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37話 アクアリウム



「だってだってーールークスはずっと私のヒーローだもん!!」



「ずっと……?」

 こちらを向き、満面の笑みでこんな俺を『ヒーロー』と断言した華姫は何かが吹っ切れたように見えた。


「おいおいおいおぉーーい。そりゃーオメェーなりのジョークって奴だよなぁ? そこの雑魚からは何も感じねぇーんだよ、バァーーカ!」


 ブラッキーナの言葉を皮切りに、待機していたボマーウォーカーが俺に向かって一斉に飛んでくる。

「ルークス! あたしの後ろに隠れて! あたしがやっつけるよ!」


「このゲスが。お前の好きにはさせん」


 重厚な赤いマントを翻し、フレアは安物の剣を高速で振り乱しながら、ララとの間合いを一気に詰める。

 刺突の一つ一つが確実に急所を貫く速度、正確さを持っているのが素人目でもはっきり分かる。


 その隙に、二人の足元を大量のボマーウォーカーが通過していく。



「離れて! 今のルークスじゃ倒せない!」

 くそっ! 何やってんだ。これじゃ本当に足でまとい一直線だ。


 洞窟でも格闘士は出来たんだ。

 この前も曲がりなりにも力は発動した。


 詠唱は覚えてる。

 やるしかない。


 自分の身は自分で守らなきゃ男が廃る!


 その決意を動力源に扉を開ける。



「悪辣の彼方の深淵を覗く者、亡骸となりて死を欲しろ 暗黒魔導 『虚空殺こくうさつ」!!」


 詠唱と共に、地面が暗黒に染まり、モンスター達が次々と奈落へと沈んでい……


 かなかった。


 余りに無情な現実。

 足に無数のボマーウォーカーがこびり付き光り出す。



 俺は咄嗟に足を全力でスイングし振り払おうとする。

 しかし無適性者の抵抗など、三傑の使役物に効くはずは当然無い。



「やばい……やばいーー死ぬ。」


「――ルークス!」

 フレアの剣術を避けながらも、目を見開いてこちらを見るララと目があった。

 不思議と時間が止まった様に感じる。


 テーブルから落としたコップを見た時、それが地面に着くまでが異様に長く感じるように。





 そして永遠にも思えた一秒が終わり、ボマーウォーカーは無慈悲にも待ってくれることは無く、俺の足に縋りついたまま一斉に爆発した。





「ああぁぁぁ! あ、あ、足がぁ……!       付いてる?」 

 

 何が起こった? ララが何かしたのか?


 いや、あの驚き方はララも想定外のことが起きたに違いない。

 ブラッキーナの魔力調整ミスか。


 しかし、何はともあれ俺の両足がしぶとく胴体にしがみついているのは事実だ。



「テェメェーー。何しやがった? あちしが遠隔魔両操作をミスったってのか」

 意外にもブラッキーナもわかっていない様子だ。


「ーーまあぁぁーいい。面白いことも分かったしなぁぁぁ!」

 次から次へとボマーウォーカーが地面から現れる。


「おい雑魚。おめぇーーさぁ……フッフフ。フフフフフ、アァァーーーーヒャッヒャッ!!」

 嫌な音程の甲高い笑い声は山々に響き、やまびことなり、俺らの鼓膜に跳ね返ってくる



「お前何の適性もねぇーーーだろ!!!」



 くそバレた……。

 ここで俺が魔導使いだと思わせれたら少しはララの助けになったのに……。

 これだと確実に俺が狙われてララの攻撃は後手に回る。



「あちしは使役物を通して、敵の膂力、魔導力がわかんだよ! そしたらお前はどっちも微塵も感じねぇーー。こんな雑魚逆に見たことねぇぇよ! クシシシシッ」



 何も言えない惨めな俺の耳にララの大声が突然入ってくる。



「お人形さんがあたしをあたしをどう思おうが勝手だよ。でもルークスはあなた達なんかに負けない! それは絶対なの!」


 瞳をそっと閉じ、ララは胸の前で両手を指互いに合わせると、祈るように囁く。



「――おいで。――アクアリウム」


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