょうがないわね』
そう言ってシルフィーユは風の小人を生み出す。その数は百を優に超えていた。
「・・・もっと出せるんですか」
「やばいな。これは終わったか?」
『行け!!シルフたち!!』
命令し、風の小人が一斉に襲いかかる。いくらレインでも倒しきれない圧倒的数の暴力。それが二人に襲いかかる。
しかしいつまで経っても、衝撃がこない。
『グアァァアァァァァ!!』
一帯に雄叫びが響き渡る。アリベルとレインの眼の前には龍の型どられた炎がいた。
標的をかえて小人たちは飛びかかる。
『ガァァァァ!!!』
龍は小人たちをまとめて食らいつくす。中には食われる前に消えてしまう小人までいる。
「あれは・・・」
「炎龍ですね」
「すいません。やっぱり逃げれませんでした」
息を切らしたグラスが立っていた。アリベルとレインは驚いた表情を見せる。
「俺らの後ろにいろ。援護頼む」
アリベルはそう言って肩をグルリを回す。
「大丈夫です。攻撃は通しません」
レインは棍棒を振り回す。
『人間ごときがそんな高度な魔法を使えるとは・・・』
シルフィーユはグラスの高度な魔法に驚きを隠せない。
『けど、私の魔法と一体どっちが強いかしら?』
そう言ってシルフィーユは手を掲げる。アリベルとグラスはそれに合わせて、魔力を最大限に練り上げる。レインは周りに漂うシルフから二人を守る。
「炎竜!!」「大雷!!」『大嵐よ!!』
魔力はぶつかり合う。衝突によってうまれた衝撃は地面をえぐり、木を薙ぎ倒す。
二人の全力の魔法と精霊の魔法。威力は全く互角である。
しかし消耗は互角ではない。
魔力そのものと言っていいシルフィーユは消耗は0。
対してアリベルとグラスの魔力は0に近い。
策はある。
アリベルはバックを一瞬見る。賭けに近いがそれを行わなければ三分後には屍になる。
レインだけではあの妖精を3秒も止めることはできないだろう。だがグラスが戻ってくれれば
「レイン、グラス少し頼む」
そう言って投げ捨てたバックに走り寄る。
『なにか知らないけどやらせない!!』
そう言ってシルフィーユはシルフを作り出す。
数はゆうに50を越えている。
『いけ!!!』
「絶対にやらせないです!!」
そう言ってレインはとっておきを発動する。
「巨大化!!!」
レインにとって唯一の魔法である。
小さかった河童はみるみるうちに大きくなり、五メートルを越える。
大きな体で小人の軍団を無理矢理受け止める。シルフは風の刃に変え、レインに傷つける。
「でもこの魔法使っても強くならないんですよ。ても大きくなって武器も使えなくなるし、力も強くならないし・・・」
レインはただひたすら小人の暴力に耐える。
『嵐!!』
「炎竜!!」
グラスはシルフィーユとの魔法の打ち合いである。
『あなた…何者?私と打ち合えるなんて』
「ただの学生よ」
そう言ってグラスは不敵に笑った
「くそ!!どこだあれ!!」
バッグを荒々しく探す。物を探すというのは思った以上に難しい。
あいつはなぜあそこまで必死になった!?小さなものごときでなぜ!?
バックの奥の奥。それはあった。
「あった!」
それは種である。
『何をする気!?』
それまで余裕を崩さなかったシルフィーユがはじめて声を荒げる。
「うん?こうするんだよ!!」
そう言ってアリベルは種を口にいれた。
彼の賭けとは種を食べることだった。
『やめなさい!!』
「やめないよー」
そう言って口を開けたとき種になにかが起こった。太陽光に水、そして温度によって種が発芽した。
そしてその種はアリベルの口許から離れ、空に浮かぶ。そして五秒もたたず、種は緑に包まれ、輝きを放つ。
なにかが生まれる。
今まで見たことがないほどの閃光で世界は真っ白に染める。
「っつ…」
アリベルが眼を開いたときそれはいた。
「なんだこいつ?」
そこには目がくりくりとした愛らしい子がいた。
『生まれちゃったのね。ドリアード。まぁいいわあなたたちを殺して…』
『パパ!!』
そう言ってアリベルの胸に飛び込む緑の精霊。
時間が止まる。
「「『パパ!?!?』」」
一妖怪と1人と1妖精の叫び声が響き渡った。幼き妖精はアリベルの胸をスリスリして、幸せそうだった。