精霊の森4
「軟弱者め、なっとらんの」
再び森を歩く私に彼女は容赦のない言葉を浴びせる。確かに足取りは重いけど、自分は飛んでるくせに。
……いや、羽を動かして飛ぶのも案外疲れるものなのかもしれない。
しかし、まだかなり歩きそうだぞ。やっぱりお言葉に甘えて温泉に入っとくべきだったかな。
「ったく、ナギルも妖精使いが荒いのじゃ」
「あなたを信頼しているからだと思うけど。そういえば改めて自己紹介しない? 私はアミュレットよ。商人をしているの」
「リコットじゃ」
「よろしくねリコット。あなたはアレかしら? ほら、ピクシーだったっけ?」
『ポカッ!』
「ーーいたッ!」
突然リコットは血相を変えて私の頭を叩いた。
「うつけ者! あのような野蛮で悪戯好きな奴らと一緒にするでないわ。フェアリーでよい。美しいな!」
同じ妖精でも色々と事情があるようで……。
「……すみませんでした」
◇
広い場所にて足を止める、そこで私は目を奪われた。
美しさ、気高さ、恐ろしさが一遍に詰まった場所だ。
「ここには元々集落があったのじゃ」
リコットは少し寂しそうな表情を浮かべながらそう呟いた。
彼女が言うにはその昔、人やエルフがこの森で一緒に住んでいたらしい。
今は誰もいない“戦場跡”になっている。
荒れ果てた広場に散らばるガレキ、無造作に落ちている弓や盾、ほとんど原型を留めていない旅籠。
ここで何があったのかはあえて聞かない。
私は大きな古い石碑を発見した。ほとんど読み取れないけれど石には文字が刻まれている。
「エーキューソ……ウル? どういう意味かしら?」
「遥か昔の遺物じゃ、意味は知らん」
供えるように置かれたティアラ、個性的な銅像、色鮮やかな結晶。
どうやらこの森そのものが聖域のようだ。
自然に任せ、そのままに、手を加えず、そんな森をナギル達は見守り続けているのだろう。
◇
想像以上に長い道のりだったが、なんとか日が暮れる前に森を抜けることができた。
「重畳じゃアミュレットよ。わらわはお主のことが気に入ったぞ」
「なんのこと?」
「この森に対してのお主の姿勢、優しさの話じゃ」
「う~ん? ……私なにもしてないと思うのだけれど」
「あまり気にするでない」
そう言うと彼女は手を差し伸べる。
私はその小さな手に小指で握手を交わし、リコットと別れた。
もちろん再び会おうと約束を交わして。
一言メモ【最近リコットのやつ機嫌がいいな。森の外に興味でも持ったのかねぇ】ナギル