1話 発掘者と河童と岩
時代は変わる。
ここ数年で世界初の魔力で動く冷蔵庫・照明器・通信機と生活をより便利なる製品が次々と開発された。
また工業だけでなく医療も発展し、治せない病気も少なくなった。
世界は豊かになり、世界はより小さくなった。数十年後の人はこの時代のことをこう言った。
「魔法産業革命」と。
光があれば影がある。緩やかに衰えていく産業も当然ある。例えば町を照らしていたランプは照明器に取って代わられ。通信機によって配達屋の需要は小さくなった。
そして完全になくなった産業も一つ。命を懸けて「迷宮」に潜り、生活に便利な道具や材料を採取する「発掘者」は過去の仕事になった。
発掘者でにぎわっていた迷宮も過去の遺産となっていた。
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「まずいまずい!!早く逃げるぞ!!」
フードを被った男が息を切らしながら全力で坂を駆け降りる。
「うぎゃぁぁ!!最後に新鮮なアリベルさんのキュウリが食べたかった!!」
フードをかぶった男のすぐ後ろに涙を流しながら駆け降りる、「河童」がいた。
彼らは追われていた。生物ではない。転がる岩にである。その岩はどんどん加速して、徐々に二人に近づいてくる。
「何、ばかなこと言ってんだ!!そもそもレインが見え見えの罠に引っかかるからだろ!!そもそもこんな古典的な罠に引っかかりやがって!!」
「いやいや!!アリベルさん。私知っているんだから!!アリベルさんが私に危険な先頭をさりげなく行かせていたこと!!」
「なに!!河童のくせにそんなに頭が回るとは・・・」
「河童を舐めないでください!!種族差別です!!」
二人はお互いの頬を思いっきり引っ張り合う。
そんなことを言っているうちに、岩は目の先まで近づいていた。男はそれを見て、一つため息をつき、口を開いた。
「・・・しょうがない。あれ使うぞ」
「あれですね!!それがいいと思います!」
男と河童はうなずく。男は翻しフードの裏から透明の光を放つ石を取り出す。
「レイン!!つかまれ!!」
「はい!!わかりました!アリベルさん!」
河童は男に勢いよく抱き着く。
「だから腕つかむだけでいいんだって!!やめてくれよ!!また変な噂立つだろ!!」
男は河童を引き離そうと押し返す。しかし河童は全く動かない。
「だって怖いんだもん!!」
河童は鼻水を男の服に擦り付けながらそう言った。
そう言い合っているうちに、岩が目の前に。数秒後には男と河童がただの肉の塊になる。そんな距離に来ていた。
「あぁ!!もう行くぞ。」
引き離すを諦め、男は石を頭の上に掲げる。二人の目を合わせ、叫んだ。
「「テレポート!」」
河童と男の声が迷宮内を反響する。瞬く間に石の輝きが増し、一面を真っ白に包む。
目のくらむような光が収まる。その場には転がり続ける岩のみ。男と河童の姿はなかった。