12話 発掘者と河童と出オチ
「はぁはぁ・・・」
三人は地面に座り込んで、息を切らせていた。
「いったい何体いたんだ?」
アリベルが周りを見渡す。周りは黒焦げになった植物もとい魔物が大量に横たわっていた。口からあふれ出た体液は地面を溶かし、さっきまで幻想的な景色とは打って変わって、地獄絵図となっていた。
「ざっと30体はいましたね」
火魔法で植物を焼き尽くしたグラスはそう指を折りながら言う。
「いやーやっぱりここは火魔法を持ってない人には厳しいですね」
そう言って水分補給のためキュウリを食べ始めるレイン。
「初めての戦闘はどうだったよ」
アリベルは水分を取りながら、グラスにも飲み物を差し出ながら、グラスに聞く。
「そうですね・・・なんか作業をしているみたいで、あまり戦っているって感じではありませんでした。アリベルさんとレインさんが囮になってくれたからだと思いますけど」
グラスは飲み物を受け取り、言う。
「まぁ、俺たちの攻撃は一つも効いてなかったしな」
そう言ってアリベルとレインは苦笑する。
三人の戦いは地味な絵面だった。グラスに注意が向かないように、アリベルとレインは大声を出したり、ドタバタと動いたりした。そして、触手のようにうなる茨は、アリベルは剣で切り裂き、レインは棍棒で叩き潰した。しかし切り裂いても切り裂いても生えてくる茨に涙目になりながら必死に耐え抜いた。
一方のグラスは火魔法を唱え、火球を魔物にぶつけるという行為を繰り返すだけだった。火球に当たった魔物は悲鳴をあげながら倒れていった。グラスは傷一つなく、MPの消費も少ない。しかし彼女は学生。初めて意図的に生き物を殺すという行為に精神的に疲弊していた。
「まぁこんな感じで、ここにいる魔物は基本的に火に弱いんだ。頼りにしているぞ」
「はい!!」
休憩する時間が惜しい三人は、立ち上がって遺跡の奥に進んでいく。
戦いで言葉数が少なくなった三人だが、3人の前にあるものが現れた。
「おっ!!アリベルさん宝箱ありますよ!!宝箱!!!」
レインは森の奥を指さしながら言う。レインの指の先には木の箱、いわゆる宝箱があった。
「おっ!!でかしたぞ!!レイン」
アリベルも嬉しそうに笑い、二人は宝箱に一直線に走る。
「あの・・・宝箱って大丈夫なんですか?」
グラスの呟きは興奮している二人の耳には届かない。
程なく二人は宝箱の目の前に立つ。嬉しさのあまり顔が緩んでしまう。
「さぁ、開けるぞ」
「はい!!!」
安全のため頑丈なレインが宝箱の蓋に手をかける。
宝箱がゆっくりと開かれる。
どうやら罠はないようである。
「うん?なんだこれ」
宝箱の中には種があった。大きさとしてはヒマワリの種程度の大きさである。
アリベルはその種に手を伸ばし、掴んだ。
その瞬間である。
地面が揺れた。
その揺れは大地を揺らし、木を倒し、空さえも歪ませる。
その揺れは大きくなり地面がバキッと割れる。そしてその地面の割れは大きくなり、そこから出た土埃で目の前が見えなくなる。
土埃が晴れる。そこに何かがいた。
『我の眠りを妨げたものは誰じゃ』
凛とした声が響く。その姿は小さな少女だった。しかし、周りには強烈な風が吹き荒れており、近づくことも難しい。そして存在があいまいなのかわずかに薄れて見える。
その少女が何者であるかは謎だが、その存在は人知を超えたものであることを容易に想像できた。
『声も上げられぬか』
そういって少女は軽く鼻で笑い、閉じていた目をゆっくりと開ける。
『・・・・』
目をパチクリさせる。そして肩を震わせる。
『我の登場の前に逃げるとは何事じぁー!!!』
そう言って彼女は顔を真っ赤にして地団太を踏む。その地団駄によって、嵐が起きる。その嵐は周りにある地面に深く根を張っていた木をなぎ倒した。
しかしいくらそのように駄々をこねても一向に現れる気配はない。
『早くこちらへ来い!!』
彼女は風を操り、自らの声を一層全体に響き渡らせる。
『なんで来ないのじゃ!!』『愚か者!!!』など名前も顔もわからない人間への罵詈雑言が迷宮に響き渡った。そんなことが続いて、約五分後、その声色に変化が訪れた。
『ひぐっひぐっ・・・』
『うぁーん!!久しぶりの敵でかっこつけて出てきたらもうすでに逃げてるなんて。えーん!!』
そういいながら、彼女は必死に目元をぬぐいながら、『グスグス』と泣き始めた。そして、10分たち、泣き声が聞こえなくなる。
『絶対見つけてやるから覚悟しなさいよ!!!』
そんな宣言と同時に姿を消す。やがて吹き荒れていた風は穏やかになった。
「すごい危なかったですね・・・」
グラスは息を切らしながら一安心とばかりに座り込む。
「あいつは絶対にやばい。探知はあまり得意ではなかったのが幸いだったが」
「いやーこんなことになるなんてびっくりしましたね」
二人は苦笑を交えながら、ほっとしたのか脱力して座り込んだ。
地面が揺れ始め、異変を感じた瞬間、彼らは「やばそう」という感覚を信じ、息を殺し、ひたすらその場から離れた。どんだけきつくても、走ることはやめなかった。それが功を奏した。
「そんなやばい敵だったんですか」
グラスは疑問を投げかける。グラスは戦闘慣れしていないため、力量を測ることができないでいた。
「あー。たぶんな。あの気配はたぶん精霊だ」
アリベルは汗を拭いながら言う。
「精霊・・・ですか?」
グラスは学校でも学ばない名前に首を傾ける。
「学術的には存在は認められていないけどな」
アリベルはそう言いながら、カバンの中から宝箱の中に入っていた恐らく原因となった種を見つめる。見たところなんの変哲もない種だ。
「探索者の中では会ったら終わりといわれている存在です」
レインはそう言ってカバンの中で一番大きなキュウリを食べる。
「姿も見た人で遺跡から帰還できた人はいません」
「そして残っているのは増大な魔力だけ、何かがいたということはわかるが何がいたのかわからない。俺たちはそれを精霊と読んでいる」
「へぇ・・・そんな存在がいるんですね」
グラスはそう言いながら相槌を打つ。
「まぁ、相手は探知は苦手そうだ。さっさとスイレン草を見つけて退却しよう」
そう言ってアリベルは手をパンパンと叩いて立ち上がる。
「アリベルさん、それ最近の書籍ではフラグってやつですよ」
日が落ちてきた。地下とは思えないほど美しい夕日が見える。
「おかしい」
アリベルはつぶやく。
「どうして、こうスイレン草だけ生えていないんだ?」
探索をし始めて6時間。彼らは、いまだスイレン草を見つけられずにいた。