15話 河童と発掘者と魔物
「ここが二層ですか・・・」
そこは、暗い森だった。光ひとつ届かない、密集された木に包まれており視界はかなり悪い。
「一層とは全く雰囲気が違いますね」
「ここからは弱点属性の火の魔法に対抗できる魔物もいるみたいです」
レインはグラスに二層の概要を軽く説明する。
「さっそくきたぞ。敵だ」
アリベルはそう言って剣を構える。
「あれは・・・カブトムシですか?」
グラスは遠くに見える魔物見て思わず困惑しながら問う。
「た、たぶん・・・」
レインも自信なさげに答える。
たしかに姿形は、カブトムシに見える。しかし、大きさは普通のカブトムシとは全く違う。人間よりもはるかに大きく、象ほどの大きさをしており、その角で挟まれたら、痛いだけでは到底済まないだろう。
『ギリギリギリギリ・・・』
不気味な呻き声をあげ、接近してくる。カそのカブトムシを支える羽も巨大で、『ブーン』という不気味な音と共にアリベルたちに近づいてくる。
『キリキリっ!!』
十歩ほどの距離になったときに、カブトムシ型の魔物はさらに加速する。
その勢いのまま角でアリベルの首を掻っ切らんと接近する。
「はえぇぇな!!」
悪態をつきながら高く飛び上がる。
「その甲殻叩き割ったるわ!!!」
剣で甲殻を叩き割ろうと自由落下の勢いそのままに振り下ろす。
『ガンっ!!』
しかしその剣は甲殻を貫くことはなく、はじき返される。
「ファイア!!!」 「カッパ!!」
グラスもアリベルを援護せんと、魔法を唱える。そしてレインは厄介な機動性を止めまいと魔物の羽に水を噴射する。
「「なっ!!」」
グラスが放った炎は固い甲殻に阻まれ、レインの水鉄砲も魔物の動きをわずかに鈍くする程度しかなかった。
「くそ、ならこれだ!」
アリベルは自身に雷をまとい、動きをさらに加速し魔物の懐に潜り込む。
「腹部はどうだ!!」
甲殻でおおわれている背中ではなく、比較的やわらかいはずの腹部に切りかかる。
しかし、アリベルの刃は全く通らない。
「腹も固いのかよ!!」
アリベルは思わず舌打ちをする。
「ならっ!!三人とも距離をとるぞ!!レイン頼む!!」
「わかりました!!ガッパァァl!!」
レインは大きく吸い込んで、水鉄砲を打ち出す。それはさっきほどの勢いはないが、水の量は段違いである。
『キィィィ!!』
魔物も動きが鈍くなるのが嫌なのか、羽を細かく動かし、水を弾き飛ばす。
その間に三人は距離を取り、十歩ほどの距離を再びとる。
「甲殻類の弱点その2だ」
そういって、アリベルはもう一度雷をまとい、刀を両手で片手で固く握る。
『ギリリリィィ!!』
機動性を確保した魔物はさっきよりも早く、アリベルにとびかかる。アリベルも光速を身にまとい、魔物と激突する。
狙うのは関節。
「おらよっ!!」
アリベルの剣は魔物の足をすべて切り裂いた。
「グラス火あぶりにしてやれ!!!」
「はい!!!」
グラスは魔力を込め、灼熱の炎イメージする。
「フレム!!!」
グラスの炎は甲殻にははじかれる。しかし体支えていた脚の切口には火に抵抗する術を持っていなかった。
『ギャァァァ!!!』
魔物は苦痛の鳴き声を上げる。そしてその苦痛から脱さんと羽を広げる。
「させねぇぇ!!」
アリベルは魔物に飛び乗り、押さえつける。レインも飛び乗り押さえつける。本来なら数秒も持たず振り落とされるが、足を失い、バランスをとれなくなった魔物は素早く動くことができなくなっており振り落とすことができない。
『グャ・・・』
数分後、カブトムシ型の魔物は動かなくなった。
「よし・・・何とかなったか」
魔物の死を確認した後に3人は溜め息をついた。
「やっぱり強いですねー」
「一層は火魔法さえ使えば簡単な層だからな。二層からは弱点の火魔法を弾いたり、躱したりしてくるからな」
「すいませんキュウリください」
そう言ってレインはキュウリで水分補給を始める。
「グラスもマナポーション飲んでおいたほうがいい」
そう言ってアリベルはグラスにマナポーションに渡す。
「ありがとうございます」
三人は少しばかりの休憩を始めた。
「どこのダンジョンも一層上がっただけで、こんなに強くなるんですか?」
「うーんそうですね。確かに強くなりますけど、これだけ強くなるのは、やっぱりこのダンジョンだからですね。ね、アリベルさん」
レインはアリベルに話題を振る。アリベルは首肯する。
「あぁ、そうだ。このダンジョンは火魔法を使えれば、一層は楽勝だ。そしてそのイメージで二層に来て、さっきの魔物が現れて逃げ切れずに死亡というのがかなりあった。だが、その分、二層はいいものがザクザクあるんだ」
そう言ってアリベルは立ち上がる。
「さぁ行こう。スイレン草を探しながら迷宮探索だ。」
アリベルとレインの目はキラキラと輝いていた。