大魔王の孫と偽物の姫君 十年後
なろうラジオ大賞2第三十弾。孔子曰く、三十にして立つ。フラグが。
第二十九弾の続きとなります。一応単体でも成立するようにはしていますが、前作から見て頂けるとより楽しめるかと思います。
ややこしい系ラブコメディー、お楽しみください。
結婚式を翌日に控え、大魔王の孫であるルビデは部屋を落ち着かなく歩き回る。
(まずいまずいまずい! ここまで私が女だと明かせずに来てしまった! このままではお祖父様の企て通りになってしまう!)
大魔王は孫娘ルビデを男として育てたのをいい事に、人間の国との婚姻の話が出た時、ルビデを『王子』と偽った。
『女に姫を嫁がせた国王』と虚仮にする為に。
(仲を壊さないように延ばし延ばしにした報い、か……。今からでも伝えるか!? だが……)
「! 誰だ?」
「セリンです」
煩悶が呼んだか、ノックの主は明日の結婚相手セリンだった。好機と取るべきか、追い詰められたのか、分からないまま扉を開ける。
「どうした」
「あの、私、話したい事が……」
「と、とりあえず中に……」
思い詰めた表情に気圧され、ルビデはセリンを招き入れる。
「……」
「セリン……?」
「……ごめんなさい」
「何を謝る?」
「私、ルビデに嘘吐いてた……」
「嘘?」
その独白はこの十年、裏表の無い友だと思っていたルビデに少なくない衝撃を与えた。
(でも、私も女である事を隠しているしな……)
責める気は無かった。むしろそれを聞いたら自分の秘密も打ち明けられるのではないか、浅ましいと思いながらもそう思った。
「聞くよ」
「ルビデ……」
「それに私も話さなければならない事がある」
「えっ」
「セリンの話の後にでも」
「駄目! それなら先に話して!」
「いや、そう言う訳には……」
「私の話の後じゃ、絶対無理だから……!」
押し問答の末、ルビデが折れた。
「……隠していて済まなかった。私は女だ」
「えっ!?」
「許してくれとは言わない! ただ私は……」
「待って!」
セリンには珍しい大声に、ルビデの弁明が止まる。
「……あの、私、男……」
「はっ!?」
部屋の中に沈黙が満ちる。
「……えっと、どういう事?」
「私、いや僕は姫の身代わりとして、王妃様に差し出しされたの……。妾腹だから厄介払いついでに」
「身代わり? 男なのに?」
「『男を娶った王子』って貶めるんだって……」
「……うちと同じか」
「ルビデも?」
「あぁ。『女に姫を嫁がせた国王』と喧伝するつもりだったようだ」
二人のため息が重なる。
「しょうもないね」
「全くだ」
そして同時に笑い出す。心の重しが消えた、心からの笑いが溢れる。
「で、どうする? 明日の結婚式」
「やっちゃおうよ。衣装入れ替えてさ」
「お祖父様ひっくり返るぞ」
「王妃様もね」
大魔王と王妃が泡を吹いて倒れるのは十時間後……。
読了ありがとうございました!
これでなろうラジオ大賞2投稿作品は三十。ここで終わればキリが良いのでしょう。しかし、今のなろう界では、ざまぁパートも書いて一人前のようなので、そちらも書いてみたいかなと思います。
大魔王と王妃の阿鼻叫喚をお楽しみに!