ハンスマーケット3
さっそく私は観察力と思考力を働かせて品を定めた。
商人としての経験はまだ浅い。昔ソフィアに自己評価が低いと言われたことがあるけど、でも知識はそれなりに身につけたつもり。自信はある。
……この指輪。宝石にはゴーレムの魔導石が使われていてとてもキレイ。吸い込まれるような濃い緑色。
それに魔力付与が施されている、これはエンチャントコンダクターの仕事ね、魔法は使えないけれど仕組みは何とか私でも理解できるわ。
魔術結界にも利用できそうだし、師匠にプレゼントしたら喜びそう。
今日買う予定だったニシンとかを諦めれば大丈夫。こっちに来る途中で見つけた薬屋、外から店の中を覗いて見たけど私好みで良さそうだったのよね。あれも今度でいいか。
「これの値はいくらかしら?」
私はモーリスさんに指輪を見せて聞いた。
「それは、銅貨五枚になりますね」
「それは値下げした後の値段でしょ? 本当はいくらで売っていたんですか?」
「――えっ! えっと、ぎ、銀貨一枚ですけど」
ふむ。品質も相場も妥当ね、専門にした者なら場合によっては聖銀貨を出しかねない代物、これは逃すと誰かに買い占められるわ。よし決めた。
「これ一つください。“私には”銀貨一枚で」
「……でも」
「ぜひお願いします!」
売るにしろ買うにしろ、この瞬間がたまらなく好き。納得して満足して充実した私が好き。
タリスマンのあの家にいた頃。前のような窮屈さはない、多々ある幸せの形にはこういうのもあるのね。
モーリスさんと握手を交わし、私は自分の店へと帰っていった。
今日の売り上げは言うまでもない。
一言メモ【アミュレットさん優しかったなぁ。あの時、彼女には本当に感謝しています。ありがとうございました】モーリス




