準備3
「ハハハッ、あんた運が悪いわ。この雨じゃ風呂屋に行ってもすぐにびしょ濡れになっちゃうね。とりあえずタオルだよ」
「……あ、ありがとうございます」
イザベラさんは私をお店の中に招き入れると、フワフワの真っ白なタオルを渡してくれた。
私は濡れた髪をタオルで拭きながら、自己紹介と事情を説明する。
「森を抜ける準備ならあたいのとこで済ませばいいし、泊まってもいきな。宿代込みで安くしとくよ」
「本当ですか、それは助かる」
店の片隅に置いてある蓄音機から流れる音楽、とても落ち着いて居心地がいい店内。傍から見たらごちゃついた感じだけど私は好き。
得意先などへの出張が多いらしく、店は工房であり物置でもあるようだ。今日はたまたま店に居たようで、そういう意味では私の運は良い方なんだけどなぁ。
武具を専門にしているのかと思っていたけれど、周囲を見渡すとアイテム調合に使われる容器やビンなどが目に入った。
他にも希少で透明度のある聖水やバジリスクの血、一見すると武具の修理には不要そうな物が多数見受けられるので製造で使うのかな?
武器や防具は……。
壁に立て掛けられた銀製の剣。無駄に散りばめない程度に宝石が埋め込まれ、手間のかかる手法で作られた珠玉の一品だと一目でわかる。
「お目が高いわね、まぁそのへんは自信作だよ。……それにしてもオークションか。そうだ、昔あたいがオークションで競り落としたワイン、せっかくだから開けちゃおう。通な飲み方教えてやるよアミュレット」
「み、未成年です!」
「お堅いねぇ」
それから。イザベラさんは寝床だけでなく、食事も用意してくれた。何から何までありがたい。
ミーチェ茸のミルクソースパスタ。すごく凝った料理である。
彼女も誰かと一緒に食事をするのは久しぶりだったらしく、談笑は実に盛り上がり楽しかった。
◇
快晴の朝を迎え、出発の時。
ローブやナイフを購入し、イザベラさんは私に木製の手作りリングをプレゼントしてくれた。
話すと本当に義理堅い人である。
「それじゃあね。特殊な鉱物、太古の地層で取れた石なんか見つけたら教えてよ。あたいも今度フローディアに寄ることがあったら店に顔を出すからねアミュレット」
「はい、お世話になりましたイザベラさん……」
一言メモ【ジャビスウォーレン。仕事がなけりゃ、あたいも行ったんだけどねぇ】イザベラ