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13話 発掘者と河童と夜

 日は完全に沈み、暗闇に包まれた。未だ一本もスイレン草は見つからない。三人は探索を切り上げ、明るくなる朝を待つことになった。


「大丈夫なんですか?こんなど真ん中で休憩をとって」


 グラスが燃える焚き木を見ながら言う。


「あぁ。どの迷宮でも共通する法則性があるんだ」


 アリベルはそう言いながら火にかけた、鍋をぐるぐると混ぜる。鍋の中は、人参、カブ、玉ねぎ、ジャガイモを細かく刻み、煮込むスープだ。


「法則ですか?」

「夜に休んでいる発掘者は襲われないというものだ」


 アリベルの言葉に疑いの目を向けるグラス。


「例外はないんですか?」


 グラスの言葉にアリベルは「ある」と頷く。


「昼夜がない迷宮、いわゆる屋内型迷宮。そして、人には襲われる危険性はある」


 アリベルはコポコポと沸騰したスープを器に移す。


「まぁ、今どき探索者はいないから、危険性は皆無といってもいい。はい、スープ」

「ありがとうございます」


 グラスはアリベルから器を受け取り、スープをスプーンで口に運ぶ。


「おいしい・・・」


 思わず頬が緩む。野菜を煮込み、塩で味付けしただけのスープだが、野菜の甘味が出ていて寒い夜には染みるスープだった。


「そうです。アリベルさんのスープはまぁまぁ美味しいんです!!」

「まぁまぁは余計だ」


 そういってアリベルもスープを飲み、はぁと白い息を吐く。パンとスープでホッとしたところで本題に入る。


「それで、スイレン草が見つからない件について話したいと思う」


 一呼吸おいて話し始める。


「正直今の状況は異常だと考えている」


 アリベルがそう言うと、レインも首肯する。


「そうですね。明らかにおかしいです。これだけスイレン草と一緒に生えている雑草はあるのに、スイレン草だけが一つも見つかっていません」

「こうなると何者かがスイレン草を根絶してしまったと考えることが自然だろうと考えている。」

「しかし、そんなこと可能なんですか?スイレン草ですよ?どこにでも生えてますよ」 


 レインはそう疑問を投げかける。


「可能です」


 グラスはレインの疑問に対して断言する。彼女は続いて言う。


「今の研究で一つの植物だけ限定して枯らすことができる農薬が発表されています」

「あっ、知ってます!!これでキュウリだけ枯らされちゃったらやばいと思いました!!」

「でもコストがかかりすぎて、実用化、市販することはできなかったらしいです」


 グラスの言葉にアリベルは腕を組みしながら唸る。


「市場に出ていないもの扱っているということか・・・やはり犯人は大学関係者だな。開発者は何て名前なんだ?」

「・・・リュー教授という人です」


 彼女はそう言いながら、あのときあの人が浮かべた不気味な笑みが頭から離れないでいた。


「まぁ、犯人探しをしてもしょうがない。明日もう一度スイレン草を探そう」


 アリベルは手をパチンと叩いて、レインとグラスの器を回収する。


「そうですね・・・」

「頑張りましょう!!!」


 グラスは少し不安そうに、レインは元気に返事する。迷宮での一日が終わった。



「・・・寝れない」


 グラスははじめての野宿で寝れずにいた。シートを引いていて痛くはないが、地面の冷気が伝わってくる。


「うーむアリベルさんーさすがに七本同時には食べれませんー」


 そう寝言を言いながら、幸せそうに寝ている河童を見て、苦笑する。


「外の空気でも吸おう・・・」


 チャックをあけ、テントからでると、アリベルの姿があった。


「アリベルさんなにしているんですか?」

「うん?グラスか。一応見張りだ」


 アリベルはグラスの方を向き、答える。


「えっだってさっき迷宮では」

「今日遭遇した精霊が気になってな・・・そしてなによりどうやらこの迷宮、俺らを邪魔するやつもいるっぽいしな」


 そう言ってアリベルは照明器具の明るさを少し強くした。


「それよりどうした?寝れないのか?」

「あははは・・・少し」


 そう言ってグラスはアリベルの向かい側に座った。


「どうだった?」


 アリベルはグラスに話しかける。


「どう、とは?」

「いや、初めての迷宮探索はどうだったのか、聞いてみたくなってな」


 アルベルがそういうと、グラスは困ったような顔をする。


「なんか現実感が沸かなくて、つい最近まで私、大学で研究していたのになって」


 グラスは空を見上げた。自分に降りかかった理不尽に涙がこぼれでてくる。


「研究の素材がなくて、盗賊に襲われて死にそうになって、アリベルさんに助けてもらって光明が見え始めたと思ったら、教授には外出届の許可をもらえなくて、そしてなんとかギリギリのところで迷宮に入れて、入ったら当たり前に生えているはずのスイレン草もなくて・・・」


 彼女は涙がとまらなかった。光がなく、暗いからか、押さえていた不安があふれでてくる。


「こんなことになるんなら私、大学入らなきゃよかった・・・」


 そのあと言葉は続かなかった。


「なんでグラスは研究者になろうと思ったんだ?」


 アリベルはグラスに疑問をぶつける。単純な疑問だった。学校に平民はいるが、その平民というのも商人や役人の子どもばかりで農民の子どもはほとんどいない。農民が学業、研究に触れる機会がないのだ。


「植物を巨大化する研究知っていますか」

「あぁ。しっている。昔かなり話題になったよな」


 アリベルはグラスにホットミルクを渡す。


「はい。それに成功したのが、イフェリア教授っていう人で、その人は平民でしかも農民出身なんですよ。それに憧れて、ただそれだけでこの世界に飛び込みました」


 そう言ってグラスはアハハと頬を掻きながら笑う。


「憧れから・・・か」


 アリベルはそう呟いて空を見上げた。ただ流されるように生きてきたアリベルには、グラスの言葉は眩しかった。


「アリベルさんはどうして発掘者を続けているんですか?」


 グラスは少しの静寂の後にそう疑問を呈した。


「うん?」


 予想外の質問に思わず、グラスの方を見て、聞き返す。


「今日も危険な目にあって、何度もその・・・死にそうになって」


「もうお金も稼げる職業じゃないんですよね?アリベルさんたちなら他にも道があると思うんです、他の職業に就こうとは思ってないんですか?」


 グラスは聞きにくそうに、アリベルに問いかける。


「確かにな・・・なんで続けてるんだろうな」


 そう言ってアリベルは空を見上げた。


 もう稼げなくなった、夢がない、終わった職業である。『発掘者』という仕事は。戦いも好きではない、別に志もない。それなのに自分はなぜ発掘者を続けているのだろうか。


「本当になんで続けているんだろう」 


 その問いに対する答えは彼には見つからなかった。


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