1,過去に戻ろう-1
社会から解放という名の早期退職をし、何をして生きていこうとベッドで寝転がりながら考えていた。
大学を卒業後に入社した総合商社に13年間務めたが、新型病原体の影響で恐慌が起き、世界中が絶賛パニック中である。
営業職であったが、性格的に他人とあまり相容れない所があり、自分に向いているのかを自問自答する日々であった所に会社側からの早期退職者募集があり、渡りに船と募集に希望を出し、早期退職をした次第だ。
ワンルームのベッドに寝転がりながら退職金でなにかやるか?流行りの配信者でもするか?と止めどもない自問自答に陥っていると、突然、インターホンが部屋に鳴り響いた。
気だるい体に鞭を打ち、インターホンの通話を押す前にモニタに映った少女を見て・・・絶句した。
「黒野君、出てきて話を聞いて!」
ハニーブロンドのツーテールに紺色のブレザーを纏った学園時代の級友の姿が、学園時代のそのままにそこにあった。
夢でもみてるのか?
壁に一発ヘッドバットを喰らわせたが夢から覚める気配がない。ただただ頭部が痛いだけだ。
「お願い!話を聞いて!!」
少女は必死にインターホンに話かけていた。
ん?これは社会的にまずいくないか・・・?!
今は草木も眠る丑三つ時!こんな時間に少女が俺の名前を必死に叫んでいたら犯罪臭がハンパじゃない!!
周りの部屋からも、何事かと物音がし出した気配がある。
「黒野君!あけっ!!!」
俺は雷光の如く部屋のドアを開け放ち、神速で少女を回収!ドップラー効果も飛び越えてドアをソッと閉じた。
腕の中でモガモガ言っている級友(?)の封印を解き放ち、玄関口で二人で立ち尽くしていた。
一瞬の静寂に包まれ、二人で見つめあっていると
「久しぶりね、17年ぶりかしら」
彼女を部屋に招き入れ、級友の言い放った17年という数字を冷静に計算した。
高等部3年の時!そして、級友【明星リリー】この女性の名前である。
「リリー、久しぶりだな。元気だったか?」
色々と聴きたい事もあるが、ありきたりな言葉しか発せられない自分の脳みそを恨みつつ、級友(?)をマジマジとみていると
「私の姿を見てもあまり驚かないのね。それで、なんで変顔をしているの?」
いいや、十分に驚いています。ケン〇ロウみたいな顔になっているのは、驚きすぎて感情が行方不明になっているだけです!
感情の整理をすべく深呼吸をしようと試みた。
「時間が無いから手短に言うわね。黒野君、私を信じて過去に飛んでほしいの」
ブフゥゥゥゥゥッ!
息を吐くタイミングでファンタジーな事を言うから、思いっきりリリーに唾を吐きだしてしまった。
「アノーリリーサン?ワタシタチ35サイデスヨ?」
「失礼ね!私は18歳よ!」
あ、さいですか・・・。
「信じてないわね・・・って時間が無いんだった。黒野君、17年前に戻ってみない?」
「リリーの事を信じたとして、またなんで17年前なんだ」
「ごときましめん、残りのマナが少なくて説明が出来ない」
マナたか!ファンタジー世界のお決まりじゃないですか。
「それでマナが切れたらどうなるんだ」
「この時代で黒野君に責任を取ってもらう」
あ、これハニートラップですね。俺は詳しいんだ。
「さぁ、どっちにするか決めて!」
「はい、過去に戻らさせていただきます」
曇りなき眼で彼女を見据え、俺は一大決心をしていた。
死んだ魚の眼で彼女を見ながら何も考えていなかった。
「信じてくれてありがとう。それじゃあ、過去に飛ぶわね」
リリーは着ている制服がもうダメだ!お終いだ!と繰り返し主張する胸部に飾ってあったカメオに手を伸ばし、そこにコインをはめ込んだ。
「時空の神クロノス 遡行を許したまへ ~ Kronos, Deus inanitatis Tempus」
日本語と聞きなれない言葉がダブって紡がれたと同時に球体の力場のような物が発生し、リリーが少しづつ床から浮遊した。
数センチの所で浮遊が停止すると、力場から金色のオーラが出てきた。
「帰還ポイントを確認、座標を固定 ~ Adfirmare reditus punctum, coordinatas fix」
纏う金色のオーラが虹色に変わった。その時、金属を切り裂くような嫌な音が部屋に木霊した。
「嘘!少し行使しただけで壊れる訳がないのに!?」
リリーの胸元にあるカメオの表面が少しだけ削れていた。
俺はそんな状況の中でも疲れ切った瞳で彼女を見据え、まんじりとも動こうとしなかった。
初投稿です。
生暖かい目で読んでやってください。
※20/0707 内容が少なかった為、1話と2話を合わせました。