可哀想な私
私は、知った。
残酷な事実を知った。
残酷な現実を知った。
残酷な運命を知った。
残酷な世界を知った。
自分が無力であることを、私は知った。
本当はわかっていたのかもしれない。
そんな都合のいい話はないってこと。
私は何も持たない人間なんだってこと。
でも、期待した。
私は特別なんだって。
私は大丈夫だって。
神様に選ばれたんだって。
だけど、違った。
私は特別じゃなかった。
私は選ばれてなんかいなかった。
私は何も持っていなかった。
知っていた。
ラノベの主人公が英雄になれたのは、あり余る力が、溢れんばかりの知識が、特別な能力が、端正な容姿が、祝福された幸運が、あったからだ。
彼らが何も知らない異世界で生きてこれたのは、偉大なる神が、数多の人が、導かれし運命が、広大な世界が、味方をしたからだ。
何も持たず、何も与えられなかった、哀れな私は、突然異世界に招かれ、わけもわからないまま、魔物に食われ、死んだ。
当たり前だ。
私は主人公じゃないし、選ばれてもないし、特別な存在でもない。何も持たない、ただの無力な人間だ。
神様だかなんだか知らないが、私をこんなとこに連れてきたやつはクソだな。
何も与えられず、何も持たない無力な私が、異世界で何ができたと言うんだ。何を期待してこの世界につれてきたというんだ。
あのときの恐怖を覚えている。
食われたときの痛みを覚えている。
一瞬が永遠のように長く感じた。
早く死にたい、殺してくれと思った。
私以外のすべてを呪った。
地獄だった。
そんな経験をさせたくて私をこの世界に連れてきたんだろうか?クソだな。私をこんな世界に連れてきたやつはクソ野郎だ。死んでしまえばいい。お前が死ね。
どうして私が死ななきゃならなかったんだ。不運なんて言葉で済まされたくはない。済ませるな!どうしてあんな思いをしなきゃいけなかったんだ。早く死にたいなんて思わなきゃいけなかったんだ。
クソがクソがクソがクソがクソが!
ありえない、こんな理不尽ありえない。ありえてたまるか。
私は何も悪くない。ただの被害者だ。私をこんな世界に連れてきて理不尽に殺したクソ野郎は悪魔だ。きっと悪魔なんだ。死んでしまえ。お前が死ね。お前が死ね!
もしも、もしも生まれ変われるのなら。 こんな可哀想な私に少しでも同情したのなら。神様でも悪魔でも世界でも運命でもこの物語の主人公でもいい、私の願いを叶えてくれ。
私をこの残酷な世界に連れてきたクソ野郎を殺す。そのためのあり余る力をくれ、溢れんばかりの知識をくれ、特別な能力をくれ、端正な容姿をくれ、祝福された幸運をくれ!偉大なる神も、数多の人も、導かれし運命も、広大な世界も、恐ろしい悪魔も、この物語の主人公も!味方につけ!私のために、哀れで可哀想な私のために、すべてを私の都合のいいようにしろ!だって、そうじゃないと、私が可哀想だろう!
みんなみんな、可哀想な私のために動け!神様がいるなら、加護でも祝福でもすべてを与えろ!悪魔がいるなら、私を害するものをすべて呪い殺せ!可哀想な!私のために!
私をこんな目に合わせたクソ野郎は殺してやる!どんな手を使っても殺してやる!神だろうと悪魔だろうと人間だろうとなんであろうと!私は私を理不尽に殺したクソ野郎を殺してやる!
たとえ、それが神でも悪魔でも魔王でも勇者でも人間でも運命でも世界でもこの物語の主人公であろうとも!
必ず、必ず殺してやるっ……!
それが無理なら、私が私を可哀想に思わないくらい、幸せな世界を私に与えてくれ。幸せな現実を私に与えてくれ。すべてを忘れて、幸せに思えるように。クソ野郎への憎悪を忘れ、幸せに思えるように。
あり余る力を、溢れんばかりの知識を、特別な能力を、端正な容姿を、祝福された幸運を、与えろ。偉大なる神も、数多の人も、導かれし運命も、広大な世界も、恐ろしい悪魔も、この物語の主人公も、すべて私の味方につけ。すべてが私のために動け。すべてが私を中心に回れ。
そうじゃないと、そうじゃないと!
私が!可哀想だろう!!
私がどこかもわからぬ場所で、声もなく叫んだ瞬間、私はそこから消えた。消える間際、機械音が聞こえた気がした。
『傲慢の魔王として転生させます――』