1:鑑定能力
レインボウナイフを懐にしまった俺は、もう少しだけ鑑定能力を試してみることにする。
せっかく便利な能力を手に入れたのだが、鑑定に関する知識が俺には不足しているからな。
数百年に一度しか出現しない能力ということで、研究も遅れているのだろう。
例えば、今のところこの能力を物にしか使っていないが、人に対しても使えるのだろうか。
例えば武器屋の店主を鑑定すれば、やはり「武器屋の店主」と表示されるのだろうか。
偽物をつかまされるぐらいだから間抜けなところもあるけれど、気づかずに業物を仕入れることから、何かしらの才能……例えば、直感が鋭いとか。
そういう能力があるのだろうか……
・武器屋の店主
・だまされやすい
・直感力(+1)
……思った通りだ。
そしてこれで、鑑定能力は物質だけでなく、生き物に対しても使えることがわかった。
ならば……俺自身を鑑定することはできるのだろうか?
試しに、俺の左手をじっと睨み付けてみる。
・左手
いや、それは知ってるが?
だが、ああそうか。部位に注目すると、部位だけを調べることもできるのか。
これはこれで一つの発見だが、今はそうじゃない。
俺が俺自身を見ることはできないが……試しに、イメージをしてみることにする。
ここは『能力神殿』近くの武器屋。
そこには、俺……鳳仙風太郎がいる……
想像力を限界まで酷使して、今ここに立っている俺自身を脳内に復元して、鑑定の能力を使おうとする。
・武器屋
違う、違うそうじゃない!
俺が調べたいのは、武器屋じゃなくて、そこに居る俺自身……
だんだんと、鑑定の対象が収束していくのを感じる。
そして、ついに俺自身を鑑定できる……そう思った瞬間に
・鳳仙風太郎
・鑑定能力
・鑑定能力
・鑑定能力
・鑑定能力
・鑑定能力
・鑑定能力
・鑑定能力
・鑑定能力
・鑑定能力
・鑑定能力
・鑑定能力
……
「……うぉっと」
後頭部を思い切り殴られたような衝撃が走り、ふと我に返る。
血の気が引いて、立ちくらみがする。
この感覚は……なんとなくわかる。
俺は、俺自身を鑑定することはできないらしい。
「おい、大丈夫か?」
店主は、突然ふらついた俺を見て心配そうにしている。
俺はそのまま膝を曲げてうずくまり、細くゆっくりと息を吐き出してから深呼吸する。
「何でもない。大丈夫だ……」
そういいながら、さっきの結果を反芻する。
どうやら鑑定能力も万能ではないようだ。
少なくとも鑑定能力で、鑑定能力を鑑定することは止めておいた方が良さそうだな。