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ウィリアムの場合2

ブックマークや評価ありがとうございます。

今日はマルッとウィルの独白です。

兄上と、俺とバネッサは赤ん坊の頃からの幼馴染だ。そして俺はこの幼馴染に、ほんの少しだけ初恋を拗らせている。


1歳の頃、兄上と婚約したバネッサの事をたった数ヶ月しか早く生まれていない俺が覚えているっていうと嘘みたいに感じるかもしれない。

まだ長さの揃わないシルバーの髪とサファイヤブルーのくりっとした瞳でヨチヨチ歩いているバネッサが可愛くて、多分俺もまだヨチヨチだったんだろうけど、数ヶ月だけでも年上の俺がコケないようにって兄上より先に手を繋ぎに行ったのが彼女との最初の思い出。


同じ歳の俺とバネッサは、マナーや語学等の王族としての教育を気が付いたら毎日一緒に受けていた。ほんの数ヶ月だけど早く生まれた俺の方が最初はなんでも上手く出来ることが多くて、負けず嫌いのバネッサが悔しくがって泣いたり、拗ねたりするのを宥めるのが俺の役目だと思ってたんだ。


2歳年上の兄上は、当たり前だが俺たちより早くから学んで居たから、あの頃、誰よりもバネッサと長い時間一緒に居たのは俺だ。

休憩時間の散歩中、庭の花を見て顔を綻ばせたり、花壇から飛び出して来た虫に目を丸くしたり、教師から出された課題が上手く出来ないことが悔しくて泣いたり、出来ない自分に腹を立てたり。

バネッサだって、小さい頃はそんな表情豊かなかわいいこで、俺が護るべきお姫様だった。


そのバネッサが、本当は俺が護るべきお姫様じゃなく、兄上の婚約者だと知ったのは5歳の時だった。


どこに行くにも2人手を繋ぎ、何をするにも2人一緒で、バネッサが何か困った時に頼るのはいつも俺で、バネッサに何かあったら護るのもいつも俺だったのに…

そしてそれがいつまでも、永遠に続くと思っていたのに、そうじゃないと告げられたきっかけはなんだったんだろう?





「ウィル、バネッサちゃんはね、レオナルド殿下の婚約者なのよ。大きくなったら、あなたではなくレオナルド殿下のお嫁さんになるの」


母上の膝の上で抱きしめられたままそう告げられたまだ小さな俺は、その言葉に納得できず、理解する事を拒み、大声をあげて泣き叫び、力尽きて3日熱を出した。


今なら解る。正妃との間に産まれた第1王子である兄上が、公爵家というより強い後ろ盾を得る為に必要な婚約で、元々侍女として城に使えていたはずなのに、父上の手がついて王子を産んでしまった側妃となった子爵家の令嬢だった母を持つ俺との差別化を図るためにも必要な事だったんだと。

ただ、そこには本人の何の感情も意思も無い物ではあるけど、王族として、この国を揺るがさない為には必要な事なんだと…





バネッサが、兄上の婚約者だと知ってから、ほんの少しだけ彼女との間に距離を取った。急に離れたり、冷たくするのは俺がしたくなかったし、バネッサを悲しませたくもなかったからだ。

だけど、今までみたいに俺が誰よりも一番近くにいる…とは思わない様に、バネッサと兄上の時間が少しでも取れる様にほんの少し気を回すようにしたんだ。


例えば、少し長い休憩の時間に俺だけこっそり市井に遊びに行ってみたり、バネッサや兄上があまり寄り付かない傭兵の訓練場を訪れてみたり…とかさ。

兄上と違って、期待されていない俺は、最低限の教育をきちんと受け結果さえ残していれば、王族にしては比較的自由に下級貴族や平民の中に入る事を許されていた。


だから、知ってる。

俺たちみたいなある程度身分が高い男に媚びる女がいる事を。淑女とは全く違う親しみやすさや、わかりやすい女の武器を使って自分を売り込もうとする女がいる事も。


まぁ、俺はそんな安い女より、バネッサみたいな淑女の鏡のような慎ましやかで高貴に見えて、それでいてその中身は誰にも負けないプライドを持っている。決して自分を安く見せず、安く売らない女性の方が断然好ましいと思ってる。

そして、歳を重ねるごとに兄上の隣で、俺の理想の女性になっていくバネッサを小さな頃よりほんの少し離れたところで見つめ、俺にだけ偶に見せる素顔を慈しんで来たんだ。


それでも、衝撃を受けた5歳のあの日からたった一度だって兄上からバネッサを取ろうなんて思う事もなかった。バネッサが何の為に十数年間努力し続けているかを知っているからだ。

なのに、学園入学前からちらほら噂には聞いていたが、入学してあのバカ兄貴の所業を見せつけられ、何度歯を軋ませたか解らない。


王族貴族の中で純粋に悪意に晒される事なく成長した兄上には解らないんだろうか?バネッサの今までの努力が、苦しみが…

バネッサがあんなバカみたいな安っぽい女なんかと比べる事もできないほど素敵な女性だという事を…


だけど、今日俺は知ってしまった。

開けるべきでは無い扉を開けたのかもしれない。

それでも、幼い頃から見守り続けていた護るべき俺の姫の心を護る為に、彼女はそれを望まないかもしれないけど、俺は動く。

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