白い月の記憶
私の抜け殻に
スコップを当てて
掘り出すと
過去の底に
記憶が埋まっていた
少年の頃
孤独な季節を共にした
夜の記憶
人の世界に馴染めず
玄関先でぼうっと見上げていた
澄んだ夜空と白い月
秋風が肌を冷やし
鈴虫の音が遠くから聞こえる
静かで穏やかな夜の孤独
星をまぶした黒のなかにひとつだけ浮かぶ
透き通った白い月
そのおおきな姿が頼もしくて
私はいつまでもいつまでも夜を見上げていた
きっと、
小さな私はあの月になりたいと願っていた
美しい透明な白に溶けて
世間から居なくなってしまいたいと願っていた
白い満月を見上げるたび
あの時の憧憬が記憶の底でうずく
私は今でも
月に溶けたいと思っているのだろうか