11話 発掘者と河童と油断
「うわっ・・・すごい」
声が漏れる。グラスは自分の目を疑った。グラスの目の前には、これまで教えられていた迷宮のイメージを軽く覆す光景が広がっていた。
グラスの目の前にはいわば、絵本の物語で見るような光景があった。前の前に広がるのは雄大な自然。美しい森があった。青々とした木があり、森ではあるが、適度に光が差し込んできて、木漏れ日が気持ちいい。そして小動物もいて、リスがクルミを割っている。そして周りを見渡せば光できらきらと反射している湖に休んでいる鳥も見られる。まるで本当に理想的な幻想郷のように感じた。
そしていかに自分が迷宮をステレオタイプのイメージで考えていたのか痛感した。
「相変わらずきれいなところだな」
そう言いながらも、景色に目もくれず、アリベルは目的のスイレン草を探し始める。しかし数分後手が止まる。
「・・・ないな。スイレン草」
「本当ですね」
アリベルの言葉にレインも珍しそうにうなずく。
「採って、さっさと退却するつもりだったんだがな・・・しょうがない。進みながら探すぞ」
歩き出して、五分。やはりスイレン草は見つからない。緊張していたグラスであったが敵と出会わない時間が続き、集中力が切れ始める。周りを見れば普段見ることができない自然があり時折目を奪われる。グラスにはこの迷宮が、たくさんの死者を出した、とても危険なところには思えなかった。
後ろを見ると、レインも楽しそうに口笛を吹いていた。
そしてついには「あっ!!チョウチョ!!」と言って、見た目麗しい蝶をふらふらと追いかけ始めた。
「アリベルさん・・・ふべっ!?」
アリベルに捕まえた蝶を見せようとした瞬間、レインが何かにつかまれ持ち上げられる。
「レインさん!?」
レインの悲鳴に、グラスが素早く後ろを振り向くと、レインがツルに巻き付けられ、高く持ち上げられていた。
そのツルの持ち主は巨大な花だった。しかし普通の花と違う点がある。
その花には口があった。
そして口の中には何か毒々しい、紫色の液体が入っていて、沸騰したように、水泡がぼこぼことしている。その中に放り込まれればどうなるか想像もつかないが、いい結果は生まないことは確かだろう。
「レインさん!?アリベルさん!!どうしましょう!!??」
グラスはレインの惨状をみてあたふたする。
「あいつ気が緩みすぎだバカ・・・」
アリベルはそう言って額に手をやって、はぁとため息をついた。
「助けてくださいーー!!!アリベルさん」
河童が涙と鼻水を垂らしながら、訴えかけてくる。ブンブンと振り回されている。
「しょうがねぇーな。グラス、あの花に小さな火魔法を撃ってくれ」
「え、小さくて大丈夫なんですか!?」
グラスがパニック気味に聞いてくる。最大級の火魔法を打ち込もうとしていた彼女にとって、弱い火魔法でいいといわれるのは驚きだった。
「あぁマナがもったいないからな。それより早く撃ってくれ、あいつもう口に放り込まれちまう」
アリベルはそう言って指差す。指の先には今にも花の魔物の口に放り込まれそうな河童の姿があった。「河童なんて食べてもおいしくないですよ!!」と意味わからない弁護をしているレインだが、残念ながら、それを理解する脳はあの魔物にはない。
「れ、レインさんー--!!!」
グラスは慌てて、目をつぶり両手に杖を両手でギュっと握りしめ、願う。火の奇跡を。すると程なく杖に埋め込まれた透き通った宝石が赤い光をともす。
そして放つ。
「フレム!!」
彼女の杖から放たれた、小さな火球はまっすぐ花の魔物に飛んでいき、当たると花びらにあっさり火が付き、花全体から火が上がる。
『ギャァッァァァァ!!!』
魔物が悲鳴を上げる。
その悲鳴に思わずグラスを耳をふさぐ。
花の魔物はいずれ悲鳴をあげなくなり、花は燃え尽きる。するとツルの拘束も弱まり、レインは自然落下した。
「ふぎゃっ」
「大丈夫ですか!?レインさん!!」
「いやー助かりました」
そう言って、レインは頭をかく。
「まったく・・・隊列から離れてふわふわしてるから」
アリベルはそう言って、レインに近づく。
アリベルはレインに手を差し出し、その手をレインはつかみ、立ち上がる。
「あっさり倒せましたね」
思ったより敵に歯応えがないせいか、グラスは少し困惑したような表情で呟く。
「いやいや、あいつは火魔法なかったら倒すのは難しい敵だから」
「私たちは火薬で燃やしましたね」
「あーあのときは火薬の音で、仲間が集まってやばくなったんだよな」
レインとアリベルはそう言ってワハハと笑う。
「え、じゃあ、さっきの断末魔は大丈夫なんですか?」
彼女の純粋な疑問に、アリベルとレインの時間が止まる。笑顔も止まっている。
「それってもしかして今回も」
「いやいやまさか」
不気味な音が四方八方から、聞こえてくる。ミシミシっと音とドドドッという音が微かに聞こえる。
そしてその音はだんだん大きくなっていた。
影が見えてくる。植物とか蝶などの昆虫の巨大なシルエットである。
「「「ぎゃぁぁぁぁ!!!!???」」」
三人の断末魔が響き渡る。
幸い、グラスの火魔法のおかげで大事にはいたらなかったという