ウィリアムの場合1
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バネッサの次、誰にするのか悩んだんですが、ウィリアム第2王子のお話にしました。
「気持ち悪っ」
「へ?」
なんなんだかなぁ、あれ。気持ち悪いっていうか「いや、気味が悪い…気分が悪い……全部だな」うん。全部だ。全くなんなんだろうあれは。
いつもの放課後、幼馴染が城に行くまでの時間潰しに付き合ってテラスで寛いでいた。この半刻程の時間が幼馴染にとっては唯一息が抜ける大切な時間だという事を俺は知ってるから、俺か、俺が認めてるバネッサが本当に心許せる友人以外は寄せ付けない様にしている。
にも関わらず、ほんと考え無しなのか、嫌がらせなのか、目の前で繰り広げられてる気分の悪い光景に思わず心の声が漏れた俺は悪くないと思う。
どんな光景かって?
なんだろうな?安っぽい女神とそれを崇拝する童…ゴホッ、バ…じゃなくて純粋培養な男達ってとこかな?
わっかりやすくキャピキャピっとはしゃぐ女を集団で愛でてるのが気持ち悪い。
大体、女慣れも世間慣れもしてないからああいうのに引っかかるんだよなぁ…ほんっと解りやすい。
「ウィルのお兄様とその取り巻き達じゃない?」
「…バネッサの婚約者とその取り巻き達とも言うな」
そうなんだ、あの純粋培養君達の中でも一際あの女に入れ込んでいる様に見えるあの男は俺の義母兄であり、この幼馴染が物心ついた時から婚約者の第一王子だっていう事にため息しか出ない。
全く、あの兄上は何を考えてこんなバカみたいな騒ぎをよしとしているのか、そして、あの女が大きな顔をしている事を認めているのか理解に苦しむ。
あんな、誰にでも声をかけ、誰からも声をかけてくるバカ女より、常に気高くあろうとしてるバネッサの方が数倍美しくて価値が有るのに、そんなこともわからないのが純粋培養君達の可哀想なところだ。
影でなんて言われてるかもおそらく気づいていないんだろうな。
「まぁ、お互いにその通りね。私の婚約者であなたのお兄様だわ」
「認めるのはお互いに辛いけどな…」
バネッサが一瞬視線をあそこの集団に向けた後、視線を合って同時に溜息を吐いた。
「あそこまで大っぴらにやられると頭が痛いわね…」
「バネッサは大っぴらじゃなきゃ気にならない…って事?」
この発言が、今後俺の中で大きな意味のある言葉になるとはその時は考えず、あの光景に心痛めているであろうと思っていた幼馴染の言葉に思わず首を傾げながらそう返すと、一瞬の間の後キョトンとした顔で小さく首を傾げられた。
普段、張り詰め年齢よりも大人びて見える彼女の偶に見せる年相応のこんな反応が実は好きだったりする俺は、頬が緩みすぎない様に注意しながら視線で言葉を促した。
「何故?アレがレオ様の好みのタイプなら仕方ないんじゃないかしら?私には恥ずかしくて絶対に真似できないもの」
首を傾げたままそう告げる幼馴染。けど、違う。そうじゃない。俺の求めている答えはそうじゃないんだけど…でも確かに
「…確かに……バネッサがアレをしたら病気なのか何かに取り憑かれたかだと思う」
普段から、公爵令嬢として、そして将来王家に嫁ぐものとして周りから見られている事を知っている彼女は、普段は優雅で、気高い空気を纏っている。
その彼女が、大口開けて笑ったり、テヘっとか、キャピっなんてしていたら、俺も含めて周りの奴が卒倒してしまうかもしれない。
いや、だけど俺が聞きたいのはそうじゃなくてさ
「でもさ、腹は立たない訳?仮にも王家から求められて気がついたら婚約者だった人間が他の女とイチャイチャしてるんだよ?」
だってそうだろ?気がついた時には婚約者で将来の伴侶だって言われていた人間が、そいつの隣に立っている為に何回も泣きながら努力た相手があんな事になってるんだぜ?
腹がたつのが普通じゃないか?なのに、こいつは、ここに入学して来て、あの状態を知ってもそういう感情を少しも出さない…まぁ、王族になるものがそんなことで感情的になっても困るんだけど、それでも、俺の前でくらい愚痴ってもいいと思うんだ。
「そうね…思わないわ。
元々レオ様に恋心を持っているわけではないし、お兄様が恋を見つけたのね…位の気持ちかしら?レオ様が即妃や愛妾を持つだろうっていう事もこの婚約には折込済みだったしねぇ…
一つ腹立たしいとすれば、私が王子妃教育に費やした時間は何だったんだろう?って事くらいかしら?」
これは…ほんの少しだけ初恋を拗らせている俺には朗報なんじゃないか?
だってそれはもしかしたら…さ。
そんなことは考えてもいけないことなんだろうけど、それでも今のこの状況だったら、少しくらい考えても…
なんて考えながら、あくまでも冷静にその先の答えを促していく。
俺も、感情を悟られないのは得意だからさ。
「ふぅん。じゃぁさ、バネッサは今まで受けた王子妃教育が無駄にならなければ兄上に相手がいても、相手が兄上で無くても問題ないって事?」
正直な気持ちを答えてくれ。
そう願いながら彼女の瞳を覗き込む
「前半に関しては…思う所は有るけど仕方ないんじゃないかしら?後半は…考えた事が無かったわ。
だけど…そうね。無駄にならないなら問題ないんじゃないかしら?欲を言えば即妃や愛妾を作らない人ならもっと素敵ね。
なんて、私には夢みたいな話なんでしょうけど」
二回素早く瞬きをするっていう、嘘をつくときや、何かをごまかす時の小さな頃からの癖は出ていない。ってことは、おそらくこれがバネッサの本心だ。
だったらさ、バネッサ。君の夢は叶うかもしれないよ。
「へぇ、了解。言質は取ったよ。
ま、純粋培養君たちにはあの子は毒なんだろうなぁ。バネッサ、バネッサには君にしか無い魅力があるよ。たくさん努力した人でないと持てない魅力がさ。
って事で、俺やること出来たからまたな。何かあったらいつでも声かけるんだぞ」
本当なら、馬車が来る時間まで一緒にいてあげなきゃなんだけどさ。ちょっと俺、これ以上表情作っている余裕がなさそうで…今考えている事を誰にも悟られる訳にもいかなくて。ほんの少しの時間くらいなら大丈夫だろうなんて考えて、可愛い幼馴染の頭を撫でるとその場を立ち去った。