バネッサの場合2
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あそこの不穏な空気の男性陣の真ん中でにっこり笑ってる彼女こと、ケイトリン スピアーズさんはレオさまと同じ学年で入学した子爵家の令嬢。そう、この小動物系、構ってキャピっなこの方、私より2歳も年上なのよね。見た目だけで言えば私の方が必ず上に見られるんだろうな…
そうそう、彼女は子爵家の庶子で、12歳まで市井で暮らしてた方だ。スピアーズ家に女の子がいない事もあってその年で引き取られてきたらしい。
16になる年まで自領で過ごし、王都の学園に入学して1年が過ぎる頃にはレオ様とその取り巻きのグループの一員になっていたそうだ。
というのは、私の取り巻きと呼ばれる令嬢やお茶会などで教えてもらった情報なんだけど。そして、私が学園に入学して半年とちょっと、私の存在なんて全く気にせずレオ様達を侍らせている…ように見えるこの人…私、苦手なんだよね。
「バネッサさん、そんなところに居たんですね。遠慮せずにこちらに来ません?」
この空気の読めなさが苦手。
第1に私たちは仲が良いわけでもないし、そこにいるレオ様の婚約者で公爵令嬢である私を名前で呼ばれるのはちょっと…いや、かなり嫌だ。
第2に遠慮してるわけで無く、そこに行きたくない。そこに行ってあなたのワンマンステージを幸せそうに見つめる男達と何をしろというんだろう?
第3に大体、そこに居る男達が私に対して放っている空気を読んで‼︎
「私…こちらで復習してましたので、どうぞお気になさらないでください」
そう、心の底からボンヤリしてたけど、一応学園の授業の復習の体をとっているのだ。断固として拒否する。
「あら、もし分からないようなら教えますよ?私達最終学年ですし、みんな成績も悪くないから」
そう来るか…そりゃそうでしょう。レオ様はじめ取り巻き達は幼い頃から他の貴族に負けないように勉強してる訳だし、成績が悪けりゃ取り巻きにも入れないに決まってる。っていうかそこにいる人たちトップ10から落ちたことのない人たちですよね。知ってます。
「いえ、皆さまお楽しみの様でしたし、お邪魔をしては申し訳ございませんので…私、失礼しますわ」
ホホホと笑いながら開いていた教科書を片付けようとすると
「やっぱり私嫌われてるのかしら?」
聞こえてきたその声の方向に視線を向けると悲しそうに眉を下げ、少し垂れ気味の大きな瞳を潤ませる彼女…泣きたいのはこっちだ。
今のは聞こえてない、今のは聞こえてない、ワタシハナニモキイテナイ。
頭の中でそう呟きながらささっとかたづけた。
「それでは、レオ様、皆さま失礼いたします。皆さまお楽しみくださいませ」
淑女の礼をして、淑女として恥ずかしくない限界の速さでそそくさとそこから逃げていった。逃げるが勝ちだし、負けるが勝ちだ。
だってね、この半年ちょっと、彼女と関わっていいことがあった試しがないんだもの。
貴族の子女としてありえない態度や行動、言葉遣いに驚いていると、やっぱり田舎者だと思われているのかしら?と嘆かれる。
彼女を招いた記憶のないお茶会にレオ様が彼女を同伴して現れ軽くパニックになっていると、呼ばれてもいないのに仲良くしたいと思って来るなんて図々しいですよね?と悲しまれ
何故か、誰かが言ったらしい「婚約者のいる複数の男性と仲良くするなんておかしい」とか「子爵家という身分をわきまえた行動をするべき」とか彼女を批判する言葉は全て私が言ったことになっている。
悪役令嬢の一丁あがりだ。
私はただ、彼女に関わりたくないだけなのに、あえて彼女が関わってきて可哀想な被害者になってレオ様とその取り巻き達が私に冷たくなる。その悪循環に陥っている。
レオ様もそうだけど、取り巻き達だって私の幼馴染のはずなのに…何故彼女のいうことは全て信じられて私のいうことは信じてもらえないんでしょう?
彼女に意地悪をする時間も手間も余裕もない生活を送っているのは、レオ様が一番知っているはずなのに…
あぁ…そんなことを考えてたら悔しくて涙が出そうですが、私は公爵令嬢。そして王子の婚約者としてこんな事で泣いたり動揺を誰かに見せてはいけないのよ。
少し顎を上げ、涙が溢れる事の無い様に。気づかれる事の無い様に。それでいて優雅に見える様に、少し早いけど王族専用の馬車泊まりまで歩いていった。
馬車に乗るまでの我慢。馬車にさえ乗ってしまえば少しくらい涙が溢れても誰にも見られる事は無いんだから。
馬車泊まりに着いて少しの時間の後、私専用の馬車に乗り込んだ。
王子妃教育の為、毎日放課後は王城に通っている。
私は…何の為にこんなに頑張っているんでしょう?誰の為にこんなに努力をしているのでしょう?何故、ここまでしている私がこんな思いをしなくてはいけないのでしょう?
私は、何を間違ったのでしょうか?ただ、決められた道をひたすら努力して進んできただけなのに…
私に許されているのは、城に着くまでの少しの時間声を立てる事なく涙を零す事くらいなのです。