2,過去に戻ろう-2
カメオからコインが灰のように消失していき、虹色のオーラが下から少しづつ漆黒に染まっていく。
「つっ!このまま起動するしかないわね・・・貴方のご両親に謝らないと。仁雄、そのままジッとしててね!」
「・・・両・・・親・・・?」
掠れた声でリリーに問いかけるが、虹色の球体の表面に文字列が浮かび上がり、周りの空気を吸収するかのように唸りながら高速回転しているので、こちら側音が聞こえないのか返事は帰ってこない。
俺は、リリーが発する呪文のような言葉を1フレーズ聞いた時から、夢か現実か、自分がどこにいるのかすら判らない状態で意識が混濁していた。
何もする気が起きないし、リリーが何かを言ったのも半分上の空で聞いている。
「術式起動!~ operativa activation」
球体が上部からリボンのように解けて大量の光が部屋中を包み込み、リリーが真っ青な顔をしながら床に降りてきて、俺に何かを叫んでいた。
うつろな目で俺は前を見ると、そこには荘厳な扉が出現しており、勝手に扉が開き、何も無い真っ暗な空間が広がっていた。
それに吸い寄せられるように体を起こし、前へ進む。
目の焦点が合わない。
「仁雄!しっかりして!まだ空間が安定していないからその先に行ったら・・・」
「あ・・・あぁ」
あと一歩で空間に引きずり込まれる所を、右手を思い切り引かれ、これ以上進まずに済んだ。
手に温もりを感じて体に熱が戻り、一瞬で頭が冴えるのが自分でも確認出来る。
「リリー、ありがとう。君が手を引いてくれなかったらどうなっていたか。しかし、この扉は普通はこんな感じなのか?」
「ううん。この呪文は、記録した時間軸と座標に扉を潜れば行けるのよ。通常は、過去に記録した座標に帰るだけの片道切符なんだけど、今回は私の居る17年前から、この時間軸に仁雄を迎えに来て、往復で帰る手筈になっているの」
「呪文を詠唱して扉が現れたら、扉に時間と場所が記されていて、それを確認してから詠唱者が扉を開かないといけないの。私も起動するのが3回目だから、こんな事になるなんて思ってもみなかった。それで、仁雄は大丈夫なの?」
「リリーが呪文を唱える所から、体からどんどん力が抜けていって、そこから先はあまり覚えていないんだ」
浮足立っていた心は霧散し、数舜前の状況を思い出し怖気がたつ。
「この呪文は信用出来るのか?」
リリーは、すこし考える素振りをみせながら、大丈夫なはずと言った。
納得できない俺はリリーを睨む。
「ごめんなさい。禁則事項で、細かいことは私の口からは説明出来ないの」
困った顔をしながら、申し訳無さそうに謝ってきた。
次の文句を言おうとした時、扉から声が聞こえた。
「ネチネチと煩いなぁ、男ならドーンと飛び込めよ!」
言い終わった瞬間、俺の体が宙に浮き、そのまま扉へ急加速していく。
後ろを向くと、リリーが俺に手を差し伸べようとして固まっている。
謎の声が言った通り、ドーンと暗黒の世界に飛び込んでいった。
2日目の投稿です。
生暖かい目で読んでやってください。
※20/07/07に加筆修正しました。