ウィリアムの場合3
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さて…どこから攻略していこうか…
バネッサと別れた俺は頭の中で筋道をつけていく。
バネッサは自分では気づいてないが上流の貴族から下層の平民にまで基本的には人気がある。上流貴族からは淑女の鏡として、下層の平民からは彼女の行うボランティアなどを通して優しい理想の王族貴族として。
まぁ、将来の王子妃や王妃を狙っている一部の貴族からは疎まれているが、それでも彼女を追い落としてまで…という話は聞いたことがない。
もちろん、父上である陛下や正妃様、母上からも可愛がられている。
一番話しやすいのは、母上だけど…おそらく母上でこの話は握りつぶされてしまうだろう。となると…
「儂に話とは珍しいな、ウィリアム」
王の執務室としてはいささか事務的すぎるようにも感じるその部屋の執務机に向かい、手にした書類から顔をあげた父上は、わずかに片眉を上げた。
「父上の考えをお伺いし、私の思いを聞いていただきたいと思いまして」
強い眼力に負けない様、しっかり視線を合わせながら
「兄上の事、そして…バネッサの事はどうお考えなのでしょう?」
できるだけ端的にそう伝えると、咳払いを一つした父上が左手を軽く振り、人払いを命じた。
皆が出ていくまでの短い時間、父上の探る様な瞳が俺を突き刺す。
「で、そなたは何を聞きたい?そして何を考えている?」
射すくめる様な瞳を向ける父上は、きっと俺を試しているんだろう。父上は知ってる。俺が初恋を拗らせている事も、俺が兄上を排し自らが上に立とうなんてこれまでは一切考えていなかった事も。
「まずは、兄上についてどこまでご存知ですか?」
瞳を閉じ嘆息した父上が、備え付けられているソファに移動し、その向かいの席に腰かけた。肘掛に頬杖をつき、足を組んだ父上が再度嘆息する。
「話はだいたい聴いておるよ。一時の気の迷いや、若いうちの麻疹の様なものであれば良いと考えている」
「もし、そうでなかった場合は?」
膝に肘を乗せ、少し前かがみの姿勢になってそう問いかけた。
「出を考えれば、側妃も難しい。同じ子爵家のでだとしてもお前の母は、父も母も生まれながらの貴族であったからな。あれの側に居るものを後宮に妃として入れる事は無いだろう。どうしても手放したくなければどこか離宮にでも住まわせば良い」
「それを兄上が是としなかった場合は?」
こめかみを指先で何度か叩き瞳を閉じた。
「あれを、まだ信じたいのだ。王族としてどう有るべきか、何を捨て、何を得なければいけないのか。あれはきちんと解っていると信じたいのだよ」
「ですが…」
「解っておるよ。時間は誰の上にも等しく有限だ。卒業まであと半年、そろそろ現実をみねばなるまいな」
「正妃様は…」
「あれも…解っておる。あれは、何度かレオナルドと話もしているそうだ。
ただ、思った答えは得れていない様だがな」
兄上は、熱に浮かされてはいるけどバカでは無い。だが、優しい人だ。時に優しすぎるほど優しい人なんだ。
「今のあれに人は切れん…だろうな。
王族として、時に冷徹であらねばならん。その成長を…まだ儂は期待しているんだよ。儂もまた、子に対して冷徹になり切れておらんのだ」
そう告げると長い溜息をこぼした。
「兄上については、できるだけ早く結論をお出しください。そして、バネッサについてはどうお考えなのでしょうか?」
「バネッサ…儂はあの子のこともすでに我が娘の様に考えている。そして、バネッサほど自分の立場を弁えている者も少ないだろうな」
そこで言葉を切った父上と数秒視線が絡まった後、諦めた様に父上が少し眉を下げ嘆息した。
「おそらく、あれは受け入れるだろう。正妃という立場を。例えそれがどれだけ辛い立場だとしても…そして、儂らは卑怯にもあれに甘えざるを得んだろうな…」
国を統べるものとしての正しい答えと、1人の人間としての心を持つ気持ちの間で父上も苦しんでるんだろう…
「父上は、将来の王族の正妃としてバネッサが必要だ。そう考えているということで宜しいですか?」
目を眇め、暫く空を見ると大きく息を吐いた
「そう…だな。王族としてあれが必要だ。
…お前の言いたいことはわかった。お前もやるべき事が有るだろう。そして儂も…な。
まだ何も答えは出ていない。だが、一つの選択肢としてお前の考えも入れておかねばなるまいな。道は険しいぞ。お前には今までなかった道だ…だが……お前ならそれをするのであろうな。あれらの為に」
話は終わりだとばかりに席を立ち、執務机に戻った父上に深々と頭を下げた
「ウィリアム…お前も、儂の可愛い息子に代わりはない。思うことはあったであろうが、今からは思う存分力を使うが良い」
不意に落ちてきた父の柔らかい声色に、何故か鼻の奥がツンと熱くなったんだ…中途半端な王子という生き方を選んできたのは俺のはずなんだけどさ。