二日目4
現れた男は黒を強調とした服装でまさに暗殺者って感じ。
「あの~、ちょっと道に迷っちゃって」
「…………」
無理があるか……そうよね。
床に描かれた転移魔法陣。本で見たことがある。一方通行で一度しか使用できないけど、人や物を移動させることが出来る魔法だ。そんなに遠くへは移動出来ないらしいけど。
追いかけていた男はこれで飛んだんだわ。
「潜むのが上手いわね、姿隠しの呪具でも使ったのかしら?」
「雇い主になんのようだ?」
……む、無視された。
この男、雇われた殺し屋か何かかな?
護身用のナイフ使用する? 勝てるか私?
この危機を脱するために私は生存の効率化を図る。
あ、目眩ましのアイテム持ってくるの忘れた。私ってドジだ~。
「あなたの雇い主とやらに聞きたいことがあるのよ」
「なんだ? 一応聞いてやる」
「本を探しているの。“神がらみ”のね」
「! …………」
ダメ元での問いに私は彼が見せた一瞬の表情の変化を見逃さなかった。
この男、もしかしたら色々と知ってるかも。
でも逃げるのも捕らえるのも困難だわ。どうしよう。
「……ネズミの次は猫か」
「え?」
男の言葉に反応して、私は自分が通って来た道に目をやる。
そこに現れたのは一人の少女。
触れれば簡単に壊れてしまいそうで儚げな佇まい。
白くて長い髪、透明感のある肌、青と黒そして薄紫の動きやすそうなドレス。
とても妖美だわ。無垢な雰囲気もある。人形みたいに可愛らしい師匠に対して、彼女はまるで美術品のような美しさ。
その細くて脆そうな体で振るえるのか疑問に思える身の丈ほどの大剣を片手に、静謐な声で彼女は囁いた。
「……商人さん。あなたに救いの手を差し伸べましょう」
どうして私のことを、どこかで会ってる?
それに彼女のあの眼……。