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39話 復讐者



「おいおいぃぃー。水神様か知らねぇーが、こんな雑魚が竜神を使役ぃぃーー? 山に篭って老いぼれたかアクアリウムゥー」



「ああ。君のマナは覚えてるよ、確かロゼミルアル・バン・ブラッキーナだったかな? 君の使役はとにかく荒いとクルシュルの森林でも評判だったよ」

「使役士のエキスパートの君からしたらこんな弱そうな男の子がペンドラゴン様を使役したなんて信じれないし信じたくないよねぇー。分かる分かる」


 龍なりに頭部を上下に動かす、人間でいうところの頷きなのだろうが、あの大きな質量が動くんだ。

 その度に地上では凄まじい風圧の風が吹き荒れ空中を乱舞する。

 そのくらいにこの龍は人外の力を持っているのだ。




「だが……僕は真実を話している。無粋で汚れた推測や暴言は寿命を縮めるぞ、ブラッキーナ。――いっそ今日を命日にしたいか?」


 最後の言葉は静かな一言であった。

 細い目を見開き、金色の瞳が姿を表す。

 天空に浮かぶ金色の眼は、暗雲漂う闇世に浮かぶ満月のように美しかった。


 しかしその言葉には、人間如きは神に反逆の意志など持つことすら許されないという、弱肉強食の理を表現するための憤懣、怒気の成分が多量に配合されていた。




 言った通りだ。

 普段物腰が柔らかい者がきれるのが一番怖い。


 もしあの瞳孔をこちらに向けられたら、たちまち意識を失いララの膝枕で起きるのが想像に難くない。

 うん。それ良いな。



「――誠に申し訳ございません、水神様。我が国の者が大変な無礼を働きました事をお許し下さいませ。この者には私からキツく譴責しておきます」

 フレアは瀑布でグジョグジョにぬかるんだ大地に片膝を立て、敬服の意を表す。



「君は……そうか。『復讐の剣(ヴェンデッタ)』が居るならダスティンがここまで苦戦する理由が分かったよ。さぁ、君はまだダスティン達を虐めるのかい?」


 金属が落下した小さな衝撃音が鳴る。

 右手から安物を手放し、フレアは戦闘の意思がないことを改めてアクアリウムに示す。



「ご冗談を、元々私はここでの戦闘は望んでおりませんでしたので、戦闘の中止はむしろ好都合です」

 しかし、いきなりの停戦など認められる訳がない性格破綻者がこの場に一人……いや分身が何体もいる。


「はぁぁぁ!? ざっっけんなリリンベルクゥ! 今からが面白いところなんだろうがぁ!」

 体長四十センチの戦闘狂者が殺意を一人滾らせながら発狂する。


「華姫! そして水華龍までいんだぞぉ!? こんなワクワクさせてくれる戦いやめる理由がどこにあんだよぉ! あちしは魔力が続く限り遊ばせてもらうぜぇ」


「んー。そうだね。君がそんなに殺り合いたいって言うんなら、僕は止めないよ?」

 アクアリウムは軽くいなしつつ微笑する。

 その時、一メートルほどの長さで名剣のように鋭く尖った牙がチラリと覗く



「いい加減にしろ、ブラッキーナ。貴様は何か勘違いしている。元々貴様より強い僕に対して反論する時点で論外だ」

「威厳を保つ為人前で先輩面したいだけならすれば良い。しかしこの場の決定権は強者の僕にある。これはオスタリア国憲章、ウルクエラ様のご意志に則った判断だ」


「――ッチィ。餓鬼がぁ……。覚えとけよ華姫。オメェーーをぶっっ殺すのはあちしだ。今度会ったらゼッテェーーグチャグチャに殺すからよぉーー」



 そう言い残したボマーウオーカーは生気を失い、二足自立が出来なくなり泥に戻る。

 その他の泥人形も同様に豪雨に溶けながら大地に還る。



 嘘だろ。

 ブラッキーナより……強いだと? 

 三傑の一人。隷属の瞳より強いとするならば……。


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